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山下徹の秘密

作者: 細川光

第1章 突然の変化

2年前、高校1年生の山下徹やましたとおるは、野球部の練習を終え、午後7時に帰路についていた。夕暮れの街を歩きながら、明日の試合のことを考えていた彼は、背後に忍び寄る気配に気づかなかった。突然、頭に鋭い衝撃が走り、意識が闇に落ちた。

目が覚めたとき、徹は自分の身体が別人のものになっていることに気づいた。鏡に映るのは、華奢な体型に長い髪、女性的な顔立ち。混乱と恐怖の中、徹は自分が女体化してしまったことを悟った。病院での検査でも原因は不明。医者は「ストレスや特殊なホルモン異常かもしれない」と曖昧な診断を下すだけだった。

徹の親友、園田翔そのだしょうは、動揺する徹を支えた。翔は同じクラスの野球部員で、明るく実直な性格の持ち主だ。徹が女体化した直後、翔は「どんな姿になっても、お前はお前だ」と笑顔で言い、徹の新しい生活に寄り添った。名前も「徹」では違和感があると、翔が提案した「とおる」という名前で呼び始めた。こうして、山下徹は山下透として新しい生活を始めることになった。

第2章 揺れる心

高校3年生になった今、透は18歳。女体化による体力の低下で野球部を辞め、帰宅部に落ち着いていた。女の身体に慣れるのは簡単ではなかった。鏡を見るたびに、かつての自分とのギャップに戸惑い、制服のスカートを履くことにも抵抗を感じていた。

それでも、翔の存在が透を支えた。翔は変わらずそばにいて、勉強や日常生活の些細なことで助けてくれた。放課後、一緒に帰る道すがら、翔の何気ない笑顔や優しい言葉に、透の心は次第に揺れ始めた。気づけば、翔のことを考えるだけで胸が熱くなり、顔が赤くなる。だが、元男性だった自分が男性に恋をするなんて――その事実に、透はジレンマと恥ずかしさを感じていた。

「俺、こんな気持ち持っちゃダメだよな……」

夜、部屋で一人、透は鏡に映る自分に問いかける。だが、心の奥で芽生えた恋心は抑えきれなかった。

一方、翔もまた、透と過ごす時間の中で変化を感じていた。最初は親友として面倒を見ていただけだった。だが、透の強がりながらも繊細な一面や、時折見せる無防備な笑顔に、翔の心は惹かれていった。自分でも気づかぬうちに、透への想いは友情を超えていた。

第3章 届かない想い

ある日、校庭で翔が他の女子生徒と楽しそうに話しているのを見た透は、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。嫉妬――自分でも認めたくない感情だった。

「俺、こんな気持ちになる資格なんてないのに……」

透は自分の恋心を押し殺そうとしたが、翔の優しさがそれを許さなかった。

ある雨の日の放課後、翔が透を自宅まで送る途中、二人はコンビニの軒先で雨宿りをした。濡れた髪を拭う翔の手が透の頬に触れ、二人とも一瞬動きを止めた。

「透、お前、最近なんか変だぞ。なんか隠してることあるだろ?」翔が真剣な目で尋ねる。

「なんでもないよ、ただ……ちょっと疲れてるだけ」透は目を逸らした。

本当は言いたかった。「翔のことが好きだ」と。だが、元男性としてのプライドと、性別の変化による戸惑いが、言葉を喉に詰まらせた。

第4章 謎の影

透を襲った何者かの正体は、2年経った今も分かっていなかった。警察の捜査も進展せず、ただの通り魔の可能性が高いとされていた。だが、透は時折、背後に誰かの視線を感じることがあった。特に夜道を歩くとき、ゾッとするような気配に襲われるのだ。

「まさか、あの時のやつがまだ……?」

不安を打ち消すように、透は翔との時間を大切にした。翔もまた、透が何か怯えていることに気づき、ますます彼女を守ろうとしていた。

第5章 告白

文化祭の日、翔と透はクラスの出し物で忙しく動き回っていた。夜、校庭でのキャンプファイヤーを眺めながら、二人は並んで座った。

「透、俺、お前のこと……ずっと見てきたけどさ」翔が口を開く。「お前がどんな過去でも、どんな姿でも、俺には関係ない。俺、透のことが好きだ」

突然の告白に、透は目を丸くした。心臓が激しく鼓動し、涙が溢れそうになる。

「翔……俺、実は……」透は勇気を振り絞った。「俺も、翔のことが好き。だけど、俺、元は男で……こんな気持ち、持っちゃいけないって思ってた」

翔は驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。「バーカ、そんなの関係ねえよ。俺が好きなのは、今の透だ」

二人は見つめ合い、キャンプファイヤーの炎が揺れる中で、初めて互いの手を握った。

第6章 新しい一歩

それから、透と翔は恋人として新たな関係を築き始めた。透は自分の過去や性別の変化に悩みながらも、翔の愛に支えられ、少しずつ自分を受け入れていく。

だが、どこかで、透を襲った何者かの影はまだ消えていなかった。ある夜、透は再びあの気配を感じ、恐怖に震えた。翔に相談すると、彼は真剣な顔で言った。

「透、俺が守る。絶対に」

二人の未来はまだ不確かで、謎の襲撃者の正体も明かされないままだった。だが、透は翔の手を握りながら思う。

「どんなことがあっても、翔と一緒なら、乗り越えられる」


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