【紅12】食べて食べられる
R15です。苦手な方はご注意ください。
「それで? どうして里中の部屋にいたんだ。説明してもらおうか」
ようやく部屋に戻れたと思ったのに、今度はコウからの尋問が待っていた。
現在私は、床に正座させられて反省を促されている。
コウはベッドのふちに腰掛けて、足を組んで不機嫌な顔をしていた。
被害者は私だし、薬を飲まされたことによる体の異変は継続中だというのに、コウは容赦してくれるつもりはないらしい。
カズマは本日、壱番隊の宿直室に泊まりだという事で、庇ってくれる味方も期待できない。
「俺は言ったよな。俺以外の男には近づくなって。なのになんで俺が忙しくしてる間に里中と風呂入って、色んなところを洗われて。しかも媚薬盛られてるってどういうことだ」
「……里中が女だと思って、油断してたんだ」
「言い訳は聞きたくねぇな」
説明しろと言ったのはコウなのに、聞く耳を持ってくれない。
黒鬼の件でイライラしてるところに、トドメを刺してしまったらしい。
「なぁ、俺への答えを焦らしておいてそれはないだろ。こっちはずっとおあずけ食らってるのに、他のやつに奪われるところだったんだ」
ベッドから降りて、コウがしゃがむ。
視線を合わせてくるコウの声は低く、怒りを押し殺していると分かる。
金の瞳がギラギラとした光を持って、私を見ていた。
「んっ!」
コウの指が頬に触れただけ。
それだけなのに、疼くような感覚が体に走る。
じっと私を見つめながら、コウはそのまま耳を撫で、首筋を撫でてくる。
むず痒くて、見られてるのが恥ずかしくて。
腹の奥が――熱くなる。
「わかってるとは思うが、里中とトワが恋人だったという事実はない。アイツは狸だからな。嘘と笑顔で人を丸めこむのが得意なんだ。昔からお前はあいつに騙されて、いいように遊ばれてた。なぁシュカ、お前は里中と恋人になりたかったのか?」
「そんなわけないだろう。ちゃんと……断った」
何でそんな意地悪を言うんだと、涙目で睨む。
「本当か?」
「当たり前だ。恋人と言われて、私の隣にいるのはコウ以外思いつかなかった。コウにいやらしく触れられるのはよくても、里中のは嫌だったんだ」
コウは疑り深い。
わかってくれないのが不満でむっとして言葉にすれば、コウの瞳が大きく見開かれる。
「……それは俺なら恋人にしてもいいってことか?」
口にしてから、しまったと思う。
これではまるで、コウが好きだと言ってるみたいだ。
気付けば顔が赤くなった。
「シュカ」
甘く優しく、コウが名前を呼ぶ。
唇に指を這わせてくる。
それだけでぞくぞくとした気持ちよさが、体中に走った。
「触れるな。なんか、変な気分に……なる」
「へぇ、里中が体に触れるのはよくて、俺は駄目なのか?」
「駄目だ。コウに触られると、気持ちよくて……頭がおかしくなる」
駄目だと言ったのにコウはニヤニヤと笑いながら、敏感になってる肌に触れてくる。
「なんで俺に触られると気持ちいいんだ?」
耳元で囁かないで欲しい。
コウの声が腰の辺りにジンとくる。
「それは……んぅ、媚薬が……」
「ちゃんと考えろシュカ。里中に触れられるのと、俺に触れられるのは同じか?」
そんなわけはない。
コウに触れられるのは嫌じゃないし、心地いい。
大きな手が服の上から背中をなぞる。ただ撫でられているだけなのに、たまらない気持ちになった。
「同じじゃ、ない。触られるのは、コウがいい。コウじゃなきゃ嫌だ」
優しく丁寧に撫でられるたびに、体の内側から何かがあふれ出てくるのがわかった。
行き場のない熱が体の中に溜まって、疼く。どうにかなってしまいそうで。
「ん……ふ、あぁ……コウっ」
気持ちよすぎて、声が出るのを抑えられない。
「なぁ、それはどうしてだ? ちゃんと言葉にしろ」
ここまで言ったのに、その先をコウは言わそうとする。
恥ずかしくて躊躇えば、ふいにコウが触れるのをやめた。
「あ……」
その手が離れて行く瞬間に、いかないでというような声が漏れたことに自分でも驚く。
はしたないと顔を赤くすれば、コウが意地悪な顔をする。
黙っていればまた触ってくれるんじゃないかと思ったのに、コウは私を見つめるだけだ。
その視線だけでも熱く高ぶっていく体が嫌になる。これでは私が変態みたいじゃないかと、泣きたくなった。
「コウ、もう……どうにかしてくれ。苦しい」
「ちゃんと言えたら、どうにかしてやる。言えよ」
じっとコウは待っている。
いつも私が知ってるコウとは少し違う顔。
獰猛でギラギラとした目と、野生の獣を思わせる雰囲気。こういう時のコウは意地悪だ。
「コウが好き、だ。だから……もっと触れてくれ」
大きな手をとって、自分の体に導きながら口にする。
言った側から羞恥心が襲ってきて、なんてことを言ってるんだと消えたくなった。
でもコウは嬉しそうに笑って、よくできましたと言うように私の後頭部に手を添え、口付けをしてくる。
唇を舐められ食まれ。
体を触られていたときよりも満たされるのを感じる。
なのに、くらくらとしてきたところで、思いっきり舌を噛まれた。
「ん、痛っ!」
舌から血が出たのか、血の味がする。
自分の味はそれほど美味しくなかった。
「なんで、コウ……?」
優しく舐め上げられていたところへのこの仕打ちに、思わず涙目になって問いかける。
離れたコウの顔は怒っていた。
先ほど機嫌を直してくれたと思ったのに。
「なぁ、なんで唇から俺以外の血の味がするんだ?」
そう言えば唇に里中の血を塗られたことを思い出す。
嗜虐的な光が、コウの瞳に宿っていた。
「それは……里中に無理やり血を飲まされて」
「無理やり、ね? どうせ途中から自分でねだったんだろ。シュカは浮気性だからな」
血をもっとと思ったことは事実だ。
責めるような言葉とともに、指先を食まれた。
歯を立てられて痛みが滲む。
ねっとりと舌で血をすくわれて、また再度歯を立てられた。
血を出せというように舌が指に絡んできて、吸われる。
「コウ……痛い。鬼でもないのに、血を吸ってどうするんだ」
「《贄人》は半分鬼みたいなものだ。だから鬼と同じで、血の味が分かる。まぁ鬼と違って栄養になるわけじゃないがな。ただ、鬼を取り込めばだんだんと鬼に近づいていく」
ちゅぷと水音を立ててコウが私の指から口を離す。
「それはアオが先生を食べて鬼になったように、私の血を飲み続ければいずれコウも鬼になるということか?」
「そうだ。血を飲んでシュカを余すところなく食べ尽くせば、いずれは同じになる。つまりシュカにとって俺は餌で、俺にとってもシュカは餌ってことだ」
首筋に歯を立てられた。
でもコウは鬼じゃないから、その牙が私の皮膚を貫通することはない。
つーっと舌がすべっていって、鎖骨を腕をそしてまた指先をかじられた。
コウが私をベッドの方へと押し倒して、見下ろしてくる。
「シュカ、俺の全部をお前にやる。だから俺も――もう、お前を食べていいよな?」
我慢できないと金の瞳で見つめられて、囁かれる。
疑問系だったけれど、駄目だと言わせるつもりはなさそうだった。
雄を感じさせる色香がコウからは放たれていて、私が食べられる側なんだと意識させられる。
答える前にいただきますとばかりに、唇に噛み付くような口付けが降ってきて。
その日私は、コウに食べられてしまった。




