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私は異世界の魔法使い!?  作者: 浪速ゆう
Parallel universe
3/61

次元の歪み

「……いっ、以外と遠いんだね」


 青空マーケットを抜けて宮殿を目指す。けれどなかなか目当ての宮殿にはたどり着かない。あんなに近そうに見えるのに。

 はぁ、と小さく溜め息を漏らし、涼しげな表情でふわふわと飛んでいるノアを見やった。


「ほら、頑張ってよおねぇちゃん。もうちょっとだよ」


 そうは言っても……ノア飛んでるからいーかもしれないけどさ。なんて、喉まで出かかった言葉はなんとか胃の中へと送り返した。


「ねぇ、ノア」

「なんだい?」


 声をかけると長い耳がピクピクと私に向かって揺れる。……アンテナみたいだな、なんて思いながら話を続けた。


「明らかに私の知ってる世界とはかけ離れた国なんだけどさ、ここはどーいう世界なの?」

「うーんそうだね……正直僕も世界自体は知ってるけど、ここがどういう世界なのかって聞かれたら詳しくは知らないんだ。なんせ次元そのものはたくさんあるからね」

「そんなにあるの?」

「あるよ」


 ノアは両手を大きく広げ、空を仰いだ。


「例えば、おねぇちゃんの選択ひとつで変わってゆく未来。おねぇちゃんを軸として織り成してゆく次元や、おねぇちゃんの選択によってじゃなくて、そのご先祖からの選択で作り上げられた別の次元。それはどちらも無限に広がっているからね」


 空から視線を私に向けて、にっこり微笑んだノア。そんなノアにしかめっ面を送る私。

 ……まただ。また、ノアの説明が理解し難い。それはきっとノアにとって、当たり前にあったことで、当たり前に事実としてそこにあるからなのかもしれない。ーーけど、私にとっては当たり前じゃないから!


「ちょっと待ってよ。前半の私を軸に織り成してゆくって話は、私の選択ひとつひとつで未来が変わるから放射線状に次元が広がりを見せてくってことだよね?」

「そうだよ」

「じゃあその後の方は? 先祖からの選択で作り上げられた別次元って、それは本当に全くもって別なんじゃないの? そこに私は存在しないよね?」


 平凡なサラリーマンのパパとママの間に生まれたのが私。そのパパとママが結婚しなければ、子供を産もうとしなければ私は生まれなかったって事でしょ? そしたら2人が結婚しない未来には私は存在すらしないよね。

 それにさっきのノアの話ではやっぱり不可解なのが、この世界の様子。


 ーーどーいう選択をすれば、こんなへんてこな世界が生まれるのかーー?


 人だけでなく動物やら伝説上の生き物みたいなヤツ、挙げ句ゲームの世界のキャラみたいなやつまでいるし。


「おねぇちゃん、それは違うよ」


 ポップでカラフルなこの世界の風景に比べるとかなり地味な私の黒髪のボブヘアー。その髪をくしゃくしゃと手で乱しながらノアの言葉に耳を傾けた。


「選択によっておねぇちゃんが生まれる要素がなくなったとしても、違う形で違うところでおねぇちゃんは生まれてるんだ。だからこの世界を見る限りだと、今のおねぇちゃんが選ばなかった選択肢によって生まれた世界ではないみたいだけど、でも必ず、おねぇちゃんは存在するはずだよ。どこの次元でも魂は転生するんだ、必ず」

「……そうなんだ。じゃあ」


 ーーじゃあ、ここで存在する私は、この世界に存在する私は、海斗を知らないかもしれないんだーー

 それどころか、パパやママが違うのかもしれないんだね……。なんとなく複雑な気分だ。


「なに?」


 途中で言葉を飲み込んだ私に、ノアは可愛らしくあどけない表情で首を傾げた。


「ううん、なんでもない」


 変な事考えてないで、とりあえず私はこの世界の私の安否を確認しなくちゃ。確認してからこの世界の歪みとやらを調査しなければならないんだから。ーーじゃないと、あっちの世界の私が死んじゃう……。それだけはなんとしても阻止しなくてはいけないんだ。絶対十三歳なんて若さで死んでたまるもんか! 

 それと……海斗と仲直りして、私の気持ちを伝えるんだから。

 

「ねぇ、やっぱりもうひとつ聞いてもいい?」

「いいよ」

「私がここにいる間に、あっちの世界の私が死んじゃったりなんてしない、よね?」


 ーーチラリ。ノアの顔を目だけで見やる。

 まさかとは思うけど……もしこうしてる間にも私の体が衰弱していって、死ぬなんて事になったら本末転倒もいいところだ。


「それは大丈夫だよ。僕は時の番人だって言ってるでしょ? あの時空の時は止まったままだから。というよりも、僕らがこの世界に旅立った瞬間に戻る事は出来るから」

「そっ、そっか。よかった」


 ほっと胸を撫で下ろし、一息つくのも束の間、再び私の頭は別の疑問をはじき出した。


「ねぇ、それならさ、わざわざ私がこうやってここに来なくても、その歪みが生じた瞬間の次元にノアがいれば私はなんとかなったんじゃないの? そのなにかしらの事が起こる前に止めるとか」


 まぁ、その歪みとやらがどういったもので起きたのかわらかないんだから、見つけるのも止めるのも困難だとは思うけど。


「おねぇちゃんは……薄情者だね」


 なんでそうなるのよ。

 ノアの真ん丸な瞳にトゲを感じる。


「だってそうでしょ?」

「おねぇちゃん、既に面倒くさくなってない? 自分の生死がかかってるっていうのに」

「面倒くさいなんて……そんなことないよ」


 そんなの初めっから面倒くさいと思ってたんだから。いくら自分の命がかかってるとはいえ。けど、だからといって投げ出すほど、軽い判断でここに来た訳じゃない。

 でもそんなに時の番人って役職を推すのなら、ノアだけでもなんとか出来たんじゃないかって思ってるけど……。

 ただ、口にはしないけどね。


「だいたい、それが出来れば僕だって苦労はしないよ。けど、数ある次元で同時に二つも歪みが現れたんだよ。しかもそれは時間や場所をピンポイントに指してた訳じゃないんだ。ずっと違和感みたいなのがあったけど、それが何かわからなかったんだもん」

「じゃあ、その違和感ってどんな?」

「僕の耳の付け根がすごくムズムズしてたんだよ」


 そう言って折曲がった耳を手で押さえ、金髪の隙間から耳の付け根を見せてきた。


「……それって、次元の歪みと関係あるの?」

「今までこんな事はなかったから」


 当てにならない話だ。真剣に聞いていた私が馬鹿みたいじゃない。


「じゃあ、なんであの時、私のところに来たの? 歪みの原因や場所はわからなかったんでしょ」


 初めて会った時、ノアは言った。私を助けに来たって。それから、私はまだ死ぬはずじゃないって。じゃあそれらはどうしてわかったのか。


「歪みが起こり始めた原因はわからないけど、歪んだ瞬間はわかったんだよ。耳の付け根に鋭い痛みと、強い次元の歪みが現れたからね」

「ふ〜ん……」


 まだまだわからない事だらけだったけど、ノアが再び前を向き、進む速度を上げるから私もそれに習って歩む足を速めた。


「さぁ質問はそのくらいにして、早く行こうよ。行って全てを解明しなくちゃ!」


 うん、と小さく声を返した。けれどその声には強い意志と信念を携えて。

 ーー絶対に元に戻るんだから。あの世界のあの場所に、必ず。そうして私も前を見やった。少しずつ近づいてゆく黒い宮殿を睨みつけるように。

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