第十八話 買い物、王都と事件 前編
お待たせしました。
書いてたら予想以上に長くなってしまい前・中・後編に分割することになりました。それでも割と長くなった……orz
※今回は比較的残酷な描写があるのでご注意ください
今俺はフル装備で愛銃のSCAR-Hを抱えて深夜の草原を走っている。
事の発端は簡単に対処できるような事だった。今思い返せばあの時、躊躇しなければこんなことにはならなかったのかもしれない。森に転移した時に決意したはずなのに、平和な日常が続いたせいですっかり頭から抜け落ちていた。だが、悔やんでいてもしょうがない。今は自分がやるべきことをするだけだ。
深夜の月明かりに照らされた草原には森へ走っていく戦闘服姿の少年の後ろ姿が淡く照らされるのみ。
「朝か……」
未だに慣れない天蓋付きベッドから身を起こして机の上においてあるインベントリから出した新しいマルチカム迷彩の戦闘服とズボンに着替える。
今日はリース達と約束していた王都での買い物の日だ。一様旅に出る際に必要になる水や保存食、タオルなどを調達するのが目的だが、恐らくウィンドウショッピングになるのは目に見えているので多めにお金を入れた巾着をボディーアーマーに装着するポーチに入れる。装備もいつものインターセプターボディーアーマーではなく、CIRASと呼ばれるボディーアーマーに変更した。それ以外はいつもどおりだ。
インターセプターボディーアーマーは蒸れるんだよね……。
一通り装備を整えて廊下に出てメイドさん案内の元、王城の正門まで行く。
そこには普段はドレスや鎧に身を包んで魔法や剣を振り回す女の子達ではなく、色取り取りのワンピースや服に包んだ美少女たちとメイドさんがいた。
「お待たせ」
声をかけるとリース達は一斉に振り返り俺の全身をジロジロ見るような感じで見てきた。
「あの、ヨシヒサ……お出かけの時でもそんな格好なのですか?」
「ヨシヒサさんはオシャレはしないのですか?」
「ヨシヒサ、流石にオフの日に迷彩服はないでしょ。普通に考えて」
「旦那様、必要であれば今すぐ新しい服を買ってまいりますが」
評価は散々である。いいもん! これが俺の一張羅だし! というかエレノアさん、あなたも仕事服のメイド服じゃないですか……。
「これはメイドにとって誇りであり仕事服であり私服でございます。旦那様」
そ、そうですか……。
オシャレに着飾った美少女達の後ろをトボトボと歩くと無性にだが泣きたくなる。
王都は4重の城壁を守られていてい第一城壁内は貧民街と庶民向けの商店、各ギルドの本部施設などが集まっている。第二城壁内は一般向けの宿と庶民街が広がっている。第三城壁内は高級娼館や高級な武器や防具などを扱う商店、高級宿が、第四城壁は王城と貴族の屋敷が広がる貴族街と騎士団の駐屯地が存在する。
外から王都に入る際のみ身分証の確認があるが第二城壁へ出入りする際は特に門での検問等はないが第三城壁からは身分証の確認が、第四城壁では許可証と身分証の提示が求められ場合によっては荷物をチェックされる。
まぁ、国の長と重鎮が住み集まる場所だしこのぐらいの対テロ対策は当たり前だろう。
城壁は大体15mから20m前後の高さで城塞商業都市ギルノディアの城壁より少し高い程度だが、防衛設備はギルノディアの比ではない。大型のバリスタをはじめとする防衛兵器の質も量も段違いだ。
徒歩で40分ほどリース達と雑談しながら第二城壁を超えると門の周辺では露店が多く広がり、焼き鳥やフライドチキン、ナゲット、唐揚げモドキが売られ、いい匂いがしている。
「ヨシヒサ!あの鳥の串焼きを食べましょう!」
「お、おう……」
大はしゃぎするリースに腕を惹かれ、串焼きを売っている屋台へ行く。
「すみません、串焼きを5本ください」
「あいよ、銅貨10枚だ」
銅貨10枚をサイラスの装着しているポーチに仕舞っている巾着から出して店主に渡して串焼きを受け取る。
串焼きの見た目はネギなしの焼き鳥だが、かかってるのは普通のタレではなく塩コショウのタレで少しレモン果汁がかけられていてすっきりした味わいだ。脂のとろとろ具合も丁度いい。
その後もミックスジュースやお好み焼きモドキを買い食いし、丁度お腹が膨れた当たりで旅人や冒険者、商人向けの道具などをメインに扱っている市場や商店が集まる地区に到着した。
「でだ、今から買うのは外用の外套、水、保存食、剣や鎧のメンテナンスツール、馬車で使う照明用の魔鉱石、タオル類、ポーション類でいいな?」
「大体はそうですね」
リースはメモ用紙に目を通して地図とにらめっこ中だ。
「ヨシヒサ、悪いけど荷物持ちの方、よろしく」
「あいよー。思ったんだが、もし俺がインベントリを持ってなかったらどうする気だったんだ?」
素朴な疑問に答えてくれたのは我らが金髪エルフメイドのエレノアだ。
「そうですね、大体は専門の業者が奴隷等を使って客の馬車や宿泊先まで配達したりします。というか旦那様が規格外なだけかと」
うう……気にしてるのに……。
その後4時間も時間をかけて市場や商店を駆け巡り灰色の地味だが丈夫な外套を人数分、真水を樽4個、無地の木綿製タオルを30枚、塩漬けの干し肉40kg、岩塩、乾燥魔法で乾燥させた野菜、ドライフルーツなど合せて100kg近い荷物を分類しながらインベントリに収納していく。
それ以外にもガラスの小瓶にわけられたヒールポーション、マナポーションを各100本ほど購入して慎重に収納する。
魔鉱石はダース単位で売っていたので取り敢えず3ダースを購入しメンテナンス用の砥石や血脂を拭き取るための紙も購入する。今回の支出、金貨38枚、大銀貨25枚なり、リース達が値段交渉してくれたおかげで大体元値の半額近くで購入できた。
「よし、これで終わりか」
「そうですね、これで終わりです」
リースはメモに斜線を引いて懐にしまうとさきほどドライフルーツ店の店主に貰ったドライオレンジをかじりながら俺の右腕に抱きついてくる。
「~~~♪」
何故王女のリースがここにいても騒がれないのかというと王都の市場や商店には偶に変装した王妃様を筆頭にや王族が遊びに来るのでみんな慣れてしまったらしい。流石に第一城壁内の方まで無変装で来ることは珍しいことらしいが。
「お、おい! あまりひっつくな!」
「どうしてですか?嬉しくないのですか?」
「い、いや、そうじゃなくてだな」
正直、服越しにリースの柔らかい部分が当たって嬉しいのだが、後ろで主に男共の殺気と嫉妬に満ちた視線が背中に刺さりまくるのであまり喜んでいられない。
そしてラシエルやアリシア、エレノアの冷たい視線と共に物理的教育をされるのではと三人に顔を向けると、三人とも特に気にしていないようでアクセサリーショップで髪飾りやネックレスを吟味している。エレノアだけは少し困った顔をしている。
リースに抱きつかれたまま三人の元に行くとどうやら決まったらしく緑の葉っぱ形の髪飾りや耳飾りを会計に出していた。ま、お金を払うのは男の甲斐性というやつなのだろう。
「どうかしらヨシヒサ!」
「おお、似合ってる似合ってる」
「そう! それは良かった!」
はっ! 惚れ惚れするような笑顔のラシエルの笑顔に見惚れて一瞬ボーッとしてしまった。
三人は各々好きな髪飾りをつけて見せてくる。
「うん。みんなよく似あってる。エレノアなんかその耳飾りがとても似合ってるよ」
「申し訳ありません旦那様・・・奴隷でメイドの分際でこのような良い物を頂いてしまい……私は……私は……っ!」
真っ赤になって半泣きになったエレノアの頭をなでてなだめる。
「エレノアはただの奴隷じゃない。大事な仲間だなんだからそういうことを言うもんじゃない。困ったらいつでも俺や仲間を頼れ、いいな?」
「そうですよエレノア、私達は同じパーティーの仲間なんですからもっと頼って遠慮なんてしないでください!」
ナイスアリシア!
まだ多少えぐえぐ言っているが落ち着いた様子のエレノアは涙を拭いて一旦俺から離れた。
「改めてよろしくお願いします。旦那様、お嬢様方。このエレノア・ターネンベルク、誠心誠意尽くしご奉仕させていただきます!」
輝くような笑顔で礼をしたエレノアを見て俺の煩悩が棺桶をぶちぬいて飛び出してきたが、すかさず理性がM60で蜂の巣にして火炎放射器で火だるまにする。容赦ねえな俺の理性・・・。いやガッツポーズしなくても良いよ。
王都の一番外側をを守る第一城壁にある王都への4つの門のうちの一つの近くに俺達は来ている。
「ここが門か……デカイな」
10m位ある城門を見上げながらつぶやくとリースやラシエルがどんなふうにこの城壁や王都が作られたのかを教えてくれた。
最初に王都が出来た頃は第四城壁までしかなかったそうだ。そして数々の戦乱や十数年に一度起こる魔獣の"津波"により大きな被害が出るたびに城壁が増やされたそうだ。
一度王都の外側から城壁を見てみようということで門から外へ出て少し街道を歩いて振り返ると城壁は夕日に照らされ中から見た時とまた違って見えた。
そろそろ戻ろうかということで門の方へ歩き出すと前から大型の馬車が近づいてきた。
轢かれないように道の端に寄り馬車をやり過ごそうとするが馬車がいきなり目の前で停車した。
そして荷台から汚らしい盗賊風の男達が4人程剣やナイフを片手に飛び降りてきた。
「なっ! ぐっ!」
「テメエはおとなしく寝ときな!」
リーダーと思しき男の持つ剣の柄で頭を殴られ意識が一瞬飛ぶ。
「は、離しなさい!私を誰だと思って・・!」
「ヨシヒサ! 大丈夫!? っ! 近づかないで!」
「ヨシヒサさん!」
「旦那様! つっ! この無礼者! この方々を誰と思っての狼藉ですか!」
今日はお出かけということで俺以外誰も武装していなかったせいでリースやラシエルの魔法詠唱も間に合わずアリシアとエレノアはろくな抵抗も出来ないで、首に首輪のようなものをつけられて拘束される。
首輪をつけられた4人は突然力が抜けたように崩れ落ち、そして男達に担がれて馬車の方へ連れて行かれる。
「くっそがあああああ!」
痛む頭を左右に振ってタクニカルスリングで右腰の部分に下げていたSCAR‐Hの折り畳んでいたストックを展開してチャージングハンドルを引いて安全装置を解除する。そしてフォワグリップを握りマグニファイアで倍率を上げたホロサイトを覗き込み照準をリースを担いでいた男の頭に照準を合わせトリガーを引く。
パン!と重く大きな銃声を発し銃口から飛び出した7.62mm×51FMJ弾が毎秒833mの速さで男の頭へ突き進む。
ドガッ!と鈍い着弾音を立てリースを担いでいた男は脳幹を吹き飛ばされてうつ伏せに倒れる。そして俺は間を開けずアリシアを担いでいた大ぶりのカットラスを持っている男の額に照準を合せトリガーを引く。
パン!と再び重く大きな銃声を出しアリシアを担いでいた男は銃声に驚いたのかこっちを振り向くと額に大穴を開けて仰向けに地面に倒れた。
馬車の荷台の方から仲間がいたのか更に盗賊風の男達が10人ほど出てきて下卑た笑いで剣などを抜いてきた。
「ガキぃ! よくもバムとブムを殺ってくれたな! お前ら! あのガキは魔術師だ! 数で押せばいけるぞ! 身ぐるみを剥いで切り刻んじまえ!」
リーダーの男が叫び男達が一斉に殺到してきた。
だが、不思議な事に俺は混乱することもなく急に頭がクリアになり剣を持って殺到してくる男達の頭や胴体に照準を合せトリガーを引いた。
パン! パパン! パパン! パン! パン! パン! パン! パン!パン! パン! 乾いた銃声と強い反動を肩に受けながら一人を撃ったらその隣の一人をと流れるように男達の上半身や頭部に照準を合せトリガーを引いていく。
革鎧は安々と貫通され着弾の衝撃で男達は後ろへなぎ倒される。
「くっ、くそ! なんだってんだあいつは! おい前ら!逃げるぞ早くしろ!」
リーダーの男が声を張り上げエレノアとラシエルを担いでいた男達が馬車の方へ駆け寄る。
逃がすか!
ラシエルを担いでいた男に照準を合わせようとするとエレノア担いでいた男がエレノア盾にしやがった。
男とエレノアの隙間を狙ってトリガーを引く。
パン! と乾いた銃声が呻き声と薬莢同士がぶつかり合う金属音に混ざり響く。
「ぐあ!?」
弾が当たったのは二人を担いでいた男達ではなく馬車の荷台で声を張り上げていたリーダーの男の肩だった。
突然銃声が途切れ金属音が鳴る。
御者か馬を狙うが中々当たらずマガジン内の弾が切れたのだ。
マガジンキャッチボタンを押して弾の無くなったマガジンを外してサイラスに装着しているマガジンポーチから新しいマガジンを引き抜いて銃に差し込む。
そして銃の左側面にあるボルトリリースボタンを叩いて薬室に弾丸を送る。
男達が乗り込み走りだした馬車に照準を合わせるが撃てなかった。今撃てば二人に当たるんじゃないかという疑念が頭を駆け巡り指が震えてトリガーを引く事ができなかった。
くそ! 動けよ! ただトリガーを引けば良いんだよ! くそくそくそくそ!
そうこうしているうちに馬車は速度を増し、走っていった。
銃を下ろしてリースとアリシアを男の死体から引きずり出し、道の側に寝かせた。二人は意識を失っているようだが、特に怪我などはないようだ。
タブレットの新スキル『解析・解除』を使い、首輪を外す。それに、今からやることを見せたくはない。
俺はホルスターからHK45を引き抜いて安全装置を外してスライドを引き弾を込める。
そして重症だがまだ息のある数名の男達の元へ行く。
「う……ぐう……」
「ぐ……ば、化物……!」
「く、来るな!」
「あぐ……」
生き残りは喋れるやつを含めて6人、内2人は虫の息で使えそうにない。 パン! パン! と。
瀕死の二人の頭に45口径弾を叩き込み止めを刺す。
俺は喋れる4人の内、比較的まだ軽症な奴のところに行き屈みこむ。聞きたいことはたくさんある。
うう……想定以上に長くなってしまいました。本来ならもう少しスリムにまとめるつもりだったのになぁ……どうしてこうなった!
今回は前編・中編・後編を一気に投稿します。
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