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1‐7 その一中で、私の右目を撃ち抜いて

 「めじろの願いは百発百中だね」

 初めてそう言われたのは、彼女と行くお焚き上げが片手では数えられなくなった頃だ。柄杓で灰を空にばら撒いたあとの帰り道、多々良は屋台で買ったカステラを頬張りながら言った。

 それが多々良なりの余白の埋め方だった。家でぼうっとしている時とは違い外での沈黙を嫌う彼女は話題になりそうなものをとにかく手当たりしだいに投げてくる。話題が外れて一瞬でも二人の間に沈黙が訪れるとめじろのぴっちりと閉じられた唇に熱々のカステラを当て、何でもいいから反応をしてもらおうと必死になる。

「そうでもないわ。実際今だって……」

 叶わないことだってあると言いかけて無意識から浮上する。めじろがあっ、と口元を抑えたときにはすでに遅く多々良は目を輝かせて「え!? やっぱあるんだ。めじろでも叶わないこと」とにじり寄られていた。

「まあ、あるわよそりゃあ。人間だもの」

「それを聞いて安心した! めじろの願いは今ところ百発百中だけど、それじゃあ人生つまんないし、生まれたところが良かったらって考えちゃうこと、あるじゃん? や、めじろはないのか……。

でもめじろがどんなに願っても叶わないことがあるって知れて、お金があっても叶わないことって絶対あるんだって知れて安心した。大人とかさ、みんなそういうけど実際それって結局ある程度お金がある人たちが言えることじゃんって過っちゃうことあるしさ」

 「いや、なんかごめん。めじろにこんなこと愚痴みたいなこと言って」冷めたカステラを口に投げ込む。

「ううん。多々良ちゃんそういうの全然言わないから私も安心した。いいのよ、私ってなんか、そうね。ずるいかも」

「……いる?」と多々良はカステラが入った袋を前に差し出してきて、めじろは「ありがとう」と一つ取り、唇をこじ開けるようにして口に入れた。口の中がどんどん干上がっていって、喉の奥に積み重なる咀嚼しそこねた言葉が多々良の買ったカステラを拒んでも、多々良とめじろの前で交互に差し出された袋を空になるまでめじろは一回も拒否することはなかった。


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