桜の似合う人
お久しぶりです。紅桜です。
この小説は私が書かせていただきました。
季節外れで申し訳ありませんが、お楽しみ頂ければ、と思います。
「高校入学、おめでとう。」
そう言って微笑む貴女は、相変わらず美しかった。
三月ももうすぐ終わりを告げる頃。エスカレーター式の学校で受験もなく高校生になった僕を、それでも入学祝いだと言って、大学2年になる従姉は遊園地に誘った。
「ごめん、優陽さん。待った?」
入学祝いの言葉と共に浮かべた微笑みにうっかり見入ってしまってから、はっとした。いくら、誘ってくれたのが向こうだからと言って、年上の女性が、しかもわざわざ僕の家の前まで来てくれたのに待たせてしまったことに気づき、申し訳なくて慌てて階段を駆け下りた。
「そんな慌てなくてもいいよ、今着いたばかりだし。あんまり急ぐと転んじゃうよ。」
優陽さんが、そういって楽しそうにクスクスと笑うものだから、顔が一気に火照ってくるのを感じながらも止められなかった。そうして僕は、じゃあ行こっか、という優陽さんの声に赤くなった顔を俯いて隠しながら、小さく頷いたのだった。
流石に春休み中なだけあって、遊園地はかなり混み合っている様子で。間にお昼ご飯を挟み、ジェットコースターやくるくると回るタイプの乗り物にいくつかと、観覧車に一度乗ると太陽は既に傾き始めていた。
「これ降りたら、どうする?」
終わりの近くなった観覧車の中でそう尋ねた僕に、優陽さんはどこか悪戯な光を秘めた瞳で笑って答えた。
「ちょっとね、行きたいところがあるの。付き合ってくれる?」
妙に楽しそうな優陽さんに手を引かれていった先は、いわゆる穴場スポットだった。一瞬、季節外れの粉雪か、幻でも見ているのかと思ったほど、美しかった。満開の桜から、ひらひらと花びらが舞い散る。
「ね、綺麗でしょう?」
優陽さんはそう言いながら数歩先でこちらを振り向いた。似合うな、と思った。優陽さんが桜の様な儚い雰囲気だという訳ではない。けれど、不思議なほど互いが互いを引き立て合っていて、美しかった。
「うん。すごく、綺麗だと思う。」
そう言ってから、まるで靄がかかったかのような鈍い思考の中で少し考えて、つけ足した。
「…よく、似合うね。優陽さんに、桜。」
その言葉に優陽さんはゆっくりと目を見開いた。いや、きっと、ゆっくりとしていたのは、僕の目がそう捉えただけなのだろうけれど。
「ありがとう。そんなこと、初めて言われたよ。うれしい。」
言葉の通り、うれしそうに微笑んだ優陽さんに対して、僕は若干苦笑した。初めて言われた、か。それはそうだろう。桜が似合う、なんて。まるで口説いてるかのような台詞だから。だけど、それが僕の本心で、本当に心の底からそう思ったのだ。
「…ね、桜の花言葉って、知ってる?」
不意に尋ねて来た優陽さんに、僕は首を横に振った。
「桜の花言葉は、ね…。」
それを聞いて僕が漏らした、やっぱり似合う、という呟きに、優陽さんは珍しくその頬をほんのりと赤く染めたのだった。
お読み下さりありがとうございました。ご感想など頂けましたら大変嬉しく思います。
桜の花言葉…精神美、優れた美人