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名もなき物語  作者: 白カギ
《邂逅の物語》
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Part.9 七曜の魔術

(サンゴちゃん、もし相手の隙を見つけたら……僕がどんな状態でも構わない、遠慮なく相手に斬りかかって魔力を補給してくれ)

(どんな状態でも、ってなによその口ぶり。自信ない、とか?)

(自信かぁ。なきにしもあらず、ってレベルだね。でも、なにが起こるかなんて分かんないじゃん。吸収の隙があれば遠慮なくそこをついて欲しい。できるでしょ?)

(分かったわ……別にアンタを刺すのに躊躇なんてしないし)

(あはは、手厳しいなぁ)

(それが嫌なら、刺されないようにしなさいよ?)


 七曜(しちよう)はサンゴの遠回しな応援を受けて、彼女に見せないように微笑みを浮かべる。


「作戦会議終わった?」


 その微笑を一区切りと受け取ったのか、コートの魔人は欠伸混じりに声を出す。どうにもやる気が見られない姿に、七曜はムッとしてしまう。


「うん。わざわざ待っててくれるなんて物好きだね」

「速攻するのがいつもなんだけど、オレも本調子ってわけじゃないからね。その追っ手さんに捕まりさえしなければ、別にキミたちに危害を加える気はないんだけどなぁ?」


 言い回しこそやる気がなさそうだが、その反面「自分に敵対すれば痛い目を見せてやる」とでも言いたげな不敵な自信が込められている。不遜な態度を当てられて、つい自分の中の負けず嫌いな本性が顔を見せようとするのを七曜は懸命に堪える。


 ――まったく、相変わらず僕は熱しやすいな……


 挑発に乗ったら負けだ、と自分に強く言い聞かせて、コートの魔人を見やり、言葉を返す。


「生憎、こっちはそのために動いてるからね。君を全力で捕まえさせてもらおうかな?」

「そっかー、じゃあ仕方ないな……オレの名はヴァン。名前だけ覚えて、」


 ヴァン、と名乗ったコートの魔人の掌からバスケットボール大の火の玉が現れる。バレーのサーブを打たんとする勢いでヴァンは火の玉を頭上に放り上げる。


「帰ってちょうだい!」


 サーブの要領で攻撃してくると思い込んでいた七曜は完全に不意を突かれる。ヴァンは放り上げた火の玉を弾くのではなく、殴りつける。ヴァンの拳を叩き込まれた火の玉は、更に小さな火の玉となって四方八方に飛び散る。飛びかかってきた無数の火の粉に動じることなく、七曜もまた右手から火の玉を生み出しぶつけ落とす。


「こりゃまた粗っぽい攻撃だね」

 ――でも、魔力がそこらに張り付いてるなぁ……なんだろうか、あれは?


 七曜は眼鏡を抑えながら周りを見渡す。飛散した火の粉は、大地に当たると燃え上がることなく消えていった。しかし、七曜の目は火の玉がぶつかった箇所に魔力が残っているのを見逃さない。通常、魔術に使われる魔力は、その魔術が効果を失えば空中へと霧散してしまう。にも関わらず、火の玉を構成していた魔力は、地面に張り付いたまま特になにかが起こるでもなく残っているのだ。すなわち、そこになんらかの魔術が秘められていると考えて然るべきであると七曜は判断。


「サンゴちゃん、僕より前の地面をうかつに踏まない方が身のためだよ」

「へぇ……気付いてんだ」


 魔力は魔術という形式を持っていない限り通常目にすることができない代物である。魔人であればもしかしたら魔力を見る、または判断できるのかもしれないが、七曜は念のためサンゴに注意を促す。ヴァンに聞かれてしまったとは言え、それでもサンゴの安全を考えれば仕方がなかった。

 撒き散らされている魔力の正体が分からない以上、触れないことに越したことはない。七曜は掌を電柱へと広げる。

 その手の先からは、1本の鉄線。鉄線はまっすぐに電柱へと向かっていき、巻き付けられる。


「ひゅ~、良い判断じゃん。地面がダメなら空中を、って言うのは!」

「でしょー? こう見えて色々と、」


 七曜の出方をうかがっていたヴァンは、敵対している状況を忘れて素直な賞賛を送る。七曜は彼の魔術を用いて体内へとしまい込んでいる鉄線……七曜は"ストリング"と名前を付けている……を伝って電柱へと飛びつく。衝突の寸前に、即座に体内にある"ストリング"の大元から外に出している部分を切り離し、電柱を蹴り飛ばし、ヴァンの方へと突っ込む。


「考えてるんだよっ!」

「良いじゃん良いじゃん、人間も捨てたもんじゃないね!」


 対するヴァンは嬉々とした表情で七曜を迎え撃つ。もう一度火の玉を作り出し、投げつける。七曜は避けられないと判断して掌から"ストリング"を伸ばし、火の玉に巻き付ける。火の玉を巻き付けた"ストリング"を握り込み、


「うおらぁっ!」


 掛け声と共にヴァンへと"ストリング"を振りかざす。フレイルの要領でヴァンの腹へと叩き込まれた火の玉は、遠心力も手伝って殴り飛ばす。


「よし、これで」

「シチヨウ、足元!」


 ヴァンの立っていた地面に着地した七曜は、サンゴの声に気付いて足元を見る。"目を凝らせ"ば、先ほどヴァンが地面に張り付けたのと同じ魔力の塊。見る間にそれは炎へと形を変える。反射的に飛びすさったものの、完全に避けきることはできずに七曜の服に小さな火の粉が付く。これだけなら、と一瞬だけ安堵した七曜は、次の瞬間、信じられない情景に目を見開く。

 その火の粉は七曜の服に付いた途端に"勢いを増して燃える"。異常なまでに大きな炎を七曜は手の形に展開した"ストリング"で掴み、ヴァンへと投げ捨てる。"ストリング"はいくつもの特性を持っており、その1つに魔力を掴むことができる、と言うものがある。


「魔力を使わせたら、そりゃ右に出る者はいないか……仮にも魔人、なんだし」

「その通り。でも、君もかなり規格外だぜ? もうちょい"焼き付けられる"算段だったんだけどなぁー」


 悪態をつきながらヴァンは立ち上がり、七曜が投げてきた炎をコートの裾ではじき落とす。些細な言葉を七曜は聞き漏らさない。


「焼き付ける……なるほど、つまり魔力を"焼き付ける"、ってわけか」

「ご名答。炎にこめるなり、魔力を直接流すなりで魔力を"焼き付け"、そこからさらなる魔術を放つ。言ってみりゃトラップ、ってか? それがオレの魔術さ」


 聞かれてもいないことをベラベラと喋るヴァン。飄々とした態度を崩すことなく自分の魔力を説明するヴァンは、強者としての余裕なのか、なにも考えていないのか、はたまたまだ奥の手があるためこのぐらい知られても問題ないのか……あけすけな物言いに七曜は疑いを強める。


 ――……なんとも捕らえづらい男だよ。二重の意味で。

「さーて、今度はそっちの手の内を暴くとするかな!」


 ヴァンは助走と共に足元に"焼き付けた"魔力を爆発させる。勢いをつけて突っ込んでくるヴァンの右手……正確にはコートの裾には炎が灯っている。コートに"焼き付けた"魔力の放出かと七曜は見抜き、右手をかざす。


「暴けるもんなら、暴いてみなよ!」

 ――でも、それなら僕の方が有利だな……魔力を見抜くこの目さえあれば、トラップにはかから、っ!


 一直線に伸びて行くはずの"ストリング"が途中でグニャリと曲がったことに七曜は目を見開く。まるで灼熱の炎で熱されたかのように曲がった"ストリング"を見て、七曜は先ほど自分の身を焼いていた炎を投げつけた時のことを思い出す。


 ――さっき手の形にした"ストリング"だけど……そうか、"焼き付けた"後の炎も更に別の物へと魔力を"焼き付けられる"ってわけかっ!


 下手に火の玉を掴んで防御すれば、相手の攻撃に繋がってしまう。そう判断した七曜の目の前に、ヴァンの炎の腕が振りかざされる。ラリアットのように首元を狙ってくるその腕を、七曜は小さく後ろに倒れ込むことで回避する。掴めないのであれば、避けきるしかない。そう考えての回避行動だったが、ヴァンはお見通しだったようで足を振り上げる。空を舞って無防備になっている七曜へとブーツの切っ先を叩き込む瞬間、


「っ!?」


 ヴァンは足を止める。空を舞う七曜の右手にはこれ見よがしにゴルフボールほどの火の玉が掲げられていた。七曜の不適な笑みも手伝い、ヴァンは蹴りを止めてしまう。


 ――そりゃ、気になるよねー?


 七曜は右手の火の玉をヴァンに放つのでもなく、自分の太ももに叩き込む。叩き込まれた炎は七曜の肌を燃やすでもなく、体内へと入ってくように見えた。呆気にとられてヴァンの驚く顔に七曜はしてやったりと言いたげな笑みを浮かべる。


「僕の炎と君の炎は真逆だね」


 炎を叩き込んだ右足を七曜は振り上げる。空中にも関わらず、勢いが衰えない鋭い蹴りをヴァンは避けることができなかった。蹴りをもろに食らって蹌踉けるヴァンの腹に、鉄線が巻き付けられる。


「もういっちょ!」


 地面へと着地した七曜はヴァンへと巻き付けた"ストリング"を伝う。右手に炎を作り出し、そして左手の"ストリング"を体内にある大元と切り離す。伝った勢いを殺すことなく、七曜はヴァンの腹へと火の玉を持った右手を突き出した。


「僕の炎を喰らいなよっ!」


 腹へと掌底は叩き込まれ、その先にある炎はヴァンの腹に吸い込まれる。

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