第一話 奇襲
この物語はフィクションです。
実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
「と、とりあえず通報するか? いやいやいや、これを話しても警察が信用してくれるわけない! おいおいおい、あいつ、めっちゃこっち見てるよ! 何なんだあれ、俺逃げられるのか!? まだ、生きていられるよなぁ!」
都会の路地裏、高く、そして無数に立ち並ぶ黒いビルに拒絶され、月の光は悪を照らせない。
この光の砂漠に心地よい朝日が差し込む事はないだろう。
理不尽に入り組んだ道の中、闇は長く、静かに青年の叫び声を飲み込んだ。
この青年、 白夜 盗馬はいわゆる人生のクライマックスに遭遇していた。
学校の帰り、毎日通る道を歩き、毎日見る暗闇の中、毎日曲がる曲がり角を曲がる。
そして、見たことのない死神の来訪。
突然の奇襲に盗馬は今、自分が見ているものを信じることができないでいる。
「知らない」という事はどれほど怖いだろ、「理解できない」という事はどれほど不安を増幅させてしまうのだろう。
そして、暗闇の中で異彩を放つ白く輝く死神は、その恐怖と不安で満たされた盗馬の心の風船を破裂させた。
「これより、私はあなたをこの世界から消さなければなりません」
盗馬の脳がこの現実を受け入れるはずがない。
盗馬の頭には、「全力で現実の否定を、現実の否定を!」その言葉が絶えず、激しく流れる。
その流れが行き着く場所はもう叫びしかなかった。
「なんだよ、突然出てきて死ねだって! バカじゃねえの、夢だろ! 嘘だろ、おい! 消えろ! 消えてれ!」
盗馬の無力さに、白く輝く死神は頬をひきつらせた。
この滑稽な姿に「笑っている」のかと思ったが、白く輝く死神はその禍々しい死神のような姿からは想像できない「泣く」という想定外の表情をとっていた。
「王よ、すまない。私は、私は一度もあなたへの忠誠を忘れたことはない。あなたにあの永遠の苦痛から救い出していただいた時から、私は永遠にあなたのしもべです。しかし……これが私の使命。王よ、私を許してください」
白く輝く死神の言葉を盗馬は「理解できない」物として捉えたはずだった。しかしなぜか不安は増幅せず、脳に流れ続ける「現実の否定」という言葉を「悲しみ」という言葉に変えた。
そして盗馬は頬をつたう冷たい涙に気付いた。
「あれ、なんで俺泣いてんだろ……」
突然の悲愴感に襲われた、盗馬。しかし、白く輝く死神はそれを無視し、無惨に、そして悲しげに告げた。
「別れの時だ。さらばだ王よ!」
次の瞬間、盗馬は、一瞬の激痛と共に意識を無くした。
まどろむ……。ゆれる……。しずむ……。
流れていく……光が、過ぎていく……。
もうろうとした意識の中、盗馬が気づくとそこには花畑が広がっていた。
明るい色の美しい花々、それを隠すような深い霧。それは、実に不思議な世界であった。
「ここは、どこだ……」
まだ1話だけですが読んでいただき、ありがとうございます!
まだまだ他の方々に比べ、下手な文書ですがこれからも読んでいただければ幸いです。