ある意味『当たった』
「うぐぅ……」
私、リゼリア・クローアルはベッドの上の住人になって1か月が経過した。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫そうに見える……?、ヴゥッ!!」
私は口を押さえるとメイドがバケツを用意した。
オロロロロ、と私は口から吐き出した。
「うぅ……、いつまでこんな苦しみが続くのよ……」
「お医者様の見立てだと後もう少しかかる、と」
「地獄だわ……」
この地獄の風景、私だけではなくこの屋敷全体がこんな状態になっている。
両親も現在寝込んでいて私よりも悪い状態で一時は生死を彷徨っていたそうだ。
なんで、こんな状態になってしまったか、というと理由は簡単、食あたりだ。
とあるレストランに食事をした際にどうも当たってしまったらしく翌日からお腹を壊し嘔吐を繰り返している。
「そういえば、今日は貴族学院の卒業式でしたね」
「あぁ〜、もうそんな時期になるのね……」
メイドに言われて私は思い出した。
「本当は出なくてはいけないのに……」
私は壁にかかっている特注のドレスを見た。
「仕方がありませんよ、この様な状態で無理に出席したら学院や王太子様に迷惑をかけてしまいますから」
「そうね……、いや王太子にゲロでもぶっかけてやろうかしら」
私の婚約者である王太子は心配の手紙すら書いてこないんだから。
なんせ自分ファーストで他人の意見を一切聞かない超問題児だから。
ある意味私は生贄みたいなもんである。
……思い出したら腹が立ってきた。
どうせ、今の私の状態だって裏で嘲笑っているに違いない。
完治したらとりあえず王太子の顔面にビンタを食らわしてやろう。
そんな決意をした。
そして数週間後、漸く体調が回復して屋敷内を歩き回れる様になった。
そこへ王家の遣いとして第2王子のスナフ様が来られた。
「ご体調の方は大丈夫ですか?」
「えぇ、ご迷惑をおかけしました……」
「いえいえ、こちらこそ愚兄が迷惑をかけて申し訳ありません」
「そういえば、レナウニー殿下は?」
「その事なんですが……、兄は王太子の座を剥奪され幽閉されました」
「……はい?」
思わぬ発言に私は頭が真っ白になった。
「それでリゼリア様との婚約も白紙撤回される事になりました」
「あの、何かやらかしたんですか?」
「はい、兄、いえ元兄は学院内でとある男爵令嬢と浮気をしていたんです」
「あぁ〜、なんとなく私の耳にも入っていましたが……」
「しかも、リゼリア様にあらぬ罪をきせて公の場で断罪して婚約破棄を宣言しようとしていたんです」
「……はい?」
頭真っ白、その2。
「卒業記念パーティーの場で婚約破棄を宣言したんですが当然ですがリゼリア様はいません。 元兄も男爵令嬢も恥をかいただけで終わりました。 そもそもリゼリア様が体調を崩してるのを知らなかった事自体が問題なんですよ」
う〜ん、きっとパーティーの空気は恐ろしく冷たい物になっていただろうなぁ。
「父も元兄に呆れてしまいまして遂に厳しい判断を下した、という事になりました。 元兄は公の場に出る事は無いと思いますので安心して下さい」
「そうですか……、もう一人の男爵令嬢は?」
「彼女は取り調べを受けて処分されました。 実家である男爵家もお取り潰しになりました」
まぁ、そうなるわね。
しかし、もし体調を崩さずにパーティーに出席していたら断罪されていた、と思うとゾッとする。
勿論、冤罪だから反論なんて出来るけど傷がついてしまうのは確か。
だとしたら食あたりになったのももしかして神のお導きなのかしら?
そんな事を考えてしまった。
その後、両親も回復したけど引退して私が公爵家の跡を継いだ。
お婿さんを迎えて幸せに暮らしている。
但し、食事に関しては生物には気をつけるようにしている。