唐突な旅立ち No,5
足場が無く、天井も無い。
上下左右どの方向を見ているのか分からない。
ただふわふわと浮かんでいるようにも思える。
海斗はそんな空間でボーっとしていた。
(ここ、どこだろ・・・・)
あの円に吸い込まれて、その後はこの理解不能な空間に放り出された。
周りは真っ暗。というよりは黒雲がたちこめているとも言える。
周りの黒が雲のように形を変え、蠢いている。
「どこだここはっ!!!」
考えもなしに叫ぶ。
その叫びは虚しく響くだけ。
奇妙にエコーしながら遠ざかっていく。
叫んだのが原因か自然な物か、近くの黒がぐるぐると回り始める。
その回転が止まると、変化が現れた。
回転した空間が黒というよりは赤黒い、乾いた血の様な色になる。
其処から光る二つの赤。
美由は暗闇の中、何をしたらいいのか分からなかった。
ただ辺りを見回しては移動しようと平泳ぎのように手を動かす。
そろそろ疲れてきて空間に身を任せた。
勝手に浮いている、という感覚は気持ち悪いものではあったが、逆に心地よいとも思える。
「どこだここはっ!!」
微妙なエコーの掛かった叫び声。
美由は声の方向を確かめる。
確認しにくいが、其処には誰かが浮いていた。
何故か其処へ行きたくなる。
寂しさからか、畏怖からか、とにかく一人になりたくなかった。
体中を動かして動こうとする。
だが空を掴み、蹴るばかりで前に進まない。
突然、奇妙な感覚が走り抜ける。
黒い景色の中に、確実に存在する何か。
次の瞬間、向こうに浮かぶ人の前にその何かが姿を現す。
全体的にどす黒い赤。
輪郭はトカゲのような形。
目のあたりに光る赤い光。
ルビーのように真っ赤で、恐怖を感じさせる光。
その異形の生物は段々と全貌を明らかにしていく。