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04 薄ぼけたステンドグラス

■5月3日

 次の日。僕が朝食のみそ汁に口を付けるのを見計らっていたようなタイミングで、絵里が勝手口の引き戸を開けた。

「おはよー。あ、ごめん、まだご飯食べてたんだね」

 まだ朝の七時過ぎとはいえ、大分の日差しはすでに夏だ。

「おはよ。もう来たんだ。ちょっと待って、すぐ食べるから」

「いいよ、ゆっくり食べてて」

 そう言われても焦らないわけがない。なにしろ起きてやったことといえば顔を洗ったくらいで、ろくに準備をしていないのだ。確かにはっきりとした待ち合わせ時間は決めていなかったけれど、まさかこんなに早く来るなんて。


「本当に大丈夫よ、久しぶりにソラちゃんと遊びたかったし」

 ソラとは僕のうちで飼っている猫だ。絵里は勝手に縁側に回ると、餌を食べていたソラの横にしゃがみこんだ。にゃーん、という甘えた声が聞こえてくる。

 ソラはひと月前と比べてやけにずんぐりとした気がする。ずいぶんと母に甘やかされたのだろう。

 僕の家には猫が絶えない。どうやら猫たちにとって、この家はバグダッドカフェにでも見えているらしい。先代がいなくなったと思えば、次の猫がどこからともなくふらっと現れ、そのまま居着くのだ。

 特によく覚えているのは、中学生のころにいたハナという猫だ。野良のくせに毛並みはつやつやで、ニューメキシコの砂漠のように白かった。

 野生の中で白色の個体は狙われやすいと聞いたことがある。ハナも、たった二年ほどでいなくなった。野良犬にでも襲われたんだろうか、裏山の入口で死んでいたのだ。

 今までの猫たちはいつの間にかいなくなることが多かったので、突然の死を、遺体を目の当たりにするのは初めてだった。

 思えばあの時も絵里が一緒だった。ぎゃんぎゃん泣く僕の横で、母が帰ってくるのを一緒に待っていてくれた。


 そういえばあれが、僕が涙を流して泣いた最後の記憶だったと思う。ハナは僕に死というものを教えてくれた。

 あのとき絵里は、何を考えていたのだろうか。絵里は泣かなかった。絵里もハナとはよく遊んでいて、悲しかったはずなのに。そして、僕の母が帰って来るとすぐに事情を説明してくれた。

 いつかはソラもいなくなる。おそらく、僕のいないときに。その時、僕は泣けるんだろうか。


 食器を片付け、歯を磨き、着替えをする。

 身支度を待ってもらうというのは、落ち着かないものだ。田舎のあけっぴろげの家なので、着替えをする場所も、襖一枚挟んでいるだけだ。前はこんなこと気にもしなかったのに。離れていた時間のせいか、絵里を女性として意識しているせいなのか、考えてみたがわからない。

 歯ブラシをくわえたまま、絵里に声をかける。

「どの道で行く?」

 絵里は「任せるよ」と言ったけれど、その後思い直したように付け加えた。

「ねえ、やまなみハイウェイ通って行かん? 祐樹も走りやすい道のほうがいいやろ?」

「ありがと。助かる。道を覚えてるかが心配だけどね」

 県道十一号線――通称やまなみハイウェイは、大分から熊本までを東西に走っているドライブデートコースの定番だ。目的地の由布岳、由布院周辺もばっちりしっかり通っている。観光用に整備されており、絵里の言う通り、広くて走りやすい道が続いていた。運転慣れしていない僕でも、不安ない程度に。


 運転席に座りエンジンをかける僕を、絵里は興味深そうに見つめていた。

「いつの間にか、いろいろできるようになったんね。ぎこちなさそうに運転してるところが見たかったのに」

 少し寂しそうにつぶやく。

「それって、どっちの意味なの?」

「どっちって?」

「からかってるのか、それとも、元気づけようとしてなのかってこと」

「えー、そう聞かれると両方かな。でも、祐樹が思ってたより大人になってた気がした。私もそろそろ、何かしたいなあ」

 何かって、何を? 僕は喉のほんの手前まで出かかった言葉を無理やり飲み込む。聞けなかった。それ以上踏み込むと高校の頃の話題に戻ってしまいそうで、躊躇した。

 絵里はというと、そんな僕の葛藤など気にもしていないようで、艶のある黒い前髪をひっぱったり伸ばしたりしていた。


 走り出してしばらくはただの田舎道だ。木々に囲まれた暗い道と開けた青空とが、代わる代わるやってくる。コンビニどころか自販機もろくにない。ぼんやりとただ道なりに進むだけだ。

 会話はなかったが、心地よい空気があふれていた。まるで子供のころに戻ったように、同じ空間を共有していた。

 子供の頃の僕らは、一緒にいた時間こそ長かったけれど、やっていたことは意外とバラバラだった。同じ部屋にいても別の本を読んでいたり、ゲームをしていたり。ただ、互いに何ら意識を割かれることがない、空気のような関係だったのを思い出していた。


 道はやがて広くなり、少しだけアクセルを強めに踏み込む。隣をちらりと見ると、絵里がうとうとと舟をこいでいる。車はやがて高速に入る。恐る恐る車を右に寄せ、腕を伸ばして通行券を受け取る。どこに置こうかと迷った瞬間、絵里がすっと右手を差し出した。僕の手からそれをかすめ取ると、すっとダッシュボードの隙間に挟み込む。しなやかに流れる手の動きは、まるで猫が顔を洗うように。


 しばらく走ると、由布岳パーキングエリアの看板が見えてくる。自販機程度しかない小さな場所だが、景色だけは最高だ。

 車を出た絵里は、「んあー」と叫びなのかあくびなのかわからないような声を出して伸びをする。

「ごめん、途中寝ちゃってたよね」

「いいよ、別に。むしろもっと寝ててよかったのに」

 本音からだった。寝られるってことは安心しているってことだし、むしろ嬉しいけどな。

 目の前には、由布岳が広がっていた。ただ、山育ちの僕が目を引かれたのは、新緑よりもロイヤルブルーの空のほう。


「小学校の遠足で来たのって、四年生くらいだっけ?」

 由布岳を見上げながら、僕は聞いた。

「どうだったかな。たしか二回は来てたと思うよ。えーと、たしか二年生と五年生だったかなあ?」

「そっか。そうかも。実はさ、遠足で由布岳って、うちの親からは不評やったんだよね」

「え、なんで? 初耳やわ」

「山なんて周りにいくらでもあるんやから、わざわざ行かなくてもいいのにってさ」

「あはは、それは確かに言いそう。おばさんらしいわ」

 この年になれば母の気持ちもわからなくはないけれど、それでも子供にとって遠足は、どこに行こうが特別なのだ。

 歩きながら、なんとなく自販機の前で立ち止まる。僕が促すと、絵里はアップルジュースのボタンを指さした。

 少しだけ沈黙があった。

 絵里は、うつむいてぽつんと言った。

「私さあ、本当は加志町のこと、あんまり好きじゃないんだあ」

「知ってたよ、それくらい。前から言ってたし」

「でも、何でか知らないでしょ」

「知ってるよ」

「知らないよ」

 こういう話題は初めてではない。小学校のころから腐るほど話していた。だから、絵里が「本当は」なんてあらためて付け加えた意味が、僕にはよくわからなかった。

「じゃあなんでさ。田舎だからだろ?」

 僕は絵里の顔を覗き込むようにして問いかけた。絵里が照れたように恥ずかしがっているものだと思ったのだ。けれど絵里の瞳は意外にもまっすぐとこちらを見つめていて、結果、覗き込んだ僕とばっちりと目が合うことになった。

 その瞳にびくりとして、手にしていたジュースのボトルを危うく落としかける。

「単に田舎だから嫌なんじゃなくて、閉じ込められてる感じが嫌なのよ。見てよ、このへんの山。空に浮いてる感じがしない? うちの周りの牢獄みたいな風景とは大違いだわ」

 天を仰ぐと、確かに絵里の言うとおりかもしれない。初夏の緑に染まった山はきれいにコバルトブルーの空と区切られており、かけらも混ざり合うことはなかった。

 単に開けた地形のせいだろうか。それとも、木々の生命力が見せる錯覚なのだろうか。

「知らなかったでしょ?」

 おどけたような声だった。

「知らなかった、かも」

 たじろぐように、絞り出した。

 言葉をじっくりと心中で反芻したあと、絵里はにんまりと笑った。


 おなかすいたね。そろそろ行こっか。絵里はそう言って立ち上がり、持っていたボトルをゴミ箱に入れた。ころん、と軽い音がした。

 そういえば、と絵里は言った。

「あのときもお弁当一緒に食べようって約束してたのに、祐樹って他の友達と食べてたよね」

「え?」

 それが遠足の時のことだと気づくのに、僕はたっぷり一分は考えた。

 そうだっけ? どうだったろう?

 首筋の産毛が逆立っていった。まるでナイフを突きつけられているように。

「そんな約束してたっけ?」

「あー、やっぱり忘れてたんだ。そうだよ、私が待ってたら、いつの間にか先に男の子たちと食べてた」

 身に覚えがない約束。子供のころの話だ、覚えていなくても普通かもしれない。もしかしたら彼女の誘いの言葉を、聞き逃してしまっただけかもしれない。

 けれど、何か胸に引っかかるものがあった。それを打ち消そうとして考えるけれども、記憶は霧がかかったようにぼんやりとしていた。

「それで、絵里ってどうしたの?」

「仕方ないから、私はマリちゃんと食べたちゃ。マリちゃんも遅れてきてたから、二人で」

「もしかしてその時、先生が気を使って一緒に食べてたときの?」

 絵里はにんまりと笑って言った。

「ほら、やっぱり覚えてた」と。


 昼食は、湯布院近くの道の駅に立ち寄った。二人してお手頃価格の山菜うどんだ。

 せっかくのデートなんだからもう少し洒落たものがよかったんだけど、笑顔で麵をすする絵里を見ていると、どうでもよくなった。

「私思うんやけど、日本人はもっとその土地のものを食べるべきだと思うんよ。ファミレスを悪く言うわけじゃないんやけど、どこに行ってもジョイフルばっかりになっちゃったら、やっぱり寂しいと思うんよ」

「でもさ、どこ行ってもうどんの具がちょっと変わるくらいで、言うほどの変化ってなくない?」

「いいじゃない。おうどん、美味しいよ。――そうじゃなくてさ。ええと、私が言いたいのはね、チェーン店よりも小さい個人店でお金を落とすべきなんじゃないのかなってことよ」

 ずずー、っと汁をすすりながら、絵里の講釈に付き合う。これもなかなかいいものだ。話の内容なんてうどんの具のようなもので、そのとき美味ければなんでもいいのだから。


「ところで、この後どうする? 湯布院通りまで行ってみる?」

 由布院駅から続く通りには、いろいろな雑貨屋さんや美術館が並んでいて、ちょっとしたデートスポットになっている。せっかくだから遊びに行こうかと提案したのだが、絵里は心配そうな顔をした。

「んー、それでもいいけど、車が停められるかなあ?」

「あ、そういえば」

 うかつにも僕は、今日がゴールデンウイーク真っ只中ということを完全に忘れていた。

 普段の日曜日でも観光客で混み合うというのに、慣れない運転で空いた駐車場を探し回るなんて、あまり考えたくもない。

「ねえ、混んでる道なんか避けて適当に走ろうよ。きっと楽しいよ」

 迷っている僕に、絵里が明るく笑いながら言った。きっと気を使ってくれたのだろう。

「じゃ、混んでるところは避けて、適当に回ろうか」


 道の駅でもらった観光地図を手に、目的地を探しながら走り出す。金鱗湖の看板を通り過ぎて山道をしばらく走っていたら、ぽつんと大きな看板があった。緑色の文字で『ステンドグラス美術館』と書いてある。

「行ってみる?」

「いいよ。知ってるところなの?」

「ううん、全然知らんよ。でも、知らんところのほうが面白いよね」

 同感だ。絵里と回るのが大事なのであって、どこを回るかはたいした問題じゃない。


 地図を頼りに右折して、左折して。たどりついたのは、田んぼの中にぽつんとある洋館だった。広い駐車場には僕らの車しか停まっていない。

 目の前に立ってから初めて気づいたのだが、どうやら美術館の建物は、古い教会を改装したものらしい。赤茶けたレンガの屋根の上に、ちぐはぐな青銅色の十字架が乗っかっている。なんだか後から拾って付け直したようだ。


 ムスカリの植えられたプランターが並ぶ。小さい羽虫が寄ってきて、僕は少し嫌になる。

 ドアは古びた木製で、やけに重たかった。体で押さえて絵里を先に通してやる。

 薄暗いカウンターの向こうで、やる気のなさそうなお姉さんが、めんどくさそうに振り向いた。

「いらっしゃいませえ」と、間延びした声。

「大人二枚、二千円ね」

 お姉さんはこちらの年齢も聞かずに、チケットを二枚差し出した。薄っぺらいパンフレットをおまけに差し出すと、低い声で説明をする。

「こっちの建物は展示館になってます。トイレはこっちにしかないからね。向こうの建物は、教会。自然光を取り入れて、当時のままのステンドグラスを再現してます。チケット一枚でどちらも入れるから、あとはご自由にどうぞー」

 それだけ言うとぴたりと動きを止める。僕は情けなくも、はい、と小さく返事をしただけで、言われるままの金額を支払う。

「愛想、悪いね」

 ぼそぼそと絵里が耳打ちしてきた。うん、僕もそう思う。でも人気のなさそうな施設だし、こんなものかもね。


 ステンドグラスと聞いて僕が想像したのは、教会の大広間にあるようなでっかいやつだ。が、期待はいい意味で裏切られた。

 館内はいくつもの小さな部屋で区切られており、それぞれに様々な大きさのガラスが飾ってある。額縁に入る程度の大きさのものもあれば、僕の背丈より大きなものもあった。どれもキリスト教の宗教画をモチーフとしたもので、それらは皆、手が触れられるほどの距離で見ることができた。

「ねえ見て、これ、小学生が作ったみたいじゃない?」

「ほんとだ。こういうの見ると、やっぱり手作りなんだなあって思えるね」

 間近でみるそれらは、教科書やテレビで目にしてきたものとはまったく違っていた。ぐにぐにと歪み、波打っていて、乱暴だった。でもその部分こそが、力強さや作り手の意志の強さを伝えてくる。

 子供の頃から自然に囲まれて育ったつもりだったけれど、知らないうちに僕らの意識は、機械で規格化されていたのかもしれない。真の直線は印刷物の中にしか存在しないのだ、きっと。

「ミケランジェロやダヴィンチの実物も、よく見たらはずれた線が入ってたりするのかな」

「そうね。もしかしたら最後の晩餐にも、イチゴケーキを描いて塗りつぶした跡があるかもよ」

「何でイチゴケーキなのさ?」

「だって美味しいじゃない。イエスさんだって、きっと食べちょきたかったと思うよ」


 二階に上がると、また別の聖書をモチーフにしたガラス絵が並んでいた。どの部屋も少し薄暗い。ここに限ったことではないのだが、自然光の見え方を考慮して、照明は控えめにしているらしい。

 絵里が、僕の袖を引っ張って聞いてくる。

「ねえねえ、これってどう思うかえ?」

 絵里が指さした先には、祈る人たちの頭上を飛飛び回る二人の天使。その表情はなんとも自信なさげで、とても祝福を授けているようには見えない。

「これ? ……うーん、落とした財布でも探してるんじゃないかな」

 絵里は笑いながら「そうじゃなくてさあ」と話を続けた。

「天使さんの絵ってさ、ガブリエルとミカエルばっかりっちゃねー。なんでなんだろと思って。ほら、福岡の修学旅行で行った仏像展のときは、もっといろんなキャラがいた気がするんだよね」

 絵里の言っているのはたぶん、大宰府の博物館のことだろう。

 ああ、なるほど。確かに横の説明を読むと、彼の名はミカエルだ。さっきのも、隣にも描かれている。天使の世界の人気競争も、なかなか熾烈なのかもしれない。

「うーん、もしかしたら日本だからじゃない? 他の天使には海を渡れるほどの知名度がなかったんだよ、たぶん。うちの母さんだってメタリカは一人も知らないけど、サザンのメンバーならすらすら答えるだろうし」

「ああ、なるほどねー。せめてクリフくらいは知っちょいて欲しいもんねー」

 絵里はしばらく、そのガラスに見入っていた。じっと何かを考えていた。


「ねえ祐樹、天使とか神様ってさあ、人間がいるから存在できるんと思わん?」

「え? ええと、偶像崇拝とか、そういう話?」

 突然口を開いた絵里。僕は彼女の言葉の真意を量りかねていた。

「いや、そこまで大げさなつもりじゃなかったんだけどさあ。ええと、持ちつ持たれつってことよ」

「ごめん、よくわかんないや」

 僕は正直に言った。絵里は言葉を選びながら、答えてくれた。

「神様は、私たちが信じてるから存在できるんちゃ、きっと。例えば猫ちゃんなら人間がいなくても生きていけるけどさ、神様はそうじゃないじゃない? 皆に忘れられたりしたら、どこにもいなくなるよね。でも、じゃあ人間のほうが上かっていうと、そういうわけでもなくてさ。私たちだって神様を信じるから頑張れるし、生きていける。神様がいなくなったら、生きていけないかもしれない。ってことかな?」

 絵里の目は、――ミカエルかガブリエルか、どっちかわからないけど――天使を見つめたままだった。絵里の言うことは理解できるけど、共感はできない。けれど、理由も述べずに何となく思っただけの言葉を並べるのは、絵里に対して不誠実な気がした。


「僕は、そうは思えないけどな。なんだかんだで人間って、ズルいし、強いよ。信じてた神様が借金で苦しんでるのを知ったとしたら、別の神様に乗り換えるんじゃない? 信じるモノが欲しいってのはわかるけど、何を信じるのかってのはそこまで重要じゃない気がするんだ」

「んー。祐樹は強いからそう思えるんよ、きっと。私は弱いから、祐樹に信じてもらえなくなったら、生きていけないと思うんよ」

 長い付き合いだ、口ぶりですぐに分かった。その言葉は絵里の本音だけれど、彼女自身はそんなに重たく受け止めているわけでもない。一晩経ったお茶が渋くなるのが当たり前のように、そんなものだと自然に受け入れているのだ。


「次、いこっか」

 絵里は何もなかったかのように、次の展示へと移っていった。僕も何事もなかったかのように、そのあとをついていった。

 別の展示室に入ると、今度は絵画や教会の模型が飾られていた。アンティーク家具が揃えられており、当時の生活が再現されている部屋もあった。一見するとどれも普通の家具なんだけど、作られたのは十七世紀らしい。江戸時代かあ。そう考えると、それだけ古いのに「普通の家具に見えた」って点に驚くべきなんだろうか。

 加志町だって歴史ある田舎町なんだから、古さじゃ負けてはいないはずだ。でも、単に古いだけじゃダメらしい。

 鳥居や祠やお地蔵さん。みんな苔だらけで味があるけど、家に欲しいかと言われると、ちょっとね。

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