第二十三話 惨劇と救出
あけましておめでとうございます。今年最初の投稿になります。
「あー、またか……どんだけ湧いてくるんだよ」
「げひゃひゃひゃひゃひゃ! おいガキィ! 積み荷と女を置いて失せな!」
王都を出発してから現在6日目、場所はアステリアとファムデル帝国との国境付近なのだがここに来るまでに既に5回ほど山賊に襲撃されその都度、銃弾と魔法で追い払ったり殲滅しているのだがしつこいほど襲撃されている。
「死にたくないなら今のうちに消えたほうが良いぞ」
馬車を囲み剣を手にしている30人ほどの山賊とその首領と思しき奴に警告する。
「はぁ? お前バカか? この数を相手にして無事でいられると思ってんのか?」
話し合いでは解決できそうにないので荷台のリースやラシエル達にいつもどおりの手順……戦闘用意の合図を出し自分もタクニカルスリングでぶら下げているSCAR‐Hを握り安全装置を外す。王都での事件以来街の中以外では常に弾を装填した状態なのでチャージングハンドルは引かなくても問題は無い。
そしてSCAR‐Hを目の前で喚く山賊の首領へ構え最後の警告をする。
「これが最後の警告だ。今すぐ失せろ」
「はっ! そんな棒で何が出来るんだ!見栄っ張りもほどほどにしろよガキ!」
俺は警告したからな……恨むなよ!
馬車の皆も準備ができたらしく取り囲む山賊達に銃口を向ける。
俺が何も言わないのを怖気づいたと思ったのか大笑いしながら山賊の首領は剣を振り上げる。
俺が引き金を引き銃口から飛び出した銃弾は首領の無防備な胸に大きな穴を開ける。
俺の銃声を合図にリース達も次々と発泡し緑に囲まれた山に乾いた銃声と銃撃された哀れな山賊達の悲鳴が響く。
周りを取り囲んでいた山賊はその殆どが撃ち倒され道は死体であふれていた。
「はぁ……全く……しつこすぎだろ」
「しかたがないわよ……こんな豪華な馬車に乗って荷台には可愛い女の子ばかりじゃ狙われもするわよ」
首領の首を新しく召喚した大型のシースナイフで切り取りインベントリに放り込む。これを街のギルドか衛兵の詰め所もしくは検問所に提出すればそれなりの賞金がもらえる。
「しかし……そんなに豪華に見えるかこの馬車?」
「普通の馬車は木製ですしこんな金属でできた馬車なんて伯爵以上の貴族か大商人のお出かけ用でしか使われませんから。当然馬車本体だけでもかなりの値になりますし乗っている人間を人質に身代金も取れるので山賊からしたらごちそうですね」
あらま……通りでよく襲撃されるわけだ……。
全ての死体を道の脇に寄せて火炎魔法で焼却する。でないと魔素でゾンビ化したり下手に骨だけにするとスケルトンになってまた面倒くさいことになってしまうのでしっかり灰になるまで焼く。旅人や冒険者の間での暗黙のルールというやつだ。
「よし、じゃあさっさと国境の検問を抜けてファムデル帝国へ行きますか。エレノア、出していいよ」
「かしこまりました旦那様」
エレノアが手綱を打ち馬車はゆっくりと走り出しさっきまでの銃撃戦なんて無かったかのようなのんびりとした空気が流れる。
今俺達はアステリア王国とファムデル帝国との国境にある検問所に来ている。周りは穀倉地帯とでも言うべきか畑が広がっている。
「そこの馬車止まってください。乗っている方は身分証を出してください」
アステリア王国軍で制式採用されている鎧を着た騎士の人がこちらに駆け寄り身分証の提示をと求めてくる。まぁ、いつものことだ。
全員のギルドカード(メルダも王都でギルドカードを作った)を提示し今まで討伐した山賊の首領の首を渡して賞金をもらい何事も無くゲートを開けてもらう。
ようこそファムデル帝国へ! とアーネスト大陸共通語で書かれた横断幕のかけられたファムデル帝国側の検問を抜けて城塞商業都市ギルノディアへ向かう。
検問を抜けて2時間ほど街道を進んでいると御者台に座るエレノアとメルダがしきりに耳をピクピクさせながら険しい顔をしている。
「エレノア、メルダ、どうした? なにか聞こたのか?」
エレノアは眉をハの字にして困った顔をしていた。
「はい旦那様、先程からメルダがこの先で剣戟音が聞こえるらしいのです。この子は種族的に耳はかなりいいので恐らく間違いないでしょう。どうされますか旦那様?」
剣戟音……もし山賊に襲われているなら助けるべきか……うまく行けば金一封かな?
「よし、助けよう。皆、戦闘用意をしろ! この先で戦闘が起きているらしい。人助けの時間だ!」
「了解。あ、リース、そこのマガジン取ってー」
「はいどうぞ。しかし、最近はやけにこの辺の治安が悪いですね……。前にここを通った時はそうでもなかったのですが」
「皆様、飛ばしますのでご注意を!」
エレノアは手綱を強く打ち現場へ急行する。
くっ! こんなところでオークとオーガの群れに遭遇するとは!しかし、姫様・・はこの私、ファムデル帝国近衛騎士団のルミリアが必ずお守りいたします!
「ボルム! 貴様の火炎魔法でであの豚を火炙りにしてやれ!」
私が指示を出したのはこの近衛騎士団に入団して半年のボルム・クファル、まだ17歳と若いが優秀なやつだ。
「はい! お任せください! 全てを焼き貫き焼き尽くす炎の槍……フレイムスピア!」
「プギィィィィィィィィィ!?」
ボルムの放った炎の槍は飛び出してきたオークを貫き、一瞬で火だるまにする。
その周辺でも私が選抜した近衛騎士団精鋭護衛部隊の騎士が剣や槍、盾を駆使してオークを倒す。だが、オーガはかなり硬く十人で囲んでも中々倒せない。
「ぐあっ!?」
「クソ! ウビニがやられたぞ!」
盾を持っていた騎士の一人がオーガの持つ巨大な曲刀で盾ごと貫かれ薙ぎ払われる。恐らく助からない。埒が明かないと私もオーガの方へ駆け寄るが一瞬何か違和感を覚えた。
おかしい、こいつは普通のオーガと何かが違う……。
そう思い一瞬立ち止まった瞬間、オーガを囲んでいた部下たちが盾も鎧も紙切れのように切り裂かれ胴体は真っ二つになっていた。
一瞬だ。一瞬にして近衛騎士団の中でも実力のある部下たちが一瞬で倒された。
そのことを理解する事はできず私は固まってしまう。まずは姫様の安全の確保だ、こんな危険な場所に居させる訳にはいかない。
少し傾いている馬車の御者は既に襲撃で死んでおり御者台には誰も居なかった。
「隊長! 姫様と一緒に今すぐ逃げてください! ここは我々が死守します!」
ボルムが何人かの騎士とともに巨大な曲刀を持ったオーガへ向かう。
しかし彼らは魔法を放つことも剣をオーガの体に打ち付けることもかなわず新たに現れた魔獣、いや魔物である牛頭の巨人、ミノタウロの振るう棍棒に寄って盾ごと全て薙ぎ払われた。
薙ぎ払われたボルム達の姿は見えない。いや、あの速さで振るわれた棍棒に打ち付けられたのだから命どころか体も原型をとどめているわけがない。
「あっ、あっ、あっ」
部下の血と臓物に濡れた棍棒を片手にこちらに近づいてくるミノタウロスを見て、私は動けなかった。叫び声すらあげられず掠れた声しか出せない。
私は……ここで死ぬのか?姫様も守れず死ぬのか……?
そう思うと膝の震えがひどくなり股間から温かい黄色い液体が漏れだす。
ただ迫ってくるミノタウロスを見上げることしか出来なく、遂にペタリと膝をつく。
ミノタウロスが混棒を振り上げ私を目を閉じる。姫様を信じて託してくれた国王陛下へ心からの謝罪をしながら叩き潰されるのを待つ。
後ろから妙な音が聞こえ閉じていた目を開け、辺りを見回すが音の原因になりそうなものは何もない。燃える荷馬車に死んだ部下の死体、私を殺そうとするミノタウロスと多数のオークやオーガ共の姿だけだ。ふと空を見上げると何か大きな槍のようなものが火を吹きながら落ちてくる。
そしてそれは音を立てながらミノタウロスへ向かって落ちてゆく。
私は突如襲われた猛烈な閃光と腹の底から響くような強烈な爆音と突風で姫様の乗る馬車まで吹き飛ばされドアに体を打ちつけられてしまう。
「うがっ……!? 一体……何が……?」
朦朧とする頭と痛む体を引き起こし起き上がると、目の前に居たはずのミノタウロスの姿はどこにも見えず、かわりに混乱した様子で辺りを見回す曲刀を持ったオークがいた。
オークはこちらに気がついたらしく血走った目で雄叫びをあげながら突進しようとする。だが実際に突進することは無かった。
私は何がなんだか訳がわからなかった。目の前でミノタウロスが謎の爆発に巻き込まれ姿を消し、曲刀を持ったオーガは奇妙な間延びをするような音と共に頭の半分を潰れた果実のようにした状態で棒立ちしている。
そして呆然としていると後ろから黒い馬に引かれた馬車がこちらにやって来た。助けを求めようか……だが、この状況でどうやって? 生き残っている護衛の近衛騎士は私だけ、姫様を守り通せる自信はない。
悩んでいると馬車は姫様の乗る馬車の近くで止まり、荷台から奇妙な斑の柄をした服を着た黒髪の男が降りてきて手には肌色の棒を抱えて未だに棒立ちの生きているオークやオーガに向けてものすごい音を立てながら棒を向けた先にいるオークやオーガを倒している。
取り囲んでいたオークやオーガの群れは馬車から降りた少年少女たちに一瞬にして蹴散らされ馬車の側でへたり込んたでいたルミリアの元に奇妙な斑の柄をした服を着た黒髪の男……ヨシヒサが駆け寄る。
時は遡ること数分前
高倍率の双眼鏡で現場を視認した時には騎士側が不利になっていてそこへ少し前に打ち上げたタブレットの"UAVモニター"のアプリと連動しているRQ‐11Bレイヴン無人航空機のCCDカメラが巨大な牛頭の巨人、ミノタウロスを捕捉した。
向かっている最中もミノタウロスや曲刀を持ったオーガに護衛と思しき騎士たちは蹴散らされあっという間に女騎士一人になってしまった。
これはマズイと思った俺は馬車の荷台に放り込んでいたFGM-148ジャベリン対戦車ミサイルをケースから引っ張りだし、コンピューター部とランチャーを接続して照準用コンピューター起動する。
照準はミノタウロス、モードはトップアタック。ロック完了を伝える電子音が鳴りトリガーを引く。
ガスが抜けるような音と共にミサイルはランチャーから発射されるとロケットモーターに点火しグングンと上昇していく。
高度150メートルまで上昇しロックオンされたターゲット――ミノタウロスを弾頭のシーカーが捕捉、軌道を修正しながら一直線に突き進む。
ヨシヒサが放ったミイサイルはミノタウロスの頭へ直撃し先頭にあるサブ弾頭が炸裂、ミノタウロスの頑丈な頭皮と頭蓋骨を粉砕し続いてメイン弾頭が炸裂する。
合計8.4Kgのタンデム成形炸薬弾が炸裂しミノタウロスは胸から上を吹き飛ばされた。
そして爆炎と煙の向こうに曲刀を持ち上げ今にもルミリアへ突進をしようとしていたオーガを見つけたヨシヒサはメルダに馬車の操縦を変わってもらいエレノアにAWS338でオーガを狙撃するように指示を出したのだ。
結果、エレノアの放った338ラプアマグナム弾はオーガの頭蓋骨の半分をザクロのように飛び散らせた。
「ヨシヒサ、周辺の確認は終わりましたよ」
「旦那様、直ちに遺体を片付けてこの場を離れることを進言します」
リースの確認の完了報告とエレノアの進言を受けてヨシヒサは頷くと傾いた箱馬車に駆け寄り中に人を発見する。箱馬車の中にいたのは少女で気絶はしているが綺麗な金髪ロングストレートでドレスを着ており頭にはティアラがあった。
もう一人は呆然として固まったままの赤毛の整った顔立ちの女騎士――ルミリアだった。
ヨシヒサはアリシアに指示を出し二人を担いで馬車に乗せる。
レイヴンを回収し戦死した騎士の亡骸とオークやオーガの死体をリースの火炎魔法で焼却させ胸から上が消し飛んだミノタウロスはヨシヒサのインベントリに放り込まれた。残念ながら箱馬車は前輪の車軸がバッキリ折れていて使い物にならず放棄することになった。
そして一行は何もなかったかのように大急ぎで現場を離れた。
「でだ、この人達誰だか知っている人いる?」
俺達は先程の虐殺現場から助けだした二人をどう扱ったら良いのか困っている。
一人は服装からしてお姫様だというのはわかるが、どこのお姫様なのかが分からない。もう一人の赤毛の女騎士さんは馬車に乗せてしばらくした後再起動したのだが、辺りを見回した途端気絶したので座席で寝かせている。
「多分……ですけど、この子ファムデル帝国の王女だったと思います。確か第三王女だったはずです」
リースの発言で荷台の空気がピシリと固まる。
「り、リースさん……?それは本当でしょうか……?」
俺はリースに確認を取ると彼女は眠ってるお姫様の顔を何度も見て頷いている。
「ええ、間違いありません。この子の名前はナタリア・ムルト・ファムデル、帝国第三王女です。何年か前の王城で開かれたパーティーで顔を合わせているので覚えています」
「えーとだな、つまりはこの国の王女様を助けちゃったわけ?」
「ですね」
リースのこの言葉により俺達は目的地をファムデル帝国の帝都リカーンに変更することになった。もっとも、ギルノディアに行くのは変わらないが。
改めてあけましておめでとうございます!本年度も成り損ない勇者の異世界銃奏乱舞をよろしくお願いします!




