9話〜想いの形〜
テーブルの上がプリントで埋まるなんて、休日の光景じゃない。
数学、英語、国語、理科、社会。五教科フルコース。担任絶対許さない。
しおり「ソラ、ここ教えてほしいんだけど」
しおりが椅子ごと近づいてくる。近い。近すぎる。肩触れてる。
僕「えっと……この式をこうやって整理すると——」
しおり「あっ、分かった! 天才じゃん!」
大げさに褒められても、全然慣れない。
向かいの席で問題を解いていたりほが、ほんの一瞬だけペンを止めた。すぐ動き出したけど。
僕「りほはそこ大丈夫?」
りほ「……うん。分かってる」
声はいつも通りなのに、さっき止まったペンの感触が頭から離れない。
気のせいだよな。絶対そう。
しおり「はい休憩、お菓子タイムいきまーす」
しおりがチョコをドンと置き、りほは麦茶を三つ配ってくれる。
俺の家のはずなのに二人がテキパキ動いてて、なんかもう慣れてきてるのが怖い。
僕「来年も三人同じクラスだといいよな」
特に深い意味なく言っただけなのに、二人が同時にこっちを見た。
しおり「それはもう決定でしょ? 離れないよ?」
しおりがそう言って笑う。
りほ「……うん。私も、一緒がいい」
りほも笑った。でも笑った直後、ほんの一瞬だけ目を伏せる。
しおりもそれに気づいたのか、さっきまでのテンションのまま口をつぐんだ。
気まずくはない。ただ、説明できない空気が少しだけ流れた。
夕方。ラストスパート。
集中力はもう死にかけていて、口が勝手に動く時間帯。
りほ「……ソラってさ、教えるの上手いよね」
りほが唐突に言った。顔は問題集を見たまま。
りほ「上手いっていうか、分かりやすいっていうか……安心する」
語尾が少しだけ震えてた気がした。
しおりがすぐ笑顔で割って入ってくる。
しおり「分かる! なんかソラってさ、優しさの暴力だよね。安心感がエグいの」
僕「暴力ってなんだよ」
しおり「褒めてんの。無自覚系包容力キャラなんだよ、ソラは」
僕「そんなキャラになった覚えないけど……」
しおりはケラケラ笑って、
りほは静かに微笑んだ。いつもと同じ笑顔。でも、奥に何か隠してるみたいに見えた。
気づけば外は暗い。
宿題はラスト1ページ。あとちょっと。終わるはずなのに——
僕「……寝てる」
りほが机の上でダウンしていた。ペン握ったままうつ伏せ。
僕「布団持ってくるよ」
しおり「あ、待って。私持ってくるから。ソラは座ってていいよ」
そう言われたのに、結局俺が毛布をかけた。
眠ってるから大丈夫だろって思ってたのに——
りほの指が、僕の手をそっと掴んだ。
ほんの軽く、でも離さないみたいに。
息が止まった。動けなくなるやつ。
しおり「……ありがと」
しおりが小さく笑った。怒ってない。拗ねてもいない。
なのに心臓の奥をぎゅっと掴むみたいな笑顔だった。
多分、僕だけが状況に気づいてない。
そのあと風呂入って飯食って、結局三人で寝ることに。
布団は気づけば横に三つ、当たり前みたいに俺が真ん中。
灯りを消した直後。
しおり「明日も……一緒にいようね」
しおりの声が聞こえた。俺に言ったのかりほに言ったのか分からない声。
しばらくしてから、りほの声。
りほ「……ずっと、こうしてたい」
どっちの声にも返事をする前に、眠気が襲ってきた。
たぶん僕は、まだなにも分かってない。
でも、きっと二人はもう気づいてる。
このままじゃ終わらないってことに。




