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名もなき物語  作者: 白カギ
《邂逅の物語》
19/85

エピローグ 邂逅の物語

「……以上がことの顛末だ」

『うわぁ、すっごいことやってたんだね。記憶の手がかりがみつかったなら良かったけど、手伝いに行けば良かった?』

「お前は"魔物狩り"の仕事ってのがあんだろうが。俺の分も働いてくれなきゃ困る」

『えげつないねぃ……ん、待っていっちゃん。さっき脱獄囚云々、って言った?』

「あぁ、確かに言ったが……」

『本当に?』


 ***


「あっ、後藤(ごとう)センパイこんにちは~」


 レジ番をしていた七曜に、明るい声が聞こえてくる。若干冷やしすぎのきらいがある室内であればそこそこありがたいものなのかも知れないが、しかし外は雲一つない灼熱の日差しが降り注ぐ真夏日である。マフラーを巻いた少女はやはり違和感の塊だった。


「やあ、火蓮(かれん)ちゃん」

「なにやら昨日は大変だったみたいですね? 烏飼センパイと一緒に不良、倒せましたか?」


 一樹から口裏を合わせるようには既に言われていた。七曜は「うん」と爽やかに微笑み、


「なんとかなったよ。危なかったなぁ」

「なんでも、助けに来た後藤センパイはむしろ足手まといだったとかなんとか」


 ――一樹ぃ!? 君どんなこと吹き込んだわけ!?


 あながち間違ってもいないが、しかし折角のウソなのだからもう少し活躍してたことにしてくれてもよいではないかと七曜は心の中でツッコむ。


「ま、まあね~。一樹に比べて僕ってホラ、もやしじゃん?」

「言えてますね~! 後藤センパイ、見るからにケンカ弱そうですもん!」

「否定してよ~」


 火蓮には冗談交じりの笑顔を見せながらも、しかし七曜は自分のふがいなさに拳を握りしめる。


 ――火蓮ちゃんの言うとおりだ……一樹を支えられるよう、もっと頑張らなきゃね。


「烏飼センパイと後藤センパイのコンビは、腐的な意味も含めてアタシ大好きですよ~!」

「腐的ってなに!?」

腐腐腐(フフフ)~!」

「そうか、これが本当の腐的な笑みだね!?」

「寒い洒落は止めてください! そんな寒さが突発的にくるのですから、マフラーを手放せないんですよ~。てか、後藤センパイもマフラーどうですか?」

「結局君はそこに持って行くんだね……」


 苦笑いを浮かべながら、七曜は火蓮が持ってきた商品(豆腐やチーズだったが特に言及はしない)をバーコードリーダーに通す。この生活のなんでもない一コマ。これが七曜にとっては、本当に大切な物だった。


 ――まったく、今の生活は本当に楽しい……この恩を、僕はまだ返せてないんだからね


 ***


「しつけぇな。本当だ」

『本当なのか……あのね、いっちゃん。魔界で脱獄囚が出て、それが人間界についたならね……普通はね、こっちに真っ先に情報がいくんだよ』

「なんだと?」

『指名手配犯としてね、すぐにこっちに討伐の依頼が来るハズなんだ……だけどね、今回はそれがなかったんだよ』

「……なんか、きな臭くなってきたな」

『だねぃ……でも、あんまり大事にしない方が良いんでしょ?』

「あぁ。今、手駒が一個手に入りそうなんだよ」

『素直じゃない物言いだねぃ……わかった、この件はオレがこっそり調べておくよ。だから、いっちゃんはいっちゃんのやりたいようにやってよ』

そうするわ……悪いな、いつもいつも」

『良いって良いって……オレ達、唯一の家族だろ? 助け合わなきゃ』

「……言い方がキモい、切るぞ」

『そんな、酷いよ! 結構恥ずかしかったのに!』


 八雲の叫びを無視するように、一樹は電話を切る。


 ――この件、一筋縄では行かねぇみたいだな……まあ、これさえ終われば、魔界の人脈を使って、あの男の手がかりを得られる……かもしれねぇ


 はっきりとした確証こそないが、ようやく掴んだ大切な手がかりなのである。これからどう動くかを考え……。


「ちょっと、イツキ!」


 ……ようとして、窓の外から聞こえてきたサンゴの言葉に思考を中断する。


「……あんだよ?」


 顔を出し、裏庭を一望する。元々人の目からは離れた場所に家を構えているため人の目を気にせずに修練を積むには最適の場所である。今その裏庭には【アプソル】を握りしめたサンゴがいた。サンゴは居候としてこの烏飼家で寝泊まりすることになった(「そんなうらやまけしからん事僕が認めるわけ……あっ、ごめん冗談だから刀と槍しまって!!」と七曜は少し反対していたが)のだ。サンゴは一樹に大声を張り上げる。


「ちょっと手合わせお願いしたいのー! 魔力が少しとは言え回復したんだし、訓練は欠かさずやっておきたいからっ!」

「朝っぱらから物好きな……」

「はぁー!? 聞こえない?」

「はいはい、今行く。お手柔らかにお願いするよ……」


 ため息混じりに一樹は部屋を後にする。どのみち、"記憶の炎"の中で見た着物の男を相手取るかもしれない事を考えると……鍛えておいて損はないだろう。折角得たヒントを無駄にしないためにも、そして……折角出会ったサンゴとの絆を無下にしないためにも、それは効率的なことのように感じる。


 ――まあ、ありがたい邂逅に巡り会えたわ。


《邂逅の物語 完》

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