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名もなき物語  作者: 白カギ
《邂逅の物語》
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Part.10 多数への対処

 ――さて、どうするか。


 周囲を不良に囲まれた状況で一樹(いつき)は冷静に考えを張り巡らせる。不良達の遮る方へと向かわなければ襲ってこないらしいと分かったものの、手がかりを得たい以上は戦って屈服させねばならない。しかし一樹の戦闘スタイルはどうしても多数を相手取るのに向いていない。それに加えて、今一樹がいるのは狭いとは言え、自分1人を囲むには充分すぎるスペースがある道路である。ここではどうしても多数を相手取らねばならなくなる。

 であるならば。一樹は思いきり不良達に向かって走り出す。


「うがぁっ!」


 ――なんだ今の声……この声で一斉にかかってくるとは、やっぱり、魔術かなんかで操られてる、ってわけか。


 野太い雄叫びを背中に受けて一樹は更に駆け抜ける。後ろを振り返らずに、足音がドタドタと追いかけていることを聞き、曲がり角を曲がり、狭い路地裏へと入っていく。

 不良達は何を考えるでもなく一樹を追いかけていく。先頭を走っていた大柄な不良が釘バットを掲げて路地裏に突っ込むと、


「一名様ごあんなーい」


 入ってきた不良は調子外れの声と共に、腹に深い衝撃を喰らって出鼻をくじかれる。言うまでもなく、待ち伏せていた一樹による膝蹴りだ。一樹は不良が怯んだ隙に手に取っていた釘バットを奪い取り、柄の部分で顎を殴る。一発で意識を失った不良を、後方に続いてきたバールを掲げるモヒカン男へと蹴り飛ばしてぶつける。モヒカン男が小柄であったことも手伝って、2人はそのまま地面に倒れていった。


「なぁ、これ作るのってどんな手間だったんだ?」


 一樹は倒れている2人に向けて、"少しだけ重くした"釘バットを放り投げて後ろへと逃げていく。釘バットは2人の真上に落下し、その衝撃で2人は意識を失ってしまう。


 ――今ので2人倒せたか……? 倒したとして不良は後2人。廃材持ってるヤツがいたっけか……メリケンサックもいたような……


 路地裏を抜けた先にはメリケンサックを嵌めた拳を構える男がいた。ピアスにネックレスとチャラチャラと飾り付けている反面、入れ墨の入った肩は太い筋肉に覆われている。見た目だけなら先ほどの釘バットの不良にも劣らない屈強さを見せており、いかにも力強い悪役と言った姿だった。


 ――いたよ……武器がメリケンサックとか、重くできねぇ、めんどくせぇ……


 一樹は走りながら自分の刀、"風月(ふうげつ)"を召喚する。刀を見てメリケンサックの男が一瞬怯んだ隙に一樹は"風月"をしまう。


 ――"表"のヤツに"風月"は使いたくねぇんだよねぇ。


 一樹は怯んだ不良に向けてそのままタックルをかます。体重を込めてタックルをしたにも関わらず、男はせいぜい一瞬だけ蹌踉けただけ。体格差はいかんともしがたく、男はすぐさま態勢を立て直し、自分の懐に突っ込んだままの一樹に向けて拳を振るう。


「高そうなネックレスだな。俺もこういうの欲しいよ」


 しかし一樹は、男の首にぶら下がってるネックレスを鷲掴みにし"重さを変える"。一気に重くなったネックレスに釣られて、男が前に倒れる直前に一樹は一歩下がる。男は大地に倒れ付し、ネックレスは大地にめり込んでしまった。


「重くしすぎたかな……まぁ、20秒もすれば元に戻らぁ、気にすんな」


 って、聞こえちゃいねぇか、と自分の独り言にツッコミを入れる。意識を失った男にそう言い聞かせた後、目の前から廃材を持った男が現れる。血走った目には正気が感じられない。


「がるぁっ!」


 野獣のような咆哮で男は廃材を振り回す。勢いの乗った廃材を一樹はしゃがみこんでかわす。ぶつかった衝撃で路地裏を作っていたコンクリートの壁が発泡スチロールのように砕けていった。


「どんな膂力だよ……おぉっ、こえーこえー……」


 廃材の威力を目の当たりにしながらも、一樹は怯むことなく不良の足を払う。倒れ込んだ不良の靴をひっ掴み、


「でも隙がでかすぎだろ?」


 靴を"重くする"。倒れこんで動けなくなった隙をついて一樹は廃材を没収し、不良の首元へと突き付ける。


「さて、ちょっと話を――」

「がぁっ、うがぁああ!!」

「……」


 やかましいわ。内心で呟きながら一樹は不良の顎を廃材で殴る。男は白目を剥いて黙ってしまった。


 ――あっ、やっちまった……

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