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「西側」ということ

作者: しのぶ

ここに書いたのはあくまで個人的な考えです。

イスラム過激派が世界を騒がせ、ますますテロとの戦いと言われるような時代になってきたように思えますが、彼ら過激派はなぜ現れたのでしょうか?

その理由は一概に言えないでしょうが、ここではあえて一つの面のみを見てみたいと思います。すなわち、思想の面から、それも、“反西洋”という面からです。


過激派と呼ばれる人々も考え方は様々でしょうが、傾向として、伝え聞く限りでは、彼ら過激派は西側とか、西洋とかいうことに強いこだわりを持っていて、なおかつそれに敵対しているように思えます。ことさら十字軍を引き合いに出して敵方を非難したり、ヨーロッパに引かれた国境線を引き直そうとしたり、西洋の思想や教育を禁止しようとしたり。

ナイジェリアのボコ・ハラムなんかはまさにそうで、その名も「西洋の教育は禁止」の意味だそうですが、一体彼らにとっては、イスラムであることが大事なのか、西洋ではないことが大事なのか、と思うほどです。


いや、特にこの面から見るなら、彼らにとっては西洋ではないことの方が大事なのであって、イスラムを掲げているのも、西洋ではないもの、としてのよりどころを、イスラムに求めているからであるように思えます。イスラムは西洋の影響を受ける前から繁栄した社会を築いていた。西洋がなくてもやっていける、というわけで。

よくイスラム教徒の側では、彼ら過激派は真のイスラム教徒ではなく、イスラムの名を騙っているだけだと言われますが、それも、彼らが宗教を利用していると思われることが理由の一つなのでしょう。


ところで、西側とか西洋とか言うとき、それは何を指しているのかといえば、それは西欧、西ヨーロッパと、そこから派生したもの(アメリカとか)を指しているように思えます。

それはヨーロッパ全体ではないでしょう。なぜなら、一般に西洋とか西側とかいう時、東欧やロシアは含まれていないか、含まれたとしても、ついで程度のように思われるからです。

またキリスト教圏でもないでしょう。なぜなら、東欧や中東やアフリカにも、初代教会から続くキリスト教徒のコミュニティが存在しているうえに、現代では、国や地域によって宗教を限定する事は難しいように思えるからです。


ですから、西側とは西欧、それも特に近代の西欧で、自由とか、民主主義とか、政教分離とか、自由主義経済とか、民族主義とか、そういうものがイメージされているように思われます。


それで、なぜ彼らは西側に反対しているのかといえば、これも一概に言えないでしょうが、一つにはこういうことがあるでしょう。


現代の社会は、基本的にやはり西側の社会が元になっていて、その強い影響を受けて成り立っていると思われます。ですから、西側でない国や地域でも、西側がその背景のような、空気のような存在になっていて、その影響が常に感じられる、ということもあるでしょう。


しかし、その影響は常に良いものとして現れるわけではなくて、悪いものとして現れることもあります。


日本やトルコのように、紆余曲折を経ながらも、西側の思想や制度を取り入れて、それで大方うまくやっているところもありますが、植民地のような経済のもとで、貧しく苦しい思いをしているとか、西側の影響や支援を受けた政治家が独裁者となっていて、そのもとで苦しんでいるとか、自分たちの思想や信条が、西側のそれのためにおびやかされていると感じている、とかいうことがあるでしょう。それにまた、西側の外だけでなく、西側自体の内であっても、その体制の中でしわ寄せをくらって、苦しい目にあっているということがあるでしょう。


それで、こういう場合に、「自分がこういう苦しい目にあっているのは西側のせいだ」

「だから、西側の影響を排除すれば、自分は幸せになれる」

と考える人もいるのでしょう。


もちろん、こう考えたからといって過激な行動に走るとは限りませんし、実際西側にも問題はあるでしょうから、こう考える人がいてもおかしくはありません。

しかし、こういう考えは多くの過激な行動の原因になっているように思えます。そのうえ、すでに西側のやり方が広く受け入れられている社会では、こうした考えは反社会的な傾向を持ちやすいようにも思えます。そういう面から見れば、イスラム過激派は、方向性は違っていても、極右団体や極左団体と同じようなものなのかもしれません。


こういう、「悪いことの原因を見つけ出して、それを取り除く」という考え方は、人間の基本的な普通の考え方だと思います。しかし、この考えは良いことも悪いことも、ともにもたらし得るものであるように思えます。この「悪いことの原因」にあたるものが、時代や地域によって、魔女だったり、ユダヤ人だったり、資本階級だったり、その他特定の人々やものごとだったりするのでしょう。



もちろん、西側にも問題はありますし、それに対して自分たちの独自性を守ることも大事でしょうが、彼ら過激派の思想はやはり偏ったものだと思います。


なぜかというと、一つには、彼らが見ている西側は、やはり彼らが見ている限りでの西側なのであって、彼らは西側に対して偏ったイメージを持っているように思えるからです。

ことさら十字軍を引き合いに出して自己を宗教的に正当化しようとしたり、あるいは西側は物質主義だとか、人間に従う体制に過ぎないとか、欲望に従う体制に過ぎないとか断じるようなことがそうです。それは言ってみれば、イスラムを掲げたテロが起こっているからといって、イスラム教徒はみんなテロリストだと断じるのと同じようなことだからです。


しかし、どんな文化圏にしても、敵意を持って外側から見ているだけでは、それを理解することはできないだろうと思います。もっとも、内側から見ればわかるとも限らないでしょうが。


また一つには、西側に問題があるとしても、それに対処するやり方が偏っているように思えるからでもあります。

西側の思想や教育、あるいはそのように思われるものをことごとく切り捨てて、英語や数学を学ぶことさえ、欲望に従うものだと言って禁じたり、アメリカ人はみんな敵だと断じて、アメリカ人であれば、同じイスラム教徒で、おまけに兵士でもなく人道支援活動を行っていた人まで処刑するようなことがそうです。

それは言ってみれば、腕にできものがあるからといって、腕ごと切り落とすようなものだからです。


そのうえ、どんな文化圏にしても、純粋に自前の要素だけで成り立っているということはそうそうないでしょうから、どこまでが西側なのか決められないということもあります。数学にしても、化学にしても、インドやアラブやエジプトの伝統を継いでいるようですし、英語にしても、もし仮に、英国が伝統的にイスラム世界の一部だったとしたら、彼らは決して英語を学ぶことを禁じたりはしないでしょう。


これは多分、病気の治療のようなものなのでしょう。病気の原因が何であるのかをよく見極めて、適切な治療を施さなければなりませんが、間違った治療を施せば、治らないばかりかさらに悪化して、そのうえ別の病気まで一緒に抱え込むことになりかねません。


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― 新着の感想 ―
[一言] ポスト冷戦世代ならば過去の話なのでいたしかたなしですが、「西側」という用語はソ連の影響下にある社会主義国家群が東ヨーロッパに集中していたことから「東側」と呼ばれたことの対比で自由主義国家群を…
[一言] 西欧文明についての一考察だったと思います。一つの見方として説得力のあるものだと思いました。他の2編の作品も読んだ感じ、しのぶさんはキャラクター重視の作家さんではなく、論理性で勝負するストーリ…
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