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シュールナンセンス掌編集

押入れの国

作者: 藍上央理

「押入れの国」



 押し入れの中には押し入れの国があるという本を読んだことがある。

 布団を引きずり出して、ふすまをぴっちり閉めてしまうとそこはすぐに四角い暗闇の世界になるのだ。

 暗いところでじっとしていると、もやもやといろんなものが見えてくるのだ。知っているものだったり、今まで見たこともないものだったりして、静かに暗闇の中でじっと火花を散らしていたりするのだ。

 触ろうとしても触れないけれど、いつもついて来てほしそうなそぶりを見せるのだ。

 それで、緑色のクレヨンを持って、ママが帰ってくるまでに押し入れの国へのドアを書くことにした。

 冷蔵庫の一番下の段に入っているお夕飯は、まだ手付かずのまま食べてもらえるの待っている。二分間チンしてください。ときっとママの手紙がおかずのラップにセロハンテープで止めてあるだろう。

 押し入れの中はかびの臭いと防虫剤の独特な匂いがした。

 押したらベコンと音がしそうなベニヤ板に、ちょうどかがめば入り込めるくらいの緑の枠線を引いていった。

 一番最後にドアのノブを書き入れた。

 そーっとふすまを締め切ると、ドアのノブを握り締めて開いた。

 カチャンとドアは外側に開き、その向こう側を恐る恐る覗いてみた。ドアの透き間から白い砂利道が見えた。

 真っ暗な押し入れの中に、さぁっと光が舞い込んできた。

 クルリクルリと光は押し入れの中で回り出すと、もうそこは真っ暗な押し入れではなくなっていた。

 いつの間にか砂利道に靴下のまま突っ立っていた。手にはまだ緑色のクレヨンを持っている。

 なんだかがっかりしてしまった。押し入れの国には砂利道以外何もない。 白い砂利道だけでは全然おもしろくないし、勿論いろんなことを期待していたのだから、緑色のクレヨンに活躍してもらうことにした。

 はっぱだけの花壇と白い砂利道沿いののっぱらをクレヨンとやる気が続く限り書いていった。

 緑色のクレヨンがちびてしまってこれ以上かけなくなってしまったので、砂利道に小さなアマガエルを二、三匹書き添えた。アマガエルはケロケロ鳴きながら花壇の中に飛び込んでいった。

 緑色だけじゃなくいろんな色のクレヨンを持って来ればよかったなと思い返して、来た道を戻って行った。

 緑のドアをくぐって押し入れの中に戻ってくると、ママが帰っていた。 布団を広げたままでいたので、すごく怒っている。ママのお小言が始まったので、布団に黒いクレヨンで穴を書いて、ママを突き落としてやった。

 そんなに深い穴のつもりじゃなかったけれど、ママの声はどんどん小さくなって、しまいには聞こえなくなった。

 二十三色のクレヨンを持って、もう一度押し入れの国へ戻ることにした。二十三色もあれば、きっといろんな花や動物なんかがいっぱい書けるだろう。

 ママもそのうち穴の底からはい出て来て、押し入れの国のことを見て感心するかもしれない。そうしたら、ママも押し入れの国に住まわせてあげてもいいと思う。

 戻ってからいっとう始めにすることは、やっぱり背中に真っ白い羽根を書くことだろうな。

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