Part.3 駆引
「ふ~む、その身体能力は本当に素晴らしいんですけどね~?」
横たわって疲れ果てていた七曜を、延喜の笑顔が覗き込む。
「内炎を活かすべく鍛えたんですよね?」
「そうだよ。だけど、師匠みたいに強い相手だとどうしようもなくってさ」
「そうですよね~。私だってこう見えて結構鍛えてますからね」
「それを自分で言うのが残念な所だよね。だからお嫁さんもらえないんだよ」
「余計なお世話です」と良いながら七曜にデコピンを喰らわせる延喜。「痛ッ!」と額を押さえたとき、延喜は「大人バカにしたばつですよ」と返した。
「コブつきだと勘違いされがちだからですよ。女の子家に誘っても、貴方を見て帰ってく子が多くてですね……」
「なんだよ、僕が邪魔だって言いたいの?」
「ごめんなさい、そういうつもりじゃないですよ。子はかすがいとも言うじゃないですか。君から結びつく絆だってあるんじゃないかと……あっ!」
そこまで言って延喜はなにかを思い出したように懐をまさぐる。あれでもないこれでもないと物を出しては地面に置いていく中で、「おお!!」と声を上げて手を広げる。
「これですこれ。最近手に入れた魔法具なんですけど、私特にいらないんですよね。あげますよ」
そう言って延喜が指しだした物は、
どこにでもありそうな鉄線だった。
***
「であれば、見せてもらいたいものだな……尤も、俺にもまだやることはある。コイツらの相手はお前が好きなようにしていろ」
――浅葱ちゃんの肩に刺さっている釘……これが、媒介になっているのかな?
もがいている浅葱の肩には、真っ黒な釘が打ち込まれている。最初にセキラが自分に使ってきた釘と同一の物に見えて、それが肩に食い込んでいる事実に七曜は自分の肩に痛みを覚えるが、しかしその挿入口には生々しい傷跡は見られない。釘を魔眼で"見て"みれば魔力の線がセキラへと延びている。であれば、これを媒介にしてセキラは彼女を操っているはずだ。
よくよく目を凝らしてみれば、火蓮を始めとした不良達の肩にもその釘が打ち込まれている。その1つ1つが操り人形の糸さながらの如くセキラの元に集中しているのだった。
――であれば、これでいけるはずだ!
七曜が笑っていたのは、何も無謀で不敵な自信から来る笑みなどではない。既に、彼は種を巻き終わっていたのだ。
「そんなこと言わずに見ていきなよっ!」
言葉を放ちながら七曜は手のひらをセキラの方へと見せつける。その手には"ストリング"の鉄線が何本も伸ばされている。
「既にその準備は終わってるからねっ!!」
その鉄線を掴み、七曜は勢いよく手を引っ張る。
2人に踏みつけられている時辺りからだったか……決意を決めた直後から、"ストリング"を蜘蛛の巣のように張り巡らせていたのだ。七曜の手の動きに呼応するように、"ストリング"は地面から浮かび上がり、1人1人の体へと巻き付いていく。引っ張った勢いで全員が七曜の方へと倒れ伏すが、その辺に抜かりはない。巻き付いた瞬間に"ストリング"を太くしてクッション代わりにしてコンクリートとの衝突を押さえる。更に、倒れたときに誰かが下敷きにならないようそれぞれの引っ張る勢いや方向もまた既に調整し終えているのだった。
「なっ!?」
セキラが驚いているのは何もただ手駒達が倒れ伏したからではない。
魔力を込めても、彼らがびくとも動かない事だった。狼狽する彼の表情に七曜はこれまでのお返しだと得意げに笑みを返す。
今倒れ伏した不良達は全員、腕と肩に"ストリング"が巻き付いている。肩に巻き付いている"ストリング"は、セキラの武器と思しき釘を外部から遮断するように覆い隠しているが、当然ただの鉄線で封じただけではセキラの魔力を封じる事はできない。
ただの鉄線であれば、の話ではあるが。
「"内炎"……なるほど、そう言う使い方もあるのか」
「ご名答。これで相手は君だけだね」
かつて、師匠から受け継いだ"ストリング"。魔力を伝導し、自由自在に操ることができる鉄線と言うただそれだけの魔法具でありながら、そこに込める魔力次第でいくらでも使い道が生まれる多大な可能性を秘めた武器だ。ただ伸ばして使うだけならそこまで大きな魔力もいらない。しかし、使いこなそうと思えばいくらでも使いこなすことができると言う奥の深い魔法具でもある。
例えば、相手の足下に忍ばせて不意打ち気味に縛り上げたり、
例えば、内側で"内炎"を燃やして魔力を防ぐ防御膜にしたり、
使い方1つで、セキラの遠隔操作の魔術を無効化させる事すらできるわけだ。先程の浅葱には加えられなかった防御膜の効果だが、彼女のおかげで開くことができた突破口とも言える。浅葱の肩にもストリングを巻き付け、セキラの呪縛から解きながら再度セキラの方を見遣る。
――ようやく、ここまで追い詰められた!
既に体は傷だらけで、動かす度にどこかが痛む。対して、セキラは傷1つ負っていない。魔力量で見ても、これまでにセキラは大量の傀儡を操っていたとは言え、自身もまた縛り上げた魔力を考えれば大きく差ができているとは思えない。追い詰めた、とは思ってもなお、不利なことは何一つとして変わっていないのだ。
「やはり、面白い……」
それでも、現在心境的に優位に立っているのは自分だ。どこか呆然としているように、セキラは右の手で左の頬をポリポリと掻いている。強がりに聞こえるその言葉に、七曜はセキラの心中が内心穏やかではないという事に気付いている。
――この手のタイプは冷静さを欠かせる方が有利に戦えるハズだ……策を砕かれた悔しさから自暴自棄に向かってくれれば、対処しやすいしね。
「いや、これは俺の本心ですよ……見くびっていた所もありますが、貴方という人間の爆発力は爽快その物……味方であれば、大層気分が良いのでしょうね」
「そりゃどうも。でも、僕とお前は敵同士だし、味方につく気はサラサラないよ?」
「知ってますよ……だからこそ、ここまで気分が苛つくんでしょうね」
セキラが頬を掻く度に、知将の仮面がボロボロと崩れ落ちているように感じられる……準備を重ねてきた幾重もの策を打ち砕かれたその苦労は七曜でも理解できるところはある。完成直前の砂山を隣から壊されたように、怒りと空しさが胸中を締め上げているはずだ……。頬が赤くなるまでずっと掻き続けていた指を、ようやく止めて……
「クソ野郎がァッッ!!」
腹の底からひねり出したかのような大きな怒号と共に、それまで掻き続けていた自分の右手を噛みつける。七曜に向けて怨嗟の目を向けながら、強い力を込めて手のひらを噛みしめているのだ。右手の親指が伸びている、中手骨と言う部位ごと噛み砕かんとする勢いのセキラに、七曜は完全に呆気にとられてしまった。絶好の隙に違いないが、思いがけない自傷行為に七曜は動くことができなかったのだ。
「…………ふぅ、スッキリしました」
そのまま肉を噛みちぎるのではないかと思っていたが、その前にセキラは口を離す。噛んだ際に溢れてきた血液を口から吐き捨て、だらりと下げた右手からは血が流れている。明らかに異常な光景だが、しかしセキラの心持ちからは先の怒りを感じさせない。一流のスポーツ選手は自分を切り替えるスイッチを持つと言うが、セキラにとってそのスイッチが恐らく自分の手を噛み砕くことなのだろう。
「で、俺を殴るんでしたっけ?」
セキラの言葉に呼応するかのように、彼の背後に魔力が束ねられていく。表れたのは、空全体を覆っているような黒色の雲だった。ちょうど昨晩セキラと会話を行ったあの雲そっくりであり、その数は3つ。ふわふわと漂う小さな雲だが、ぴりぴりと電気が走るのが見える姿に可愛らしさは感じられない。
「やれるものなら、」
「うぐっ!?」
雲が光ったその一瞬だった。
僅かな痛みと共に、手と足の筋肉が痙攣する。動くことを許されなかった一瞬の内に、セキラは距離を詰めており……
「やってみろっ!!」
左の拳を七曜の腹へと入れ込む。華奢な体つきからは想像しがたい鈍重な一撃に七曜はえづく。続いて放たれる右フックを防御しようと左手を上げ――
「なにっ!?」
ようとするが、何故か、無関係の右の腕が上がってしまう。あらぬ方向の手を上げた七曜が疑問に思う間も与えずにセキラの拳は七曜の顔を抉る。
――何故だ!? 僕は左手を上げたはずで……
半ば無意識のうちだったが、強引に右足を蹴り上げる。振り上げられた足を避けながらセキラは後ろへと飛び退り、距離を開ける。セキラの背後には、黒い雲が変わらず浮かんでいた。
――なんだったんだ、今のは……今は、しっかりと右足が上がったし……手も、ちゃんと動く。
小さく動かしながら手の感触が正常であることを確認する七曜。この事象がなんだったのか……先程、ピリリとした痙攣を感じてからこの事象が起きたという事実、これまでセキラが見せてきた「ヒトを操る」と言う魔術……
――"操る"と言うレベルまでは行かずとも、短時間であれば相手を支配できる、そう言うことなのか!?
人間が体を動かすとき、脳から微弱な電気を流して筋肉を刺激している。先程、体が痙攣したのは"雷"の魔術を受けて、セキラに脳の支配権を奪われた証なのではないだろうか?
「はぁあっ!!」
再度突っ込んでくるセキラ。今度はしっかりと目を凝らしてセキラの後ろの雲を見定める。光ったと思った次の瞬間、自分の体にピリリとした痛みが襲って……セキラから距離を置こうと思った矢先、足がまったく動かない……どころか、さも両足が大地を蹴るかのように両手が空を払うではないか。
――そうに違いないっ!! あの"雷"に当たると、電気信号を入れ替えられるんだ。
その上、どのように弄るかはセキラのさじ加減のハズだ……先程と違い、両足と両手の動きが入れ替わっている。こちらへと突っ走るセキラは拳を振り抜かんと構えて来ている……
――今の場合、手を足のように動かせば良いんだろうけど……いや、歩き方なんか普段意識してないんだから分かるわけがない!
手と足が入れ替わっていると言うことが分かったところで七曜はどう対処すれば良いのかも分からない。構造がそもそも違う2つの器官を闇雲に手を動かした所で、足がもつれて転んでしまうのは目に見えている。
セキラが目の前に来て、拳を後ろへと下げる。次の一瞬には、その拳が自分の顔を捉えるはずだ……
――顔への攻撃なら、こうすれば良いはずだっ!!
腕立て伏せを思い返しながら七曜は"両手に"力を込める。その結果両足はガクッと曲がり、しゃがみ込む事に成功した。頭上でセキラの拳をやり過ごし、七曜はそのまま"右手を"横になぎ払う。七曜の意に反して……いや、この場合は意に介してと言うべきであろう。"右手"とリンクしている右足がなぎ払うように動き、セキラの足を蹴る。左足に力を込めて体重をかけることができなかったからか、その足が崩れることはなかったが、セキラは「うぐっ!」と痛みに呻き声を上げる。
――そのまま、"右足を"握り込んで伸ばせば……!?
今度は腹に向けて拳を喰らわせようと七曜は"右足に"力を込める。しかし、今度は七曜の意に介して……いや、意に反して右足が動いたのだ。握り込みながら前へと突き出すというその行動は手でやるからこそパンチとしての真価を発揮する。足でやったところで変に体重が動くだけで、なんの攻撃にもならず……
「甘いっ!!」
前につんのめった七曜の腹に向けてセキラは右足を振り上げた。強い衝撃に、七曜は「ぐおっ!?」と声を漏らす。
「俺の魔術がいつまでも相手を操っていられる訳がないだろう……俺がお前の脳内信号を操っておける時間など、せいぜい4秒程度」
――4、秒……っ!!
腹を押さえる七曜に向けて、セキラは頭上から言葉を浴びせかける。
「それさえ越えれば元に戻る……なんだ? 入れ替わっている箇所を見抜けば恐くないとでも、そう思っていたのか?」
――不味いな……攻撃が、まったく通らない。
先程直感的に入れた"右手による"蹴りですらセキラには大してダメージを与えていないように見える。それもそのはずだ。左足に体重をかけているからこそ、蹴りはあそこまでの威力が出るのであって、それもなくただ右足を振りかざしても威力はたかが知れている。
――そして、魔術による強化もできない……
諸説あるが、雷が落ちる早さは秒速200km程だという。光速の1000分の1ほどの早さらしいが、人間の感覚から見れば早すぎるのは同じだ。それと同じだとすれば、電撃を見てから躱すことは不可能。"ストリング"を体中に巻いてセキラの魔術を通じないようにするか? いや、"ストリング"には伸ばせる量に制限がある。膨大な量を縛れることには変わらないが、しかし今回は火蓮や浅葱を含む30人以上を縛り上げるのに使っているのだ。今使える量はせいぜい1メートルほど……とてもじゃないが、自分の体に防御壁を巻くのには使えない。
――どうすれば、アイツの攻めを突き崩すことができる? どうやって攻めれば……
自分の炎をあらかじめ内部で燃やしておくか? 内部に入った電気をその場で焼き尽くせば確かにセキラの魔術を消せる。しかし、雷を打たれてから対処できない以上、常時炎を燃やす必要がある。"ストリング"を伸ばすのに大量の魔力を用いてしまった以上、ここで変に魔力を使い続ければガス欠になる恐れすらある。そうでなくとも、セキラの魔術を無力化したところで向こうに攻撃を叩き込む時の魔力がなくなってしまう可能性すらあるのだ。それではとどめを刺すことができず、ただ戦闘が長引くだけとなってしまう。
――一枚上手であることは事実、だよね……
先程浅葱達を自分に宛がいながらもその場でとどまっていたのも、七曜の魔力の量を推測したり、自分の戦闘スタイルを見破るためだったのだろうか? 詰め将棋のように少しずつ着実に追い詰めていくセキラのやり口……狡猾なやり口に七曜は歯噛みをする一方で、そのスタイルに感心するムラサメの叛逆の際に伴って、圧倒的不利である情勢にもかかわらず魔界の長である"魔統帥"と三日三晩にわたる戦闘を繰り広げるだけの策略を張り巡らせただけはある。その経歴は伊達ではない。
――どうやって攻めるか、か。いや、らしくないな。
ここまで追い詰められた状況で七曜が思いついたある作戦……成功させられるかは分からない。だが、これしかないと七曜は直感的に判断したのだ。立ち上がって構えながら、七曜は釘を刺すように問いかける。
「そうか、4秒しか持たないんだな?」
「その通り。だが、その4秒が積み重なればどうなるか……」
――攻めるだって? 僕はどっちかと言えば守る方じゃないか。
「教えてやろうっ!!」
雲から雷が放たれ、体中に痙攣が走る。眼前にいたセキラはその瞬間に攻撃へと移っていた。
1秒、セキラの拳が七曜の頬を抉る。
セキラの攻撃を避けるように七曜は"左手を"挙げようとする……が、右足に大地を踏みしめる感触が広がるだけだった。
――らしく、ないよね……自分から動くなんて。
2秒、セキラの蹴りが七曜の腹を抉る。
続いて七曜は"左足を"上げて動く箇所を確認する。右手かと思っていたが、しかし七曜の思惑とは違って左手が持ち上がった。
――そうやって言われ続けたんだから、さ
3秒、セキラは一瞬ためを作り、七曜の体は殴打に蹌踉ける。
蹴り上げられればと思って"右足を"振り上げるが、右手が真上に挙がるだけだった。
そして魔術が解けると"言われた"4秒目、七曜はピクリとも動かずにセキラの出方を窺うことを選んだ。
「……ちっ」
セキラが舌打ちを見せる。不服そうなその態度に、七曜はしてやったりとほくそ笑んだ。
「見抜いたか……」
セキラの突き出した拳を七曜は左の手で押さえる。先程確認していたように、"左足を"軌道に合わせて上げたのだ。
「案の定、4秒なんかじゃなかったね……っ!」
5秒……七曜は、左手を握り締めながら、感覚が戻ったことを確認する。悔しそうに歯噛みするセキラに七曜はしてやったりと口角を上げることでお返しした。
彼が本当のことを自分に伝えているなどとは到底思えなかったのだ。制限があるのは本当であろうし、その時間が短いというのも事実であろう。だが、それが4秒に限定されると言うのは七曜は信じられなかったのだ。
もし自分がセキラなら、相手に4秒で動けるようになると言う情報を伝えた上で5秒ほど動きを止める。そうすれば、4秒目に動き始めて体勢を崩した所にすかさず叩き込むことができるからだ。
即座に右手に炎を生み出す。ありったけの魔力を込めたその炎は雨の中でも勢いよく燃え盛る。
「さぁ、喰らい――」
「折り込み済みだがなっ!!」
直後、七曜の右足に鈍い痛みが走る。見てみれば、"ストリング"による拘束が甘かったのであろう、顔だけを上げて自分の足首を噛みしめる不良の1人が。痛みが酷いわけではない。しかし、七曜の注意を一瞬捉えるのには充分すぎる一撃だ。怯んだ隙に右手の拘束を振りほどき、セキラは後ろへと飛び退る。
「くっ!?」
「読むと思っていたぞ! 次でお前を仕留め――」
再度積乱雲から雷を放つべく右手を広げたセキラは気付く。
怒りに我を忘れそうになったとき、精神を落ち着かせるべくセキラが行う癖によってできた真新しい噛み傷から、鉄線が伸びているではないか。
「次だって? 次はないさ」
鉄線は七曜の手のひらから伸びている。
七曜の作戦は5秒間耐えて、炎を叩き込むこと……だけではない。相手がセキラであれば、そこまで見抜くのではないかと思っていたのだ。
言葉の応酬で「4秒しか持たないこと」を強調することで、4秒に固執していることを見せた。並大抵の相手であれば、「これで七曜は4秒のみを意識するだろう」と思わせて5秒間動きを止めるだけで終わるはずだ。だが、相手はセキラである。用意周到に自分達への根回しを行ってきた立ち回りからも、5秒後の反撃を見抜いてもおかしくない……そう読んだのである。
――相手の出方を見極める守りの体勢。それが、僕なんだからさ。
であれば、その反撃を見抜かれた体で行動をすればいい……そう思って七曜は右手の炎を見せつけてセキラの選択肢を「回避」か「防御」の2つまで減らした後、左手で"ストリング"を這わせたのである。傷口から通す事で"ストリング"が突き刺さる小さな痛みをもカモフラージュをしながら、セキラに回避を行わせたのだ。
――失敗から学べばいい……この作戦だって、前回の失敗から来てるんだ。
前回、"ストリング"で拘束していたヴァンはそれを導火線のようにして七曜の元へ炎を伝わらせた。あの時、サンゴが対処できて自分が対処できなかった理由……携帯を操作していたと言う油断も間違いなくある、しかし、"ストリング"を伝う早さが【アプソル】と比べて異常に早かったことも事実なのだ。
「これで終わるんだからねっ!!」
七曜は右手の炎を左手の"ストリング"に叩き付ける。
その原因から七曜は"ストリング"は魔力を通しやすいという性質について気付いたのである。こうして"ストリング"を相手の体に突き刺すことさえできれば……それは、七曜の炎を通す導火線へと姿を変えるはずだ、と。
「ぐぉおおっ!?」
傷口から炎が漏れ、セキラの体内へと侵入していくのが七曜の目に映る。"内炎"を送り届けたことを確認した直後、"ストリング"を引っ込めた。内側を燃やす炎を押さえ込むかのようにセキラは体を押さえ、その場に倒れ込んだ。
「さて、と」
動けなくなっているセキラに向けて七曜は歩く。セキラから受けた傷が痛み、一歩動く度に体中が悲鳴を浴びる。
放っておいても彼の魔力は燃え尽きる。別にここまでする必要は全くない。
それでも、七曜はどうしても成し遂げたかったのだ。体中を押さえるセキラの服の襟元を掴み、無理矢理体を起こさせる。
「僕の可愛い後輩を招いてくれた上に、飽きさせない余興がいっぱいで楽しいお茶会だったよ」
手を回してセキラの胸ぐらを掴み、面と向かって口にする。セキラは痛みに顔を歪めながらも、
「甘いぞっ!」
「おっと?」
七曜の顔面に向けて拳を振りかざす。七曜は頭を傾けて避ける。首元をかすった物の、その拳にもはや力は入っていない。弱々しい拳を振り抜くセキラに同情の気持ちがほんの僅かに起こるが、彼の所行を思い返して七曜は右の手で拳を作り上げる。
「これでお開きだっ!」
ありったけの力を込めて、七曜はセキラの顔に拳を叩き込む。
バシィィン! と言う殴打音が雨の音をかき消し、セキラはガクリと頭を垂れた。
「……謝られても、許さないけどね」
七曜はセキラを握っていた手を離し、また同時に地面に倒れ伏せた。




