プロローグ "君"
雨は止む気配を見せない。どんよりとした雲が太陽を隠し、ただひたすらに雨を落とし続けている。
「"虫"、"虫"……あはっ、あはは……」
雨を避ける屋根もない開けっぴろげの校庭で、少女は傘を差すこともなく膝をついている。なにかに縋るかのように、両の手には砂を握りしめている。
「あっはは、ははははっ! あはははははっ!!」
それでも、握り締めた砂は、手の隙間から少しずつ零れていく。
――所詮、私なんて……
泥となった砂だけがこびり付いた両の手で、少女は自分の顔を押さえ込む。ジャリジャリとした砂の中に混ざった石が、氷の彫刻を思わせるその顔に微かな切り傷をいくつもつけているが、少女はその痛みの中でもただただ笑う。
――生きていても、仕方ない存在なんだ。
真正面から雨を受け止めるかのように、少女は上を向き、大きな声を出して笑い続ける。
天が流し続ける雨に抗うかのように、地を這う少女はただただ笑う。
――私を愛してくれた君は、もういないんだから。
それでも、雨は依然として勢いを増したままただただ泣き続ける。
雨と泥に塗れたその顔からは、笑顔が消えていく。ひとしきり笑い続けて疲れたかのように、荒い呼吸を続けて少女の……国柴六花の表情は歪んでいく。
――一樹……"君"に、もう一度会いたい。
両の目からあふれ出す涙を、泥だらけの手で拭いながら、六花は大声で彼の名前を呼ぶ。
「一樹ぃいいっ!!」
腹の底からひねり出したその慟哭を聞く者は、誰もいない。
雨は止む気配を見せない。




