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平凡令嬢、完全無欠な婚約者に釣り合わないと分かっているのに婚約を解消してもらえません。

作者: 衛星 奏志
掲載日:2026/06/19

視点があっちこっちしてすみません。ニーナ視点→ヴィント視点→リーゼ視点→ニーナ視点と切り替わっています。

「いい加減、ヴェルフリート様を解放なさいませ! あなた程度が隣にいて良い方ではありませんのよ」


 私は今、名だたる高位貴族令嬢に取り囲まれ、絶体絶命のピンチに立たされている。


 公爵令嬢の言葉に侯爵令嬢が同意し、加勢する。


「そうですわ。ご自分の姿を鏡で見たことはありまして? よくも恥ずかしげもなくあの方の婚約者でいられますわね。私が貴女でしたらあの方の隣に立つのが恥ずかしくて家から出られませんわ」

「無様にすがりついて、ヴェルフリート様にはリーゼ様というお似合いの方がいらっしゃるのです! 身の程を弁えたらいかがです?」

「貴方のような方が並ぶなんて悪夢を見ているようですわ。すぐさま婚約を白紙にしなさい! でないと酷い目にあいますよ!」


 放課後、学園内の中庭で人目をはばからず令嬢に囲まれ責め立てられ、私は制服のスカートを握りしめ唇を噛んだ。


 周りは誰も助けてくれない。それどころか同意若しくは嘲笑の目で見ているだけ。


 取り囲む令嬢が上位貴族ばかりで伯爵家の私には反論することすら出来ない。


 この婚約が不釣り合いで分不相応なことなんて誰よりも分かっている。


 伯爵家長女である私、ニーナとヴェルフリート侯爵家嫡男ヴィント様の婚約は学生時代親友だった父親同士の希望によって結ばれた。この婚約は家の利益によって結ばれたものではなく、白紙になっても問題になるようなことはなにもない。せいぜい両家の父親ががっかりする程度だ。


 私自身は顔の造形は悪く無いと思う。大きな垂れ目の瞳は愛らしいと褒められるし、人の良さそうな顔は第一印象で相手に好印象を与える。しかし色味が地味なのだ。ブロンドの髪は茶色に近く、瞳も紺色で顔の作りも悪くないだけで平凡寄り。何より身長が低く、昔からちんちくりんな小動物系だと言われていた。


 一方婚約者であるヴィント様は月光を溶かしたような白銀の髪に、夏空のような深く澄んだ青い瞳。鼻は高く、精悍で整った顔立ちで令嬢達を魅了してやまない。身長は高く魔術と剣術をこなすしなやかな体躯は実用的な筋肉が乗っているのだろうしっかりしていて、その立ち姿は神々しいまでに美しい。学園の成績も優秀で文武両道を地で行く人物がヴィント様なのだ。冗談ではなく何でも完璧にこなす、物語の王子様のようだ。


 そして、ヴィント様にお似合いだと言われるリーゼだが、リーゼは金色で緩やかに波打つ髪と、菫のような紫の瞳の美しいご令嬢だ。回復や補助魔法を得意とし、剣士でもあるリーゼは凛とした美しさと勇ましさを兼ね備え、スラリと手足が長くしなやかで、高身長のヴィント様と並ぶとバランスが完璧で美しさも相まって本当に一対の彫刻のように美しい。


 ヴェルフリート侯爵家の傍系の家系で、当主だった母親が亡くなり、婿養子だった父とその浮気相手である後妻と腹違いの弟に虐げられていたのが学園に入学する為リーゼが王都に来て分かった。


 現在は父と後妻と義理弟を排除し、領地教育の為ヴェルフリート侯爵家に一時的に引き取られている。


 ヴィント様とリーゼは本当にお似合いの二人だと思う。ヴィント様は私には勿体ない。顔も学園での成績も平凡な私が、見た目も成績もさらに剣術も魔術も全て完璧な二人にかなうわけがない。皆の言うことに激しく同意してしまうのが更に辛い。


「なんとか仰ったらどう? ここで婚約を解消すると約束してくださいませ。貴方如きの平凡を絵に描いたような田舎娘がヴェルフリート様の隣に居ればこの国の恥になります」

「そうですわ、身の程をわきまえなさい」

「私だって……」

「なんですの? 聞こえませんわ」

「私だって、自分がヴィント様と釣り合うなんて思っていません」

「当然ですわね。リーゼ様と貴女では女神と地を這うネズミほどの差がありますもの。厚顔無恥もいいところ。さっさと身をお引きくださいませ」

「ですが、取り合って貰えないのです」

「なんですって?」

「何度か婚約を白紙にすることを伝えたけど、取り合って貰えないんです」

「またそんな嘘を仰るのですか? そんな筈ないでしょう? リーゼ様がいらっしゃるのに、貴女なんかと婚約する意味があって?」


 ──ない。


 現在はヴェルフリート侯爵家預かりとなっているリーゼだが、今後はヴェルフリートの広大な領地の一地域を治めている伯爵家を継いで女伯爵になる。

 ヴィント様とリーゼが結婚したとして、夫婦で別の爵位を持つことができるし、二人の間に子供が二人以上生まれればそれぞれ爵位を継がせることが出来る。

 女伯爵と侯爵夫人、リーゼであれば二役を完璧にこなすだろう。

 なのに、なぜか婚約を白紙にすることをヴィント様は了承してくれない。


「でも、ヴィント様が……」


 これ以上言えることがなくて、かといって自分だけの話ではない事で約束する訳もいかず口を噤む。


「なぜヴェルフリート様はこんな……貴女は痛い目を見なければ分かりませんのね」


 酷く冷えた、怒りの声に顔を上げたが、頬に強い痛みと衝撃を受け体が傾いだ。


 バチンっと叩かれた音と重なりキーンと耳鳴りがする。


 扇子を振り下ろした相手は王家の血をひく公爵令嬢。ああ、と思う。しがない伯爵家の娘である私じゃ抗議したとしても学園内での小さな諍いとしてしか処理されない。ましてや周りは敵だらけ。嘲笑はあっても助けはない。


 地面に激突した反対側の痛みに絶望と悲しみが広がる。


 痛みの中、意識を手放した。


 *****


「ヴィント、君の婚約者が中庭で高位の令嬢達に囲まれていたぞ」


 生徒会室に急いで入ってきた友人の言葉を聞き、すぐに中庭へ向かう。


 ニーナが他の令嬢達に何と言われているかは知らない訳ではない。だが、ニーナの素晴らしさを理解しない奴らの戯言などどうでも良かった。正直なところ、自分さえ分かっていればそれでいいと思っていた。なのに先日ニーナから婚約を白紙にしたいと言われた。それは出来ない旨伝え、ニーナを悪く言う令嬢の家には抗議の手紙を送ったが、令嬢達は懲りていないらしい。


 ならば直接注意するまでだ。


 急いで廊下の角を曲がったところで、リーゼと鉢合わせする。


「ヴィント、どうしたの? そんなに血相変えて、ってもしかしてニーナのところに行くの? そうなのね?」

「ああ、そうだ。どいてくれ」

「ちょ、ちょっと! そんな顔して、待ちなさい」


 追いかけてくるリーゼを置いて中庭に急ぐ。

 中庭で生徒達の輪に近付いた時、何かを打ち付ける音がした瞬間、走り出していた。

 小柄なニーナは囲まれたら姿が見えなくなる。


「何をしている」


 険のこもった声で問いかけ、人垣を押し退けていく。その先に倒れたニーナを見つけてすぐに駆け寄った。


 ニーナの額は地面に打ち付けたのだろう擦りむき血が滲みだし、逆側の頬は赤くなっている。


「ニーナっ!」


 追い付いたリーゼが悲鳴のような声を上げニーナに駆け寄った。


「どうしてこんな……聖なる女神よ、我が声を聞き届け癒しの力を──」

「リーゼ様っ!? なぜそんな女に癒しの魔法を」

「そんな女? 貴様か、ニーナにこんなことをしたのは」


 怒りを隠すこともなく言えば、周囲の令嬢が青ざめる。


「ヴェ、ヴェルフリート様、わたくしはヴェルフリート様とリーゼ様の為を思って──」

「俺とリーゼの? ハッ」


 流石に公爵家の令嬢ともなれば肝が据わっている。怒りのせいで抑えられず溢れた魔力を受けても言い返せるとは。他の令嬢達は恐怖にガタガタと震え、中には泣き出し、座り込む者もいる。


「何様だ? 俺もリーゼもそんなこと頼んでいないし望んでもいない。大切な婚約者を傷つけられたのだ、公爵令嬢だろうが容赦はしない」


 そんなこと言われるとは思わなかったのか、公爵令嬢が驚愕に顔を青くしている。


「ヴィント」


 リーゼの声に後ろを振り返る。

 ニーナの傷は跡もなく綺麗に治っていてホッとする。


「ヴィントはニーナを家まで送ってあげて。ここは私がやっておくから」


 今最優先すべきはニーナだ。傷は治ったとはいえ、安静にしておくべきだ。

 ニーナをそっと抱え上げ、細く小さい体を腕の中に包み込む。


「あとは頼んだぞ」

「御意に」


 臣下の礼をとるリーゼを残してその場を去る。

 背後ではリーゼが、令嬢達に冷たく抗議している声が聞こえる。

 その怒りもまた相当なものだ。リーゼもまた自分同様ニーナのことを好いているのだから。


 ニーナとの出会いは幼少期。

 互いの両親の仲がよく、よく行き来していた。


「ヴィント様、私はヴィント様のこの手が好きです。頑張っている人の手だから。私も、ヴィント様に並べるように頑張りますね」


 まだ小さい頃、今の自分が作られる前、剣の稽古で傷だらけの手を見てニーナが言った。


 その笑顔は優しくて可愛くて、出来ない自分を認めてくれているようで嬉しかった。


 今の自分があるのはニーナがそばにいてくれたから。その愛するニーナを傷付けられて、黙ってなどいられない。


 公爵家だろうが絶対に許さない。


 腕の中にすっぽり包まれているニーナの額に口付ける。

 怒りを燻らせながらも、優しい温もりに、心から安らいでいくのを感じていた。


 *****


 私、リーゼは回復魔法使いとして重宝されているが、今この時ほどそれを良かったと思った瞬間はない。


 回復魔法でニーナの傷はすっかり癒えた。

 だが、まだ目覚めない。


 今にも暴れ出しそうなヴィントにニーナを託す。

 ニーナを抱えたヴィントは一旦は怒りを抑えた。


 腕の中のニーナを見つめるヴィントの瞳には、ニーナへの愛が溢れており、誰の目から見てもこの婚約がヴィント希望のものであると分かった。


「え? あ……わた、し」


 公爵令嬢が、折れた扇子をパッと手放し、青褪める。

 扇子が折れるほどの力。それで打たれたニーナはどれほど痛かっただろうか。


 私は公爵令嬢の名を呼んだ。

 怒りを抑えようと努めたが、低い声が出る。


「あ……これは、違うのです。私はリーゼ様がヴェルフリート様のことを好きだと思っていて、りょ、両思いなのにあの伯爵令嬢が邪魔してると思って……」

「私は暴力を振るう人がこの世で一番嫌いです。ましてや、私を救ってくれた誰よりも、ヴィントよりも大好きなニーナに向けられたとあれば絶対に許さない」

「え……あ……」

「暴力と言っても殴る蹴るだけではないんですよ? 言葉の暴力だってあります。跡も残らず、目に見える傷もない。でもね、言葉は何よりも鋭利でいつまで経っても消えない傷になる」


 ふわりと周りに溢れた魔力が立ち上る。


 継母に虐げられ、義弟に暴力を受けていたからこその言葉は重い。


「なぜ? なんの罪もない、ヴィントと婚約してるというだけの? ニーナがこんな目に合わなければならないのでしょうか。この状態を放ったらかしにしたヴィントのバカさ加減も悪いと思いますけど、皆様、私とヴィント、どちらの感情も無視してますよね? それで? 私達のためにですって? ふざけるなよ?」


 令嬢に相応しくない言葉だった。

 だが、目は怒りで真っ赤になり、纏う魔力がその場にいる全員を拘束するように支配している。


「感情的には実行犯である貴女方は元より、見ていて止めなかった皆様も同罪として八つ裂きにしてやりたいところですが、それをするとそこの方々と同等に成り下がりますし、何より優しいニーナが望まないでしょうから──」


 フッと周囲を拘束していた魔力が消える。


「実行犯の三人にはきちんと責任を取ってもらいますし、周囲で見ていた皆様は何があったのか、全て正しく証言してください。顔は覚えましたから。お分かりになったと思いますけど、ヴィントはニーナを心から愛している。彼の怒りも私と同等、もしくは私以上になるでしょう。侯爵という身分がある分、ヴィントの方が恐ろしいと思います」


 遠くから学園の警備がやって来るのが見える。


「今回のことは、なかったことにはしませんから、絶対に」


 警備員に三人を引き渡して、後始末まで済ませて、ようやくニーナのもとに向かった。


 *****


 ふっと目を覚まし、見えた視界は見慣れた私──ニーナの部屋の天井だった。


 一瞬記憶が混濁したが、すぐに気を失う直前のことを思い出し、頬に手をやる。


 扇子で殴られた頬は腫れもなく痛みもない。

 あれは夢だったのだろうか、と思ったところで


「目が覚めたんだね」


 と、聞こえた声の方を向くとヴィント様がベッドのすぐそばに座っていた。


「気分はどう? 体の傷はリーゼが治したから痛みとかはないと思うんだけど、気になるところや辛いところはない?」

「リーゼが魔法を? 私なんかの為に?」

「私なんか、じゃないよ」


 ヴィントはふふっと笑う。


「君は知らないかもしれないけれど、リーゼは君に恩があるんだ」

「恩? 私に、ですか? 覚えがありません」


 本当に心当たりがなくて首を傾げる。

 ヴィント様が優しく笑い頬を撫でてくる。


「ニーナのそう言うところなんだけれどね、好きなところ。俺も、リーゼも」

「え? 好き???」


 びっくりして固まっているとヴィントが情けない顔で笑う。


「そっか……伝わってなかったんだね。どうりで……」


 あまり感情の出ないヴィント様が少し落ち込んでいるように見えて慌ててしまう。


「えっと、私が悪いんです。だって、私じゃヴィント様に釣り合わないじゃないですか。ヴィント様もリーゼもなんでも出来てかっこよくて……でも私は何にもない、平凡、ですから」

「君は何にもないと言うけれど、今、リーゼにとって心から信頼できる人は君だけだろうね」


 信頼? 私が? ヴィント様ではなく? 


 俄かに信じられない。私には全く心当たりがない。出会った頃は確かに塞ぎがちだったけれど、リーゼは最初から優しかったし、見惚れるほど綺麗でかっこいい憧れの女性だった。


「リーゼは義理の弟に暴力を振るわれていた話は知っているだろう? そのせいで男に対して過剰に身構えてしまうんだ。うちに引き取られた当初は拒否反応が強くて父すら近くに寄れなかった。そんなリーゼを外へ連れ出し、癒し、笑顔を取り戻させたのは君なんだよ。俺なんてまだ信用してもらえていないし、ニーナの婚約者だと認めてももらえていない」

「私がヴィント様の婚約者であること、ではなく?」

「うん、俺がニーナの婚約者に相応しいか、だね。今回のことでまたグチグチ言われるんだ、きっと」


 力なくへにゃりと笑ったヴィント様だったがすぐに真剣な顔に変わる。


「今回は俺やリーゼのせいで君に多大なる迷惑をかけた。まさか彼女たちが君に怪我までさせるなんて。俺の認識が甘かったよ。本当に申し訳ない」


 ヴィント様が立ち上がり深く腰を折った。


「そんな、やめてください! ヴィント様もリーゼも悪くありません」


 慌てて起き上がるとすぐにヴィント様が気遣うように背に手を添え、クッションを背中に当てて居心地のいいように調整してくれる。


「こんなことになってしまって俺にその資格はないかもしれないけど、俺はこのまま君の婚約者でいたい。もし君が今回のことで俺に見切りをつけると言うのなら俺にそれを止めることは出来ない」


 伯爵家からしたら、身分が上の侯爵家にこちらから婚約の解消を申し出ることは、よっぽどの瑕疵がない限りは出来ない。今回は瑕疵とは言えないものだ。それを踏まえてヴィント様は婚約解消もやむ無しとこちらを尊重してくれようとしている。


 それだけ、今回の事の責任を重く見ているということと同時に、私のことをちゃんと一人の人間として見てくれているということだ。


「俺は君が好きだから、君の婚約者でいたいし、結婚するなら君以外考えられない」


 手を取られて指を絡めて、甲に口付けられる。


「ニーナ好きだよ」

「ふぇ?」


 叫び出しそうな声を抑えたら変な声になった。


「これは、夢?」

「夢、とは可愛いことを言うね?」

「こ、こんなの、ヴィント様が私を好きだなんて

 ……信じられない」


 赤くなった頬を両手で押さえる。


「もう体は大丈夫そう?」


 リーゼが回復をかけてくれたのだ、問題があるわけがない、と不思議に思って頷くと──


「じゃあ、夢じゃないって証明してあげる」


 嬉しそうな顔が近付いてきて、首元に顔を埋める。

 首筋に触れた感触の後、チクっと痛みが走る。


「痛っ」

「……ほら、夢じゃないだろう? 後で鏡を見るといいよ」


 今までヴィント様が口付けていた首筋を手で押さえる。


「〜〜〜っ、ヴィント様っ!」

「赤くなって可愛いね。本当に可愛い。これからはたくさん伝えていくから。ニーナにも、周りにもアピールしないとね?」

「も、分かっ、分かりましたからぁ」


 ちゅ、ちゅ、と顔中にキスをしてくる。


 突然の愛情過多に、頭から湯気が出そうなほど茹で上がって、再びベッドに沈んだ。


 *****


「ニーナ、ごめんね! こんなことになって。令嬢達も見てた人達も何が悪かったのか、ちゃんと説明して分かってもらったから。それに、私もヴィントもニーナのこと大っっっっっっ好きだって宣言しといたから。これからは私が守るね」

「リーゼ、よくやった! だが、これからニーナを守るのは俺だ」

「いやいや、そもそもさ、ヴィントがちゃんとしてたら起きなかったことでしょう?」

「それは返す言葉がないが、リーゼも似たようなもんだろ」


 二人の口論をにこにこ見ていると、突然口論が止まり、同時に二人がこちらを見る。


「え? ニーナいつもに増して可愛いわね?」

「ほんとに可愛い。俺のニーナ」

「なるほど、女の子は愛されると可愛くなるって本当なのね」

「あ……愛っ?」

「じゃあ、これからもっと可愛くなるわけか、虫除けをちゃんとしとかないとな」


 ヴィント様の顔が物騒に見える。


 ヴィント様の指示で三日休んで、休み明けに登校すると学園の雰囲気が変わっていた。


 まずは、あの時周囲にいた人達が次々と現れて謝罪をしてきた。皆本当に反省してると言うか、申し訳ないと意気消沈しているようだった。


 その間も、ヴィント様とリーゼが私を守るように両側に立っていた。


 そして、あの時責め立てた高位貴族三人は学園から消えていた。


 聞いた話によると公衆の面前で行われたヴェルフリート侯爵家の婚約者への暴行は、目撃者の多さから公爵家といえど有耶無耶にすることはできなかった。その上、ヴェルフリート侯爵家から相当な抗議があって、当事者三人は学園を辞め、修道院へと送られたそうだ。


「ヴィントの怒りは凄まじかったわ。我が主ではあるけど、恐ろしいわね。でも、それもニーナへの愛ゆえね」

「その、愛って……本当にそう思う?」

「まだ信じられない?」

「ううん。大切にしてくれてるのも好意もちゃんと感じてる。でも、なんで私なのかなって思って」

「ヴィントって何でも出来てあの見た目でしょ? しかも侯爵令息。周りはその色眼鏡で見てしまうの。ニーナだけなのよ、ヴィントをヴィントとして見てるのは」


 昼休みの中庭はチラホラと人が休んでいた。

 忙しいヴィントは生徒会室へと連行されて行き、リーゼと二人でお茶を飲む。


「私の時もそうだったわ。私のことを可哀想な子という色眼鏡でニーナは一度も見なかった」

「だって、会った時からリーゼは美人で優しくて何でもできる子だったもの」

「うん。だから私はニーナが大好きなの」

「??? 全く分からないわ」

「そう、それがいいの。私もヴィントもそんなニーナに救われているの。だからね、そのままのニーナでいて。それがヴィントにも私にも力になるから」

「そうなの?」

「そうなの。ヴィントの愛はとーっても重いと思うから頑張ってね」


 私だってヴィント様のことは誰よりも好きなのだ。


「望むところ!」

「だそうよ? 良かったわね」

「へ?」


 ふわっと体が浮く。ヴィントに抱え上げられていた。


「迎えに来た」

「あっ、えっ、あわわ」

「これから遠慮しないから。覚悟してて」


 至近距離で蕩けた顔で見つめられながら囁かれて、ぼんっと一気に顔が燃え上がる。


「お、下ろしてぇ……」


 消え入るような声で言っても下ろしてもらえず、そのまま教室まで連れて行かれた。


 思った以上の愛情表現で私が根を上げるのも時間の問題だと気付くのはすぐ後のことだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?三角関係です。変則的ですけど。

お楽しみいただけましたら幸いです。

またお会い出来ますように。


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だが王子は言った。「婚約を破棄する。魔獣は置いていけ」と。お断りします。

グリフォン、ワイバーン、フェンリルを連れて出ていったら、王国の守護が崩壊しました。


魔獣を置いて出て行け? お断り。魔獣と共に出て行ったら国が滅びました。

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