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名もなき物語  作者: 白カギ
《邂逅の物語》
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Part.14 因縁の火花

「……八雲? 俺だ」

『なーに、いっちゃん? てか昨日に引き続きなんて珍しいねぃ。なにか、あったの?』

「その通りだ。まだ詳しいことははっきりしてねぇんで言わないけど……だいぶ、近づけたと思う」

『本当かい!? じゃあつまり昨日オレがあげた情報が……』

「んー、役に立ったか立ってないかは一概には言えねぇな」

『あっはは、そっかそっか! でも近づけたならそれだけで良いことじゃん』

「あぁ。本当に、感謝してるよ」

『お礼なんか良いよ。オレからしても嬉しいことなんだし』


 ***


「はぁ、こりゃまためんどくさい役を押しつけられたもんだなぁ」


 深夜の工場跡地。先日、サンゴと一樹が初めて出会った工場跡地。そこには今、煙をくすぶらせて座り込んでいるコートの男の姿があった。咥えていた棒状の物を手に取り、ふぅ、と息を吐く。


「……あれ? 昼間に見たほど煙が出ないなぁ、なんでだ?」


 口から取り出した棒をまじまじと眺めながら男は頭に疑問符を浮かべる。彼が昼間、こっそりと町に出たときに棒状の物を口に咥えて煙を吐き出す奇妙な輩を目にしたのだ。魔界では見られない奇妙な物にヴァンは一瞬で興味を惹かれ、そのゴミを近くの花壇に捨てていたのを特に見咎めもせず、直後に立ち寄ったコンビニにてそれと思しき物がレジに並んでいたため購入。雰囲気を味わいたいがために、ライターと言う非合理この上ない道具まで買ってやったが全然理想通りに行かなかった。


「そりゃ、タバコじゃないからなんじゃないか……キャンディーの棒を口にくわえて火を灯したところで無意味だろ」

「ええっ!? これじゃなかったってわけか……あぁ~、お金無駄にした~」


 残念そうにキャンディをぽい、と捨て去るコートの男、ヴァン。小市民っぽい変な考え方をする"魔人"に入ってきた少年、烏飼一樹(うかいいつき)はため息をつく。


「金か……お前らの出費ってどこから出てるんだ?」

「おっ、聞いちゃう~? そうだね、言っても良いけど……」


 ヴァンはは立ち上がり、一樹の方を見て首をかしげる。


「あんた、誰だ?」

「俺か? 名乗るほどのもんじゃねぇけど……さっきの七曜のダチだ」

「へぇ~、アイツの……あっ、じゃあアイツの記憶の中にあった刀を持ってるヤツ、ってお前の事か?」

「あぁ、俺の事だ」


 一樹の右手に刀が現れる。臨戦態勢はできている、とでも言いたげに一樹は日本刀、"風月(ふうげつ)"を肩に担ぐ。


「なるほど、じゃあ仕返しに来た、ってわけだ! はぁー、熱い友情だねぇ~?」


 カッカッカッ、とヴァンは面白そうに笑い飛ばす。バカにしているような見え透いた挑発に、一樹は答えを返す。


「それは趣味の方だな。他の目的は別にある」

「へぇ~? オレと闘う意味がなにかある、ってのかい?」

「あぁ……まぁ、実益を考えれば正直俺は闘う必要性はないんだが」


 一樹は刀を振り下ろし、ぼやきを入れる。奇妙な物言いにヴァンは引っかかったが、その詮索を許さないとでも言いたげに一樹は打ったばかりの刃のような鋭い視線をヴァンへと向ける。


「でも、俺は闘いたい。どうにも、お前の戦い方ってのが気にくわねぇんだよ」

「シチヨウ辺りから聞いたのか? 精神いたぶる系が好きじゃないってこと?」

「精神攻撃は基本だろ? できることなら俺だってやりたいぐらいさ」

「はははっ、肯定されるってのは予想外だったな……」

「合理的なんだし良いじゃねぇかよ。俺は合理的なの好きだぞ。でも……方法が気にくわねぇなぁ」

「過去を見せつける、ってのか。でも、一番合理的だろ?」


 言葉を続けるヴァンの口角が不気味に上がる。


「過去とは決して自分から離れないかけがえのない物だ。土台と言っても良い。だからそれをいじくり回してやる。これはどんな幻術よりも効果があることだとオレは思っているのよ」


 一樹が先ほど使った土台という考え方を用いているのは、もしかして既に記憶を読まれているのではないか……一樹はふとそう思ってしまうが、だからなんだろうかと一笑に付す。


「確かにその通りだ。だが、俺はその土台を好き勝手他人が蹂躙する、っていうのが気にくわないんだよ……過去は、そいつだけの大切な物だ。自分の中で悩み苦しむのは勝手だが、他人が勝手に覗き込んで知ったように口を挟んでくる、ってのは、俺が一番嫌いな事だ。他人の大切な物語に口出しするなんておこがましい。生きてきた苦悩は、その本人しか知り得ないことなんだからな」


 一樹は刀を構えてヴァンを見遣る。その瞳に込められた鋭い視線は闘気と怒りを増し、ヴァンに対する剥き出しの戦意を吐きだし続けている。

 ヴァンはそんな一樹を見てニヤリとほほえむ。コートの内側から虫眼鏡の形をした魔宝具(まほうぐ)夢視眼鏡(シーインググラス)】を取り出し、


「かっちょい~。でも、オレへ遠慮無くこの攻撃を続けるよ? それこそ口出しされることじゃないんだからな」

「ご尤もだ。だから、遠慮無くその攻撃をするが良い……俺はそれを打ち破ってやるよ」


 ブラブラと揺れる虫眼鏡を見て、一樹はこっそりと口角を上げる。先ほど適当に言ったことは本音が少なからず入っていたとは言え、そこまで深く考えて言ったことではない。現に落ち込んでいたサンゴに過去を否定するな、と他人の領分に踏み込みながらきつく当たっていることもあり、矛盾していることでもある。すべては……ヴァンにあることをさせるがため、である。一樹はヴァンの動きを見て、だいたい実益(それ)は成功したかな、と確信する。


 ――さて、後はどこまで趣味を持ち出すか、だな。

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