第19話
悠希と紀更は、第三層のエルフ遺跡エリアに足を踏み入れた。前回、砂の守護者の試練を乗り越えた二人は、次なる試練に向けて心を新たにしていた。エルシアから渡された地図には、今度の守護者が「岩の守護者」と記されており、遺跡の北側にある石造りの大広間に姿を現すとあった。
広い石畳の上、古代の彫刻や碑文が刻まれた壁が並ぶ中、悠希と紀更は足元に広がる埃と岩の粉塵に顔をしかめながら、慎重に進んだ。道中、荒涼とした空気の中で、二人はこれから始まる試練への不安と覚悟を交わす。
「岩の守護者は、砂の守護者とは違って、防御力が絶大だと言われてる。攻撃を繰り出しても、すぐには効きにくいんだ……」
悠希が静かに語ると、紀更はしっかりと頷きながら、レイピアの柄を握りしめた。
「そうだよね。でも、私たちには新しいスキルがある。これを使えば、相手の防御の隙を突けるはず。」
紀更は自信に満ちた眼差しで悠希を見据えた。二人はこれまでの戦いで、互いの動きを読み合い、連携を磨いてきた。その絆が、今日もまた二人を支える。
やがて、古びた石の大広間の入口が目の前に現れた。巨大な石造りの扉は、長い年月に風雨を耐えたようにひび割れており、その先からは重々しい空気が漏れていた。
「これが……岩の守護者の居場所か」
悠希は静かに呟くと、紀更も「うん、ここから先は一層厳しい戦いになるね」と低い声で答えた。
二人は互いに気を引き締め、扉を押し開けると、広間の内部は思いのほか薄暗く、微かに照明が灯るだけの空間だった。中央に、巨大な岩の塊のような姿をした守護者が鎮座していた。その体は硬質な石でできているかのように見え、動くたびに周囲の床が震えるほどの存在感を放っていた。
岩の守護者――その名は「グラニウス」と、古代エルフの伝承に語られる存在。グラニウスは、ゆっくりとした動きでありながらも、一撃ごとの威力は計り知れず、悠希たちがこれまで戦った敵とは一線を画していた。
グラニウスは、まず大きな腕をゆっくりと振り上げ、石の拳を悠希に向けて振り下ろした。悠希はその重々しい一撃を避けるため、すかさず足を引いて後退し、片手剣を握り直す。
「気をつけろ、紀更! 相手は防御が固い…だけど、隙は必ずあるはずだ!」
悠希は戦闘中、これまで身につけた新たなソードスキルを頭に浮かべながら、攻撃のタイミングを計っていた。
悠希はまず、静かに深呼吸をしてから、すぐに「シャープネイル」を放つ。
――斬り下ろしの三連撃が、グラニウスの側面に連続で突き刺さる。
その一撃ごとに、岩の守護者の石肌に微細な亀裂が入るのが見える。悠希は自信を深め、次の攻撃へと移る。
次に悠希は、「バーチカル・アーク」を使う。
――上から下、下から上の縦斬り二連撃が、グラニウスの胸元を狙う。強烈な連撃が、石の体に衝撃を与え、守護者の動きがわずかに鈍るのを感じた。
続けて、悠希は「ホリゾンタル・アーク」で、左右往復の二連撃を加える。
――広がる斬撃がグラニウスの防御の隙間を捉え、さらなるダメージを与える。石肌に新たなひびが入り、グラニウスの足元が少しずつ崩れ始めるのが見て取れた。
そして、悠希は、最後の決定的な一手として「ソニックリープ」を宣言する。
――悠希は一瞬空中に飛び上がり、短い射程ながらも高い軌道を描いて、上段からグラニウスに突進。
悠希の剣がグラニウスの額を捉え、最後の衝撃が守護者全体に伝わる。グラニウスはその衝撃に耐え切れず、重い体を震わせながら後退する。
「今だ、紀更!」
悠希の叫びが広間に響く。紀更はすかさず前に飛び出し、「レムニスケート」を放つ。
――紀更はレイピアを両手で握りしめ、外側から内側、そして内側から外側へとX字状の連撃を繰り出す。その激しい斬撃が、グラニウスの防御の最も脆弱な部分を直撃する。
グラニウスは大きくうめき声を上げ、体の隅々からひびが入り始める。激しい戦闘の末、岩の守護者は、ついにその力を失い、体全体が崩れ落ち、光となって爆散した。死んだはずの守護者の遺体は、石の塊のままではなく、眩い光に包まれながら完全に消滅した。
戦闘終了後、広間にはしばらくの静寂が訪れた。悠希と紀更は互いに剣を収め、息を整えながら、倒れたグラニウスの跡を見つめた。二人の心には、勝利の喜びと共に、戦いの厳しさが刻まれていた。
その時、システムからの通知が二人に届く。
『プレイヤー「悠希」のレベルが1上がりました。レベル14に到達しました。』
『プレイヤー「紀更」のレベルが1上がりました。レベル13に到達しました。』
悠希はそのメッセージを見ながら、静かに頷いた。自分たちの力が確かに向上したことを実感し、今後の試練に対する覚悟を新たにする。紀更もまた、力強い眼差しで悠希を見つめながら、「これで次も乗り越えられるよ、悠希」と力づける。
広間を出た二人は、地図に示された次なる目的地へ向けて歩み始めた。エルシアから与えられた試練はまだ終わっていない。今後、岩の守護者を乗り越えた先には、炎の守護者が待っているという。だが、今日の戦いで得た新たなスキルと、互いに支え合う絆は、次なる試練への大きな力となるに違いなかった。
ふたりは歩きながら、これまでの戦いの記憶と、仲間の犠牲に思いを馳せると同時に、未来に向けた決意を固めた。
「紀更、私たち、どんな困難があっても必ず乗り越えられる。これからもずっと、一緒に戦おうな」
悠希の言葉に、紀更はしっかりと頷き、「うん、悠希。私たちの絆は、どんな敵にも負けない」と静かに答えた。
そして、二人は再び歩き出す。第三層の荒廃した道を進みながら、遠くで鳴り響く未知の危険を感じつつも、その先にある試練と、新たな未来に向けて、歩みを止めることなく進んでいった。