第十五話 帰還、再会と連行
お待たせしました。
城塞商業都市ギルノディアを出発して2時間、比較的落ち着きを取り戻し真っ暗な眼下の景色と星空に見とれているエレノアとアリシア、そして隣の席でヘルメットを被ったまま器用に寝ているリース。
現在時刻午後8時を少し過ぎたところだが、流石のヘリコプターというべきか馬車だと1、2ヶ月掛かる王都までの道のりを残すところ1時間といったところまで縮めている。
「むにゃ……妾は4人までですよヨシヒサ……」
なんという寝言を言っているんだこの子は。と言うか4人までなら良いんだ。
しばらく飛んでいると殆ど何も移していなかったヘルメットの暗視装着が多数の光源を補足した。
「うおっ……まぶし!」
暗視装置をオフにしてバイザーを上げると懐かし……とは言わないが20m以上ある4重の城壁に囲まれたリースの実家があるアステリア王国王都オーエンが魔鉱石の明かりに照らされていた。
眠りこけてたリースを起こして最終確認をとる。
「それでリース、本当に良いのか?」
「ふぁぁぁぁ……んっ、ええ、構いません。英雄はド派手に登場するのが定石ですよ」
欠伸をしながらとんでもないことをいう王女様に戦慄する。
「それでもヘリで直接王城の中庭に乗り付けるなんて普通しないだろ」
「旦那様言う通りですよリース様。下手をしなくても城の衛兵に殺されちゃいます。そんなことはさせませんが」
「まぁ、その時は私がヨシヒサさんを守りますからねー」
なんかアリシアの口調が変わっているような気がするが気にしないでおこう。さて、既に王都を守る4つの城壁のうち、3つ目を越えてもうすぐ王城に到達する。
「さて、腕の見せ所ですかね」
中庭は50m四方の円形なので進入までは楽なんだが、そこから安定して着陸させることができるかと言うとそうでもない。なにしろ足元に人が飛び出てこないとも限らないし、何もないヘリポートではなく周辺には花壇やらテーブルやら噴水とかがあるからそれを避けて着陸する必要がある。
本来なら地上に誘導員がいてくれたらベストなんだが、ないものねだりは出来ない。ここは腹をくくって行くしかないな。
「着陸するぞ!」
私、ラシエルは2時間ほど前に届いたヨシヒサからの手紙を読んでいる。内容的には当り障りのないといった感じね。すぐに帰ると書いてあったから本当にすぐに帰ってくるのかもしれない。
やっぱり最後の一文が効いたのかしら?まぁ、帰ってきたら色々と……フフフフ……ん?この気配と感覚は……まさか!
「ラシエルちゃん?どうかしたの?」
この声の主はあの迷宮事件で私と一緒のパーティーにいてそれ以降も仲良くしているヨシヒサと同じ世界から来た山谷琴音ちゃんだ。
「え?ううんなんでもない。ただ、なんとなく私の直感がヨシヒサがここに近づいているって感じただけ」
「村井君がここへ……?それ本当?」
「うん。ちょっと行ってくる!」
「え、あちょっと!ラシエルちゃん!」
私は壁に立てかけてある片手剣を腰のベルトに装備して一目散に部屋を出て廊下を走る。待ってなさいヨシヒサ!
王城の中庭付近上空に入ると当然のごとく完全武装の上で殺気を出しまくっている衛兵がわんさかと出てきた。その中には近衛騎士団の相変わらず筋肉ムキムキマッチョな団長であるバレスト団長が5m位ある大剣を片手に出てきている。
「おおう、皆さんお揃いのようで……これ、外に出たら串刺しにされるんじゃね?」
一様ヘリには武装としてキャビンの両サイドにM134ミニガンと機体の両側面にロケットポッドを装備しているが、あの団長相手には不足かも知れない。
「大丈夫ですよ、ヨシヒサ。あなたは私を無傷で王城へ帰還させた英雄、彼らが無礼なことをしようものなら私自ら殲滅して差し上げます」
「英雄ねぇ……というか殲滅とかしなくていいから」
相変わらず物騒なリースは座席の横に立てかけていた剣を腰につけてヘルメットを脱ぐ。ヘルメットを脱いだ時にふわりと女の子特有のいい匂いがしたのは内緒だ。
そして俺はなんとか花壇や噴水を傷つけずダウンウォッシュで多少庭の芝生が悲惨なことになったので庭師の人に心の中で謝りつつ中庭の入り口から半円形に布陣する衛兵に対しヘリの右側面を見せる形で着陸させた。
「よし、着陸した。シートベルト外して荷物をおろしてくれ、それから衛兵の人たちをあまり刺激するなよ」
「承知しました旦那様」
「はーい」
「さて、参りましょうか」
俺もヘルメットを脱いで座席の横に仕舞っていた愛銃のSCAR-Hを取り出す。念の為に安全装置を掛けたままチャージングハンドルを引いて薬室に弾を込めておく。
リースと俺がドアを開けて出ると衛兵の人たちは槍と盾を構えたままビクッ!としている。すると半包囲している陣の入り口側からバレスト団長が出てきた。
「賊たちよ!ここをどこだと心得ている!ここはアステリア王国の王が住まいし王城であるぞ!直ちに武装を解除して投降せよ!」
バレスト団長が大声で俺達に投降を促してくる。だが、アリシアとエレノアは城壁側のキャビンから荷物を降ろしているし俺とリースはお互いの服装に変なところがないか確認するために素早く機体の裏に移動したから、まだ誰かは気が付かれていないはず。
そして確認が終わってまず先頭はリース、その後ろには俺、アリシア、エレノアという順で団長の方へ歩いて行く。
「繰り返す!賊共よ!直ちに武装を解除して投降せよ!これが最後の警告だ!無視するようであれば容赦はせんぞ!」
バレスト団長は相変わらず大きな声で怒鳴っている。そして殺気が満ちた中庭に澄んだリースの声が響く。
「あらバレスト団長、私達を賊扱いなんて。私達はただ自分の住む家に帰ってきただけなのに随分な扱いですね」
ザワワッ!ザワワッ!と喧騒が広がる。
「なっ、その声はもしやリース王女殿下!?」
バレスト団長の驚きの声に衛兵の人たちが更にざわわめき始める。
「ええそうですよ。私はステリア王国第二王女リース・フォン・アステリアです」
リースがそう言った瞬間バレスト団長を筆頭に半包囲していた衛兵の人たちが一斉に跪いた。
「こ、これは失礼いたしましたリース王女殿下!無事のご帰還、お喜び申し上げます!」
跪いたまま脂汗で小さく水溜りを作るバレスト団長。膝も若干震えているようで鎧と鎧の隙間が震えでカチカチと金属音を立てている。
「お勤めご苦労さま、バレスト団長。貴方達は規定に従って迅速に対応をしたまでですから逆に褒めるべき点ですね。皆さん立ってください。私、第二王女リースは只今を持って王城に無事帰還したことを宣言します!」
リースに促されて立ち上がった衛兵の人たちは何故か半泣きでリース王女殿下万歳!国王陛下万歳!アステリア王国万歳!と万歳三唱している。ええい、暑苦しい!
リースの独壇場だったために完全に空気だった俺とアリシアとエレノアは苦笑いしか出なかった。改めてリースが王女様なんだなぁ・・・と実感した。
場が落ち着きはじめて中庭に出てきた衛兵の人たちも元の持ち場に戻り始め、俺は王城の中庭にヘリで直接乗り付けるなんていう元の世界でもやったら問答無用の刑務所行き待ったなしの事をしでかしたためこちらに近づいてくるバレスト団長に何をされるのか内心ヒヤヒヤしている。
「ヨシヒサ殿……」
「は、はい!」
「よくぞ王女殿下を無事に城まで連れ帰ってきてくれた。礼を言う」
「え」
叱責が飛んで来るのかと身構えていたがお礼を言われるとは思わなかった。リースを危険に晒したのは間違いないしぶん殴られるぐらいは覚悟していたのだが。
「自分は約束とパーティーのリーダーとして役目を果たしたまでです。」
「いや、約束やリーダーとして役目だけでメンバー全員を無事に帰還させることが出来たのではない。王女殿下や他のメンバーの信頼を得て、協力してこ成し遂げられたことだ。誇りに思っていい。そしてそれを一生忘れないことだ」
「はい!」
改めて団長と握手をしてこれにて一件落着、とはいかないようだ……。
「ヨシヒサァ~?」
ひっ
今この場で一番会いたくない人物第一位のラシエルの声が聞こえた気がする。きっと気のせいだ。キノセイダヨネ?
背後から包むように襲ってくるオーラにすぐに振り返ることができず油の切れたロボットのようにカクカクとした動きで背後を振り返る。
「おかえりなさいヨシヒサ。随分お早いお着きでしたね?それに女の子も増えているし……」
「た、ただいま……。そ、そのだな、遅くなってごめん!お詫びになんでも……あっ」
やばい、今超がつくレベルで余計なこと言った気がする。ほら、ラシエル様が超絶笑顔に変わっているし……。
「今、何でもって言ったよね?言ったよね?」
「そ、それは言葉の綾と言うもので」
「言 っ た よ ね ?」
「はい……」
迫力満点小さな子が見たら泣き出しそうなオーラが出てるし。近くにいた衛兵のお姉さんとお兄さん達は無表情でガタガタ震えているし……。逃げちゃ……ダメかな?
「じゃあ、ちょっと今から私の部屋に行きましょうか」
「えっ、何するつもり?」
「何って……フフフフ、それは後でのお楽しみ」
ガシッ
いつの間にか背後に回っていたラシエルに右腕を拘束され引きずられるように連行される。ヘリは既格納庫に収納してしまって逃げる手段には使えない。リース!リースならきっと!
「リース王女殿下、ヨシヒサをしばらくお借りしても?」
団長と少し話していたリースはラシエルの声で振り向き、少し思案顔をして無慈悲な一言を放った。
「ええ、構いませんよ。私は父様……国王陛下に帰還の報告をしないといけないので。それからラシエル、私のことはリースと呼んでください。それとまだ、食べちゃダメですよ」
み、見捨てられた!というか食べるって何!丸焼きにでもされるの!?二人共なんで若干顔を赤らめて笑顔で睨み合いをしているの!怖いよ!
「大丈夫ですよリース。大事なところはとっておきますから」
「では安心ですね。それでは私はお先に失礼します」
二人の交渉は成立したらしくラシエルが笑顔で腕を掴む力を強めてきた。
「じゃ、行きましょうか」
イヤァァァァァァァァ!離してェェェェェェ!
拘束を抜けだそうと必死の抵抗を続けるも抜けることかなわず悲鳴を上げながら王城の中へ刑務所へ収監される重犯罪者のごとく連行されていくのであった。因みに無表情で震えていた衛兵の人たちは俺が連行されていく時に同情的な顔と視線を出しながら最敬礼で見送ってきた。敬礼はいいから助けて!
さて、いかがだったでしょうか?本部で第二章は完結となりますが、次章から作者にすら完全に忘れ去られていた方々や新しく装備などが登場します。ご期待ください!
そしてブックマークや感想など、本当に有難うございます。感想以外にも誤字・脱字報告なども大歓迎ですのでよろしくお願いします。




