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拾われ赤鬼の恋愛事情  作者: 空乃智春
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【1】拾い主は変態のようです

 ある夏の事。

 私は、変な男に拾われた。

 目を隠すほどに前髪の長い、ぼさぼさした赤色の髪の三十代前半の男。

 気だるげな雰囲気を漂わせる彼の名前はコウといい、記憶喪失だった私を家に住まわせてくれた。


 コウは人使いこそ荒かったけれど、悪いやつではなかった。

 ただし、コウはとてつもない駄目人間であった。


 コウの職業は探偵だという。

 依頼を受けて人の秘密を暴いたり、捜し物をしたり、護衛をしたりするらしい。

 つまりは何でも屋という事で私は理解していた。


 しかし、コウのやっていることといえば、この部屋の中で裸の女性が載っている本を読むことくらいだ。

 時折、ふらっと家からいなくなるけれど、その時に仕事をしてるのかなと思いきや、帰ってきたコウは酒臭かったりする。


 そういう時、ポケットからは小さな紙が出てくることが多く、コウの後輩だという少年・カズマの話によると、これは『馬券』と言うものらしい。

 どの馬が勝つか予想して、お金をかける余興に参加した証なのだという。

 つまりは、賭け事をしてきたということだ。


「先輩、競馬に行くくらいなら、ボクから借りた分返してください!」

 コウは大分年下であるカズマから、何度もお金を借りているらしかった。

「ごめんごめん。次は必ず勝って三倍にして払うからさ!」

 全く誠意のない態度でコウがそんなことをいうたびに、カズマは呆れたようすでコウのお尻を蹴るのだけど、それは逆にコウを喜ばせているように見えた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 正直に言って、私は料理以外、家事があまり得意ではなかった。

 記憶喪失なせいなのか、コウの部屋には不思議なものが多すぎた。

 『せんたくき』というものを初めてみたし、『てれび』という人が箱の中にいる機械も初めてみた。



『少女ばかりを狙う連続殺人鬼、また街に現れる!』

 てれびというのは便利なもので、遠くにある人やモノをこの箱に映すことができるのだという。

 情報の伝達に使われるものなのだと、コウは教えてくれた。

 最近はこの連続殺人鬼の事ばかり、てれびは話す。


「夜は危ないので外出は控えるようにしてください」

「あっどうも、ごていねいに」

 私が頭をてれびに向かって下げると、ポンと頭を新聞紙で叩かれる。


「テレビに話しかけても意味ないって教えただろ」

 振り返るとそこにコウがいた。

 呆れたような顔をしている。

「そうだったな」

 ピッという音がして、コウがてれびを消してしまう。

 もう少し見たかったけれどしかたないと、部屋の掃除をするために立ち上がった。


「何してんの? その本まだ使ってないんだけど」

 きゅっきゅと手際よく、コウの隠していた卑猥な本を集めて縛りあげると、不満そうな声が聞こえてきた。


「今日は古紙回収の日だ。ちゃんと覚えたんだぞ」

「なんで褒めてくれみたいな言い方してるの。というか、なんでそれをゴミ扱いしてるんだ。俺の宝物だぞ!」

「女の人が鞭持ったり男の人が縛られてる、この卑猥な本を宝物とするコウの方を、縛ってゴミに出したほうがいいような気がしてくるな」

 慌てるコウを軽蔑の眼差しで見つめてやる。

 少しは反省すればいい。そう思ったのだけど。


「えっ、縛ってくれるのか?」

「……とりあえず、コウも全部まとめてゴミ行きだな」

 なぜか、コウはちょっと嬉しそうだった。

 こういうのを変態っていうんだな。

 あまりモノのわからない私でも、それくらいはわかった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 喉が渇いた。

 夜、眠れなくて私は目を覚ます。


 私は喉が渇きやすい体質らしく、コウがくれる特別な飲み物を毎日飲まないと喉が渇いて眠れない。

 一日一杯の、甘くて美味しい汁。

 コウのお手製で、毎日作ってくれるのだが、作り方だけは絶対に教えてはくれないのが不満だ。


 三日ほど前からコウは帰っていない。

 こんなことは今までなかった。

 家を空けたとしても、長くて一日だった。

 仕事で手こずっているんだろう。

 そう思って、大人しく帰りを待っていた。


 探しに行こうにも、私はこのあたりの地理がよくわからない。

 食材が売っている場所くらいしか覚えてないのだ。

 何より一人で外に出るなと、コウに何度も念を押されていた。


 どうして一人で外に出てはいけないのか。

 そう聞いた私に、コウは外には危険がいっぱいなんだと教えてくれた。

 百聞は一見にしかず。

 コウと外出した際に、色々教えてもらったのだけれど、街はまさに魔窟まくつだった。


 街では『しんごう』という鬼がいたるところで、赤青黄色の目玉を光らせていた。

 あの瞳が青になった時以外に道を渡ると、人を体内に取り込み高速で走り回る、『じどう車』という怪異に轢き殺される。

 牛や馬が引いている車なら知っているのだけれど、あれに魂が宿り進化した怪異なのかもしれないと思う。


 『じどう車』にぶつかれば、骨が砕けるだけではすまないのだと、コウは言っていた。

 けれど決まりさえ守れば攻撃はされないらしく、私はそれに従いながら歩くことを覚えた。


 店の多くある一際賑わいを見せる通りでは、『ばんぎゃ』と呼ばれる少女のなりをした新種の鬼族が、声色高く歩きまわるのを見た。

 二足歩行する人間ほどあるウサギや、文字の書かれた立て札を掲げたよくわからない生き物が、日本語を話し紙をくばっていた。


 『びる』と呼ばれる、空を突き抜けるほどに高い塔が数多くそびえつ場所にも連れて行ってもらった。

 そこでは日々『さらりーまん』と呼ばれるサムライたちが戦いを繰り広げているらしかった。


 こんな奇妙な場所で、記憶喪失前の私は暮らしていたのだろうか。

 街には危険が多すぎて、私一人ではとても対応しきれそうになかった。

 

 そんなところへ日々出て行くコウやカズマは、あぁ見えて凄腕の猛者なんだろう。

 コウはいつも気だるそうにしているけれど、その実鍛えられた体をしていると私は知っていた。

 カズマもコウほどではないけれど、歳の割りに筋肉があるし、動きにキレがあった。

 剣術を習っていると言っていたから、そのためかもしれない。


 ――あぁ、戦ってみたいなぁ。

 ふとそんな事を思う。

 コウはいつだってマイペースを崩さないけれど、私がいきなり襲い掛かったらどんな顔をするんだろうか。


 なんとなく、感覚でわかる。

 コウは、きっと強い。

 その肌に爪を立てて、肉を引きちぎって、抗うコウと刃を交えることができたらどんなに素敵だろう。

 痛みに歪むその顔を考えるだけで――沸きあがるように体が熱くなる。


 その衝動を抑えるように、自分の体を抱きしめた。

 はぁと感嘆の溜息をついて我に返ったら、爪の食い込んだ腕から血が出ていて。

 腕を口元に押し付けるようにして血を舐めとる。


 血は、コウがくれる飲み物の味によく似ていた。

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