唐突な旅立ち No,6
胴体は両目の視野では捉え切れないほど長く、この空間全体に伸びているのではないかと疑う。
それはトカゲというより竜といったほうが分かりやすい。
だが、伝説に出てきたりする派手ないでたちの竜とは程遠い、腐敗し、朽ちた竜だった。
胴体の殆どがずたずたになり、傷口からは骨が見える。
皮膚はただれ、悪臭がしてきそうな勢いだ。
その竜は「グググググ」と気味の悪い唸りを上げる。
突然、美由の体が何かに引き寄せられる。
海斗はその異形の怪物に恐れを憶え、逃げ出そうとする。
だが体はその場に浮かぶだけ。
竜の両の目が海斗を捕らえる。
(これって・・・まずい・・・?)
「グググググググ・・・・・カァァァァ・・・・」
竜が口をあける。
口周りの皮膚は溶け始めていて、口を開くとそれが引き伸ばされ、糸を引く。
「う・・・わ・・・・」
海斗が恐怖に身を強張らせていると、横から何かが近付いてきた。
人、の形をしている。
「受け止めてっ!!」
ハッとして振り向き、しっかりと受け止める。
「あ、ありがとう」
「いや、いいよ」
海斗は初対面のこの少女に自己紹介などどは考え付かなかった。
まず自分が直面しているこの場面。
これが一番の問題だった。
「これって・・・ピンチっていうのかな・・?」
少女が恐る恐る聞く。
「簡単に言うとね。詳しく言えば死の境地に立たされてるってやつ?」
「ピンチと思ったほうが気が楽だったのに・・・」
「話してる暇は無い、まずこの場を乗り切ることを考えよう」
「時間も無いと思うけど?」
確かに少女の言うとおりだ。
敵を目前にして考え込むなど言語道断。
「じゃぁ決めよう。神に祈るか、竜のディナーになるか」
「・・・今のうちに神に罪の告白でもしとくの?」
「天国で安らかに・・・・ってしてもらえるかもな」
「その前に臭い胃袋で安らかにしないと」
「あれはごめんだぜ?見るからに腐ってるじゃ・・・「オオオオオオオ!!!」
話しすぎだと咎めるように竜は吼える。
「覚悟は出来たか?出来て無くてももう死ぬぞ?」
「・・・出来てない・・・」
竜は口を大きく開け、二人を飲み込もうとする。
「まだ少し時間はあるから自己紹介、俺は海斗」
「あたしは美由。あの世でゆっくり話しましょ」
驚くくらいに冷静になっている。
死を目前にしたらこうも図太い神経になれるのだろうか。
竜の口の中にはいり、口が閉じる。
次の瞬間、二人の体が光り始めた。
バシッと音がした瞬間、二人は竜から解放された。
竜は頭を吹き飛ばされ、力なく空間の底へ堕ちて行く。
「うわっ・・・死ん・・・・でない?」
「何?これ・・・」
―――危ないところだった。
「誰だ?」
―――私は誰でもない。人でもあり、天使でもあり、悪魔でもある。
「意味わかんない。」
―――分からなくていい。それはどうでもいいこと。
「助けてくれたのか?それとも自分が俺達を殺したいのか?」
―――助けた。そしてあなた達をここから解放する。
二人の正面に小さな扉が現れる。
―――でも、元の世界ではない。私には別世界へのゲートしか開けない。
「ゲート?」
―――私が近くにいられる時間は少ない。後は自分達で解決して。
扉が開き、外の景色が見える。
二人は其処へ吸いこまれ、消えた。
うーん・・・読んでくれた方、感謝です。
何とか切のいいところまで来ました。
でも文章はOTZ