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名もなき物語  作者: 白カギ
《衝突の物語》
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Part.22 ダ破

 ――ますます分かんなくなってきたなーっと!?


 セキラ、六花と続けざまに接触を繰り返した七曜は、続く3人目との出会いに驚きを通り越してもはや呆れてしまう。


 いや、3"人"目ではないだろう。


 ――そう言えば、コイツもまだいたねっ!!


 六花と別れ、工場跡地へと向かって走っていた直後……七曜は"それ"と出会ったのだ。それは電信柱にその身を絡めながら、大木を思わせる巨大な"尻尾"をなぎ払う。並の跳躍では避けることなどできない。そう判断した七曜は、すぐさま炎を足に叩き付け、魔力と筋力のツボを刺激。己の跳躍力を上げてやり過ごす。


 ――六花さんのことがますます分かんなくなったけど……考えるのは、後だねっ!!

「おらぁっ!!」


 跳躍しながらも、その尾に向けて手のひらを広げ鉄線を繰り出す。とは言え、七曜の狙いは尻尾の拘束にあるわけではない。普段の伸ばしっぱなしで放つ鉄線とは違い、矢のように短くして飛ばしたのだ。小さな鉄線は大柄ながら素早い動きを見せる"それ"ですら対応できない早さで飛んでいき……


「シャァァーッ!!」


 大きな尻尾を貫いた瞬間、悲痛の叫び声を響かせる。その隙をついて七曜は着地し改めて"それ"と向き合った。電信柱に巻き付いた体を解き、地面に倒れ込んだ"それ"が起こした衝撃に七曜は揺さぶられながらもその全身を確認する。


 獲物を射竦める細長い眼孔、人どころか小さな家なら丸呑みしまいそうな巨大な顎とそこから覗く鋭い牙、手足のない細い全身を黒鱗で守る"それ"の姿は一目で人間界の生物でないことを七曜に思い知らせる。


 ――こうして向かい合うのは初めてだよな……


 暴れ狂う"大蛇"に、七曜は驚きを通り越して唖然としてしまう。


 話には何度か聞いていたし、実際に"こときれた"姿なら目にしたことがある。

 だが、生身の"それ"を目にした時、七曜は自分の目を疑うと同時に例えようもない恐怖に身を包まれたのだ。


 ――よくこんな化け物と、一樹もサンゴちゃんも戦えるよね……


 恐らく、先日サンゴが謎の少女と闘う前に闘っていた個体と同じだと思われるが……七曜は大蛇が一樹によって倒されているのを一度目にしている。あの蛇が復活したのか、複数いるのかは分からないが、なんにせよ間違いなく敵の一味に違いない。


 ――だからここの集中点は、不良達がいなかったんだね……


 七曜が向かっていた工場跡地には、大気中の魔力が収束している点がありながら、しかしセキラの"雷"の魔術が流れていなかったのだ。不良のバリケードがない証であり、であればここから動いてみるかと七曜は思っていたのだが……どうやら、それはこの番人ならぬ番蛇がいるからであるらしい。


 ――闘うのは初めてだね……さて、どうやって闘おうかな、っと!?


 一瞬の内に起こった出来事に七曜は目を見開く。


 先程七曜が貫いた尾が、突如として目の前から消え失せたのだ。


 ――違う、消えてはいないっ!!


 目を"凝らし"て"魔眼"を使った七曜には、闇夜に紛れてこちらにむけて飛びかかってくる5つの細長い塊が見える。どうやら、尻尾を自切するトカゲのように、大蛇は尾を切り離したらしい。実際に目にするのは初であるが、この蛇は己の体を小さくして操る事ができるとは七曜も聞いていた。実際、大蛇の魔力が小さな蛇達の方へと分散されていたのだった。


 ――小さく分裂するのにも魔力を使うのかな? なんにせよ、大蛇が一息に小さな蛇の軍勢にならなかったのは幸いだね。


 七曜は飛びかかってくる蛇に対して手をかざす。先と同様、小さく切り分けた"ストリング"を矢のように飛び出して打ち落とす算段だが……しかし、先程の蛇の尾に当てるのとは話が違う。あまり使わない攻撃方法であり、飛びかかる標的に対してほとんど当たらない。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる……乱射した結果、2匹を打ち落とすことはできたが、残りの3匹にはかすりもしない。七曜に到達し、その牙を肌へと突き立てる。


 ――痛いっ……けどっ!!


 噛まれた三匹の蛇から魔力が吸われていく。決して良いとは言えない気味の悪い感覚に、魔力が減少していくのを感じ取りながら……しかし、七曜はニヤリと微笑んだ。


 ――僕の魔力を吸ったね!!


 魔術を発現させる時に最も大切なのはその姿をイメージすることである。このイメージと自身の魔力を掛け合わせることで、イメージは"術式"へと変わり、そこに魔力を流せば魔術が発動される。当然ながら、イメージとそれ相応の魔力が合わさってできることであり、七曜は愚か魔人とて思ったことすべてが現実に起こると言う訳ではない。


 ――体内に、入れたね?


 だが、今の七曜ははっきりと思い浮かべることができる。


 それは、蛇の中へと自分の魔力を発動させるイメージ。


 腕っ節に関して言えば、一樹には及ばないかもしれない。

 だが、七曜は魔術のセンスにかけては一樹はおろか……並大抵の人間には決して負けない自信がある。


 ――内から燃えろっ!!


 蛇の中に作られた"術式"に、彼らが自ら取り入れた七曜の魔力が流れ……ボッと小さな音を立てて、3匹の蛇たちは爆発した。


 ――上場、だね。


 できると言う確証はなかった。無謀な賭けであったが、蛇たちを駆除することができたらしい。安心するのもつかの間、3匹の蛇たちが消えた後に、大蛇が自分へと突っ込んでくる姿が七曜には見えた。


 ――流石に、アレに噛まれたら今のはできないかな……


 小さくしても意味がないと判断したのだろうか? 鋭いキバを見せながら、突っ込んでくる蛇に七曜は冷や汗をかく。自分を丸呑みしてしまいそうな勢いで大きく開けられたその顎に噛まれては、魔術を発動させる前に噛みちぎられる。


 ――恐いなぁ……だけど……


 恐怖がないわけではない。命の危機を間近に感じ、今にでも逃げ出したい衝動が全くないわけではない。


 それでも、七曜の口角はつり上がり、彼らしからぬニヒルな笑みが浮かんでいた。鏡を見ずとも、自分の顔が笑っていると言う事は分かる。


 ――楽しいなぁ、畜生!!


 だが、その恐怖を上回る勢いで七曜の心は昂ぶってくる。眼鏡をかけた目を細め、目の前にいる爬虫類(へび)を狩ろうとする爬虫類の如き目をしながら七曜は手のひらに炎を生み出す。


 ――突っ込んできたら、そりゃ迎え撃つよっ!!


 生み出した火の玉を自分の膝へとたたき込む。活性化された脚力を用いて七曜は跳躍。飛びかかってきた蛇をやり過ごし、左手から幾重にも重なった"鉄線"を放出する。"鉄線"を蛇の胴体へと巻き付け、回収する要領で伝いながら蛇へと突っ込んでいく。


「はぁぁああっ!!」


 手のひらに特大の火の玉を生みだし、衝突の寸前に蛇へと叩き付ける。叩き付けられた火の玉は蛇の鱗をすり抜けて中へと入り込み、その体内を燃やし始める。


「シャァァァッ!?」


 体内を燃やされた熱さで蛇はのたうち回る。まだ活性化が続く足で蛇を蹴り飛ばし、七曜は跳躍。少し離れた所へと着地して、蛇を睨み付ける。


 ――このまま、仕留めるっ!!


 既に体内の魔力を燃やしているとはいえ、蛇の魔力をすべて焼き尽くせたとは思えない。"魔眼"を発動させれば、蛇の体内の魔力が少しずつ局所へと集まり始めているではないか。そうはさせまいと、七曜は"鉄線"を伸ばし巻き付かせる。そのまま締め上げるように鉄線へと力を込めるが、蛇は未だに息がある。


 ――くっ、時間が、足りないっ!!


 蛇の魔力が集まり、"術式"に流れ込んでいくのが見える。このまま分裂を許してしまえば、すぐに負けることはないものの、戦闘を無駄に長引かせかねない。魔力を増して"鉄線"にかける力を増し続け、なんとか蛇を締め上げようと画策する七曜に、後ろから声が聞こえる。


「そのまま縛ってろっ!!」


 風のようにその声は七曜の真横を通り過ぎる。その人物は跳び上がったかと思うと、蛇の脳天目がけて刃を突き立てる。一部分へと集まりかけていた魔力が止まり、傷ついた急所をどうにか修復しようと脳へと向かうが……それよりも大きな魔力の集合が、乱入者の持つ得物に流れていることに気付く。


 ――"風"の魔力……まったく、無理に飛ばそうとか考えずに魔力を刀に纏わせて闘えば良いのにね。


 未だ暴れる蛇に負けじと堪えながらも、七曜の口元は緩んでしまう。乱入者は得物に魔力を纏わせ、切れ味を普通の日本刀では考えられない切れ味を見せながら蛇の頭部と胴体の境目へと振り下ろす。暴れ回っていた蛇はようやく動きを止めて……大地に倒れ伏した。見開かれた目から光が消えた時、七曜は溜息混じりに雨に濡れた大地に腰を下ろしてしまう。


「はぁ、疲れた~……助かったよ」

「おう……つったく、今日はハイエナしかしてねぇな」


 蛇へと突き立てた刃を抜きながら、その人物は振り返り、小さくぼやきを入れる。聞き慣れた声に七曜はかつてない安堵感を覚えて、軽い調子で言葉を投げかける。


「美味しい所をとるなんていつものことじゃん」

「うるせぇ、しばくぞ」

「冗談だって……ありがと、一樹」


 軽い言葉でも、その思いは本物だ……一樹への感謝の言葉を七曜はなげかけた。

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