第二十四話 再びギルノディアへ
大変お待たせしました。今回は少し長めです。
ファムデル帝国のお姫様と女騎士さんを助けだしてから1時間ほど経つが二人は目を覚ます様子はない。念のためエレノアに治癒魔法をかけてもらったがそれでも目を覚まさなかった。
「……目、覚まさないな」
「そうですね」
ヨシヒサ達一行は更に歩みを進めギルノディアまで後ニ週間となった。
「もう二日も経つが意識が戻らないな……『万物の再生』、使うか?」
実は万物の再生のことは王都を立ってすぐにリース達全員に話したがその時に効果などを説明したのだが、リースやエレノアから国宝級の秘薬であるエリクサーやドラゴンの血と同等かそれ以上の効果を持つと言われた。
もし国や腹黒い貴族に所持していることが露見したら即、暗殺や誘拐、下手をすれば国家間の戦争が起きかねないと説明されたたため、非常時以外では使用をしない、言葉にしないということを全員に約束させられた。
「ヨシヒサ、それを軽々しく使おうなんて言わないでください。どこで誰が聞いているのかわからないのですから」
リースはムッとした顔になり少し怒っているようだ。そうだな、たしかに軽率な発言だったかもしれない。
「すまない。だけどもしもの時は――」
「「んん……うん……ふぁぁ……ここは……?」」
二日間も寝ていた二人の眠り姫が目を覚ましたようだ。
目を覚ました二人はムクリと上半身を起こし眠たそうに目をこすり周りを見渡す。そして目の前に座るベージュのカーゴパンツ、黒のポロシャツを着たヨシヒサを数秒の間キョトンとした顔で見つめる。
「おはようございますお姫様方」
次の瞬間には二人の悲鳴とパッシィィィィン!という乾いた大きな音と共にヨシヒサの両頬に真っ赤なもみじの葉が落ちた。
「も、申し訳ありません!助けていただいたのに先程の行為、お許し下さい!」
「その……すまなかった……」
パニックになった二人にボッコボコにされたヨシヒサはラシエルに託されリースがどこで覚えたのかチョップで落ち着かせ今はラシエルとエレノアの治癒魔法で回復したヨシヒサに謝罪をしてる。
「ま、まぁ俺は大丈夫ですから。そんなに謝らなくていいですよ。いや本当に」
よくよく考えれば目が覚めて目の前に笑顔の男がいたら普通に誰だって嫌だろうし平手打ちぐらいはかますだろう。流石にその後、グーで殴られるとは予想もしていなかったが。
今にも土下座しそうな感じだったので二人を取り敢えず席に座らせる。そして俺達は向かいの席に座り、改めて自己紹介と救出までの過程、そして今どこに向かっているのかを事細かく説明した。主にリースとラシエルが。
「そうですか……護衛の騎士の方々はルミリア以外駄目でしたか……」
「はい。我々も大急ぎで向かったのですが少し遅かったようでして……部下の方々を助けることが出来ず申し訳ありません」
ルミリアは膝の上で拳を強く握り俯きナタリアは悲しげに目を伏せる。
しばらくするとナタリアはゆっくりとだが何故あんなところに居たのかを喋りだした。
「私達はこの国の慣習で元々国境の近くにある砦や村を視察に来ていたのです。それが終わり、王都へ帰路についたところで襲撃を受けました。わたしは襲撃された直後に大きく揺れた馬車の窓枠に頭を強く打って気を失ってしまいました」
「私は最後の視察地の国境にある村の視察を終え、城塞商業都市ギルノディアを経由して王都アーウェンに向かっていたのだ。私と騎士団長が選抜した精鋭近衛騎士団50人で護衛に当たっていたのだが結果はご覧の有様だよ」
また二人が暗くなり始めたので話題を変えるべく自己紹介をしよう。
「あ、そうだ。自己紹介してなかったししましょうか。俺はヨシヒサ、ちょっと変わった武器を使う冒険者ですよ」
「私はリース・フォン・アステリアです。アステリア王国の第二王女です。以後お見知りおきを」
久しぶりに見たリースの王女様モードをみてたが普段の逞しさを知っていると少し首をかしげてしまう。続けてラシエル、エレノアが続ける。
「私はラシエル・アンダーセン、アステリア王国に召喚された勇者で魔剣士をしています。そこで木を削っているのはアリシア、御者台にいるメイドはエレノアとメルダといいます」
紹介されたにも関わらずアリシアは黙々と結界用の杭を削り続け、メイドさん二人は軽い会釈だけすると再び馬車の操縦に戻る。
「では改めて。私はファムデル帝国第三王女のナタリア・ムルト・ファムデルです。こちらは私の身辺警護を担当してくれている近衛騎士のルミリア、皆さんよろしくお願いします。」
「ルミリアだ。この度は王女殿下を助けてもらいほんとに感謝している」
自己紹介も終わり、暫くするとナタリア王女やルミリアはラシエルやリースとお喋りを始める。お互いに少しとはいえ面識があったこと、同じ王族だということもあってか馴染むのも早かった。
驚いたことにさっきまでだんまりだったアリシアが会話に加わり始め俺は馬車の前の方へ移動する。女性陣の会話……ガールズトークに男が関わるとろくなことがないのは身に染みているので巻き込まれないうちに退避する。
その後、宿営地に到着するまでに何故か料理の話から恋愛話に跳躍し俺がどんな女の子がタイプなのかと問い詰められ、料理ができる女の子と答えるとエレノアやメルダが参戦し街についたら誰が男性を満足させられるかお料理対決をすることに決まったりと火の粉を払うどころか燃えた特大サイズの薪が頭から降って来る羽目になった。
トコトコと一行を乗せた馬車は小さな村落や街を通過してヨシヒサが王族のたくましさを垣間見たり途中で巨大なイノシシと豚を狩って焼肉パーティーをした際に酒を飲んだ女性陣に絡まれて幸い何もなかったが全員が裸になって寝ているのを見てしまったりした。そしてファムデル帝国最初の目的地である城塞商業都市ギルノディアに到着した。
「ふいぃ……やっと着いたか……久し振りだなここも」
「ヨシヒサ様はギルノディアに来たことがあるのですか?」
隣の席に座るファムデル帝国第三王女のナタリアは何故か最初に出会った時のようなドレスではなくグレーのチノパンにカーキ色のミリタリーシャツという服装でいる。靴も高そうなヒールからトレッキングシューズのようなアサルトブーツを履いている。これは全てヨシヒサが召喚したものだ。
因みになぜヨシヒサが軍用ではない衣服を召喚出来るのかというと自称ヨシヒサの守護女神ことカリナが美を司る神様と共謀して服や靴、帽子にスカーフ、日用雑貨まで召喚できる能力を与えたためである。
表向きはミノタウロスをふっ飛ばした際に解禁されたことになっているが、本当の理由は、諸々の調整が終わったのがちょうどミノタウロスを倒したタイミングだけだったからだ。
無論、このことは即、天使達に発覚し美の神様共々2週間に及ぶお説教と溜まりまくった執務を行うという罰が執行された。
「ええ、前に一度だけ来たことがあります」
「しかし、ヨシヒサ様が異世界から来た方だとは……」
何故バレているのかというと、原因は後ろで呑気に銃の分解整備や弾倉に弾を詰めるという作業をしているお嬢様方だ。アリシアとラシエルが酔った勢いで俺の素性をバラし後の恋話でリースが止めを刺したという具合になっている。
ギルノディアへ入る前に余計なトラブルに巻きこまれる事を防ぐために女性陣全員は俺が召喚したヘアゴムでポニーテールやサイドテール、髪を三つ編みにしたりと髪型を変える。するとどうだろうか、ガラッと全員の印象が変わってまるで別人のようになってしまったではないか!
「はい。確認しました、進んでください」
入市審査も無事に終わり俺達を乗せた馬車は大通りを進みドルネのおっさんが経営するドルネケイル防武具店へ向かう。しかしあの衛兵、馬車の荷台に王族二人と勇者や古代竜のお姫様が乗っているなんてしたら驚くだろうなぁ……。
馬車を駐車場的な場所に停め、馬を金属製の杭に繋いでおく。貴重品とかは予めインベントリに入れているし武器を入れた箱は重すぎて盗めない。それ以前に衛兵の詰め所とギルドが近くにあるので車上荒しはあまり心配しなくていいだろう。
馬車を降りた俺達は武器を持ってドルネケイル防武具店へ歩く。路地を2本ほど通り過ぎ、店に到着した。
チリンチリンとドアベルが鳴り、中から前に入った時にはいなかったエプロンをつけた褐色の女の子が出てきた。
「いらっしゃいませ。ようこそドルネケイル防武具店へ!本日は何をお買い求めですか?」
「店主を呼んでもらえるか?」
「店長ですか……?少しお待ち下さい」
元気ハツラツな褐色の女の子は店の奥に行くと久し振りにである口髭をさらに増やしたドワーフのおっさん……ドルネのおっさんが出てきた。
「久し振りだなおっさん。頼んでいた品はできてるか?」
「来たか坊主!ずいぶん遅い到着だったな!ガッハッハ!まぁ来い!注文の品は全て出来て仕上げも終えた。後は本人たちに着せて細かい調整だな」
俺は武器売り場を物色していたお嬢様方を呼び、おっさんの先導で店の奥に入る。そこはどうやら試着室のようで日本の服売り場にあるような板とカーテンに仕切られた小部屋がいくつか用意されていた。
「よし、これがお前さん達に着てもらう鎧だ。坊主が提供してくれたミスリルとヒヒイロカネの合金……ミスロカネ合金とでも呼ぼうか、それをふんだんに使用して素の状態でも最高の物理耐性を有するのはもちろん高対魔法耐性を持っている。それに非常に高い魔導性があって魔力を通すと性能は5、6倍以上になる。その上普通の金属製鎧よりも軽いから動きやすく目障りな金属音も少ない。俺の人生の中で最高の品だぞ!」
ラシエル達は早速ドレスアーマーを装備する。白銀だった鎧は魔力を通したせいなのか薄っすらと青や赤色の光を帯びている。ファンタジーすげぇなおい。
「確かに軽い……ほとんど違和感も感じないですね」
「おほー!」
「旦那様……こんな良い武器を頂いてもよろしいのでしょうか……」
「あわわわわわわ」
「んっ……良いわねこれ」
皆からの反応は上々でエレノアとメルダは一本金貨50枚にぐらいするダガーと俺がデザインしたコンバットナイフを握りしめてワナワナしている。
ラシエルとメルダの二人にはサプライズとしてミスロカネ合金のドレスアーマーを、メルダには同じくミスロカネ製の小ぶりのナイフをプレゼントした。皆満足してくれているようで何よりだ。
全員、おっさんの奥さんにサイズの微調整などをしてもらっている。奥さん、普通に美人なんだが……。
ここにラシエルの鎧が何故あるのかというと、メルダのナイフの注文書と一緒に鎧の注文書を全額前払いで送付しておいたからだ。ナイフの代金は重さの関係で送れなかった。
「全員満足してくれているようだな。さて坊主、お会計の時間だ!三人の鎧は既に全額を受け取っている。お前さんの革鎧はおまけでタダにしてやる!残りのダガー、コンバットナイフ、ショートダガーは一本金貨50枚、それが今回は30本、合計で金貨1500枚だ」
「無理言って悪かったなおっさん。ほれ白金貨150枚だ。っておっさん数えないのか?」
「ガッハッハ!坊主ごときが金を誤魔化すなんて思っちゃいないさ!それに俺は金属を何十年も扱ってんだ!重さで数ぐらいわかる!」
さすが職人、重さだけで金貨の数がわかるとは……。
「しかし、お前さん……しばらく見ないうちにべっぴんさんばかり連れて来ているな……。気をつけないと後ろから刺されちまうぞ?」
「不吉なことを言わんでくれおっさん。こいつらを怒らせたら刺されるどころか消し炭にされちまうよ」
事実、ラシエル、リース、アリシアは魔法の適性がとても高くメルダとエレノアはナイフを使う近距離戦や弓などの遠距離にも対応してる。ラシエル、リース、アリシア程でもないが魔法が上手で風魔法と水魔法に長けている。
彼女達には魔法、剣、ナイフ、弓、そして何より銃があるので逃げるのは不可能だし五体満足で楽になんて死ねないのは王都での『高級娼館未遂事件』で散々味わったのでもう二度と味わいたくない。いや、本当に。
「じゃあ、おっさんありがとうな。俺達はそろそろ行くよ。また来る」
「おう!また来い坊主!作ってほしいものがあったらインゴットとセットで注文書つけて送ってこい!気をつけてな!」
俺用の革鎧も受け取った俺達は店内でお留守番していたルミリアとナタリア王女に声をかけおっさんと店員さんの褐色の女の子に見送られながら店を出る。その時に皆の姿を見たナタリア王女が何故か王都に着いたら自分の鎧姿を見せると息巻き始め、三人の顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。
一行は前にヨシヒサたちが宿泊した月影亭の裏にある厩舎に馬車を置き、チェックインしたのだがあの時と同じお姉さんがフロントにいたがためにルミリアとナタリアが参戦したガールズトークが勃発、またヨシヒサには拒否権はなく全員同じ部屋で寝ることになった。
部屋にはいるとダブルベッドを4つ連結した巨大なベッドがあり、ヨシヒサは宿の手際の良さに呆然とするしか無かった。間違いが起きないことを切に願うばかりである。
(´・ω・`)らんらん♪らんらん♪リアルが忙しすぎてかなり期間が空いちゃった♪
……茶番はここまでにして、皆様大変お待たせしました。少し前の話で鈍亀更新をなんとかしたいと言った癖に動きすらなくなってしまいました……。本当にすみません。
さて、なんと累計PV数が5万5000突破&ユニーク1万超えとなりました。前まで1万超えで狂喜乱舞していた自分が懐かしい……。みなさん本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします!
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