1‐5 その一中で、私の右目を撃ち抜いて
叶えたいことはなんでも叶うくせに何をそんなに熱心に願うことがあるのか。
多々良にはめじろのことが時々よく分からなくなる。
右目も左目と同じ要領でさっさと取ってしまうと、あっという間に両目のないぬいぐるみが出来上がる。
「今回は何をお願いするの?」
「んー」
空気の抜けた風船みたいな返事が返ってくる。取ったばかりのボタンを無くしてしまわないように一つをピクニックバスケットの中からボタンだけが詰められた手作りの小袋を取り出し、その中に一つを仕舞い、もう一つを手のひらの中で慰みに転がした。
願掛けといってもお嬢様のめじろが実際に願って叶わなかったことなど今までに一回もない。多々良がこの家にただ同然で住むことになった理由もめじろが大学生になったら友達とシェアルームをしてみたいという願いから始まったものだった。高校からのよしみといつも金銭的に困窮していたという事実を逆手に取られて現在まで至る。その間に何度もこの光景を見て、右目が縫い付けられ、用済みになったぬいぐるみがお焚き上げされていくのを何度早朝の眠い目を擦りながら見送ってきただろうか。初めてこの行為を目撃してしまったときはとんでもない人と一緒に生活をしてしまったなと後悔したものだが、今はむしろ百発百中で願いを叶えてきたお嬢様が何を願うのかを楽しみにしている自分がいる。
「どうしても言わなきゃいけないかしら」
毛先を指に巻き付けながら視線を背ける。珍しい。今までめじろが願い事を言うのを拒否したことはなかった。彼女に言わせれば言霊だって立派な願掛けの一種らしいのでいつも聞かなくても率先して意気揚々と願いごとを語ってくれるのに。
「言いたくないなら別に、どっちでも」
「ありがとう。多々良ちゃん」
「ん。どういたしまして。部屋で落ち着いてやる? わたしまだ途中の映画垂れ流しにさせてレポートの続き書くけど」
「いえ、ここでやっちゃうわ。机の上片付けないと物が置けないのよねえ」
「そっか。じゃあ飲み物でも淹れてきてあげる。なにがいい?」
めじろは「紅茶がいいわ」と予測していた通りの返事を返す。多々良は、心地よいソファーから膝を押さえて立ち上がりキッチンへと向かった。