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名もなき物語  作者: 白カギ
《衝突の物語》
20/85

プロローグ 写真

 5年前の3月、俺は今高校2年生だから小学校を卒業する月にあたるのだろうか? 慣れ親しんだ小学校への別れの涙は、新しい舞台である中学校への期待の蕾を膨らませる、出会いと別れの春。その時、俺はある家の前に呆然として突っ立っていた。


 なぜこんな所に立っていたのか、それは全然覚えていない。それもそのはず、俺はそれ以前の記憶をすべて失っていたのだ。

 最初、俺はそこで記憶を失ったのだとばかり思っており、記憶を失った直後はそこら辺を中心に捜査をしていた。それは勘違いであったとつい最近気がついたが、その手がかりとの"邂逅"について、今特に語ることはない。


 閑話休題。詳しいことは知らんが、記憶を失ったと言ってもそれまで培ってきた知識に関しては普通に残っていたし、俺が「烏飼一樹(うかい いつき)」と言う名前であること、そして目の前にある家にかかっている「雨宮(あまみや)」と書かれた表札がいとこである雨宮八雲(あまみや やくも)の家であることだけはなぜか覚えていた。しかし、俺がどんな人生を送ってきたのかはまったく記憶にない。俺がどんな母親から生まれたのか、どんな父親に養ってもらったのか、その中で俺はどんなことを思っていたのか、まったく思い出せなかった。そのくせして、いとこである雨宮八雲やその母親、つまりは俺の叔母にあたる八重(やえ)さんの記憶はある。彼らがどういう人物なのか、どういう性格なのか……何故か鮮明に覚えていたのだ。どう考えてもおかしいことだが、この時点では記憶を失ったという目の前の大きな問題に気を取られて混乱していたため気付けなかったのだが……小学生だったことを含めても、もうちょい落ち着けなかったのかと今の俺は嘆息する。


 家へと入り、俺は八重さんに事情を話した。どう説明しようかを悩んであれこれ思いつくままに話していたのだが、彼女は俺の言い分をすぐに信じてくれた。「折角だし、戻ってみる?」と言う彼女の言い分に従って、日浪市にある烏飼家まで送ってもらったが……そこで見た景色に、俺は悲しみを通り越して言葉を失ってしまった。


 家はそのまましっかりと残っている。それはいい。だが、家中どこを見渡しても家族の手がかりに繋がる物は何一つとして残されていなかった。写真やアルバムはおろか、腕時計や財布と言った持ち歩く物、要は思い入れが深い物や、身分証明書や保険証など手助けになりそうな物は何一つとして残されていない。そこにあったのは、所有者の人となりを感じることのできない無機質な"物"たちだけだった。


 どの部屋を巡ってもそうだった

 書斎には本棚と膨大な蔵書があるだけ。少しは筆跡が残っているのではないかとわずかながらに期待していたがなに一つ残っていなかった。

 両親の寝室と思しき場所は綺麗に整えられたベッドが残っていただけ。市販されてる物の方がまだ人の気配がするぐらいに整然としていた。

 リビングにはテレビや小物と言った、どこにでもありそうなものが残っていただけ。八重さんですら「兄貴の物が何もない」と驚いていた。


 どこを見ても、家族の手がかりがまったくなかった。本当に家族が存在していたのかすら怪しくなる程に、この家には何も残っていなかったのである。


 部屋という部屋を探し回り呆然としている俺は、八重さんに案内されるがままに自室へと向かう。既に疲れ果てていたためか無意味と思いながら重い足取りで自室へと向かう。


 案内された子供部屋。子供1人分としては少し大きく感じる部屋の中、俺は机の上に一片の写真が残されていることを発見した。


 すがる思いでその写真を覗き込む。そこに写っていたのは――

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