第22話
遅くなってスミマセン。
「第三層のフロアボス……《エルダーワーデン》か。」  
悠希が呟く。かつてβテストで戦ったことのあるボスだが、正式サービス開始後にどれほどの強化が施されたかは未知数だ。
「悠希ちゃん、大丈夫?」
紀更が隣で心配そうに声をかける。悠希は小さく頷き、剣の柄を握りしめた。
「問題ない。俺たちも攻略組の一員として、しっかり役割を果たすだけだ。」
神崎凛は悠希たちの姿を認めると、軽く頷きながら話し始めた。
「今回の作戦はシンプルに行く。タンク隊がボスの攻撃を引き受け、アタッカー隊が火力を集中させる。槍隊は中距離でサポート、そしてデバフ部隊が《エルダーワーデン》の動きを封じる。悠希、紀更、お前たちはフリーアタッカーとして動いてくれ。」
「了解。」悠希は短く返し、紀更も「任せて」と微笑んだ。
巨大な扉が軋みながら開くと、そこには荘厳な神殿のような広間が広がっていた。
そして中央には、身の丈三メートルを超える古代エルフの守護者が静かに佇んでいた。全身を漆黒の鎧で覆い、巨大な両刃の戦斧を携えている。その目が光を宿し、プレイヤーたちを睨みつけた瞬間、戦闘が始まった。
「来るぞ!」凛が叫ぶ。第三層のフロアボス――《氷結の巨神》との戦いが始まった。
遺跡の広間には、凍てつく冷気が満ちており、地面には分厚い氷が張っている。壁面には古のエルフによる魔法陣の彫刻が施され、かすかに光を放っていた。それがボスの力の源になっているのかもしれない。
「……でかいな」\
悠希は片手剣を握りながら、巨大なボスを見上げた。
フロスト・コロッサスは、全身が氷でできた巨人であり、その体躯は5メートルを超える。腕を振り下ろすだけで地面が砕け散り、冷気の波動が周囲を覆った。
「攻撃範囲が広い……! タンク隊、耐えられるか!?」\
凛の指示のもと、ギルドのタンク隊が前に出て、ボスの攻撃を受け止める。だが、一撃ごとにシールドが霜で覆われ、動きが鈍くなっていく。
「長期戦はまずい……凍結のデバフが蓄積していくぞ!」\
「状態異常回復を優先! ヒーラー、すぐに対応を!」
悠希と紀更も、前衛部隊と共に攻撃に加わる。
「いくよ、悠希ちゃん!」\
「おう!」
紀更がレイピアを閃かせ、《パラレル・スティング》で巨体の関節を狙う。一瞬の隙を突いて、悠希は《シャープネイル》で斬撃を浴びせた。
だが、ボスのHPゲージはほとんど減らない。さらに、足元の氷が割れ、そこから冷気の爆発が発生する。
「くっ……!」\
悠希は咄嗟に後方へ跳び、爆風を回避する。
「こいつ……防御力が異常に高い!」
戦況が膠着する中、凛がギルドメンバーに向かって叫ぶ。
「全員、一斉攻撃の準備を! ボスのコア部分を狙う!」
ボスの胸部には、わずかに光る核のようなものが見える。あそこが弱点なのかもしれない。
「よし、やるぞ!」\
悠希は《バーチカル・アーク》を発動し、ボスの胴体に斬撃を刻む。
紀更も《レムニスケート》で交差する斬撃を叩き込む。
「紀更、側面から攻めるぞ!」  
悠希は片手剣を構え、紀更も《フロスト・スティング》を手に並走する。
タンク隊が注意を引きつけた隙に、悠希と紀更は一気に側面へと回り込んだ。
「シャープネイル!」  
悠希の剣が三連撃を繰り出し、鎧の隙間に斬撃を浴びせる。
「レムニスケート!」  
紀更のレイピアがX字の高速斬りを描き、ボスの肩口を貫いた。
しかし、ボスはすぐさま反撃に出た。巨大な戦斧が唸りを上げ、悠希と紀更を薙ぎ払おうとする。
「紀更、跳べ!」  
悠希の声に反応し、二人は瞬時に後方へと跳び、回避する。
その間に凛が前に出た。
「デバフを入れる!毒霧展開!」  
鎌を振るうと、紫色の霧がボスの周囲に広がる。直後、ボスの動きがわずかに鈍る。
「今だ、全員一斉攻撃!」  
号令と共に、プレイヤーたちは総攻撃を仕掛けた。
悠希は《バーチカル・アーク》で上からの斬撃を浴びせ、紀更は《パラレル・スティング》で正確な突きを繰り出す。
そして、凛が満を持して動いた。
「決める……!」
彼女の鎌が黒いオーラを纏い、特大の範囲攻撃を繰り出す。《デス・リーパー》――それは、毒・麻痺・出血のデバフを重ねる特殊スキルだった。
ボスの動きが一瞬止まる。その隙を突いて、ギルド全員の総攻撃が炸裂する!
――そして。
『フロスト・コロッサスを倒しました。』
「勝った……!」
ボスの体が砕け散り、フロアクリアの通知が表示された。
そして、最後の一撃ボーナスは――
**『神崎凛がLAボーナスを獲得しました。』**
「……ふう、なんとか決めたか」\
凛が息をつきながら鎌を収める。
悠希と紀更はお互いを見て、微笑んだ。
「やったね、悠希ちゃん」\
「ああ……でも、次の階層もきっと地獄だろうな」
戦いの終わりは、新たな戦いの始まりでもあった。




