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1‐4 その一中で、私の右目を撃ち抜いて

 テレビ棚兼書架兼雑貨ラックの無法地帯の引き出しを上から順番に開けては中を引っ掻き回している。中からとにかくいろんな思い出が発掘されるがこと多いのは海外旅行のお土産だ。一ヶ月前に使ったばかりの裁縫セットは一向に出てこない。

 結局、リビングの棚という棚をひっくり返して探したというのにお探しの裁縫セットは自室の机の上にあったらしい。リビングのどこかに直したという記憶はなにかと混ざってうまい具合に改ざんされていただけだった。部屋の中を駆け回った額にはうっすらと汗が滲んで、裁縫セットであるピニックバスケットを抱えてテディベアの前に跪く。

 海外の子供がサンドイッチを詰めて芝生の上でやるようなやつだ。それをめじろは裁縫セットとして使っている。昔は本当にピクニックバスケットとして使っていたらしく、今どきどこでレジャーシート広げて優雅にサンドイッチを食べるんだと聞いたとき、めじろがキョトンとして「庭でするのよ」と言ったことを多々良は忘れていない。その後に無駄に訝ったせいで彼女の実家に連れて行かれて本当に庭でシートを広げてピクニックをすることになったのは今となればいい思い出だ。

 聞けばかなりの年季が入っているらしいが、流石はお嬢様。ピクニックバスケットの一つだとしてもいいものを使っているからか、新品同様にほつれもなく綺麗だ。

 めじろはその中から糸切りバサミを取り出した。指の腹で押して切るタイプの小学生の裁縫セットに固定で入っているやつ同じものだ。入れ物だけは変えられているが中身は全く変わっていない。箱の中からだんまりのテディベアをフローリングの床に置き、めじろの手によって短い両手を腹の腕で組まされ、ミイラのような体勢を取らされる。まず、左目を摘んで持ち上げ、ボタンと体の間に隙間を作る。上と下で横一列に繋がった糸が体に繋がっている。その僅かな隙間に糸切りバサミの先っぽをねじ込んで一本糸を切った。更に広がった空間に今度はハサミ全部を入れて奥の糸も切る。

 ボタン上部が完全に体から切り離されて、ボタンがひっくり返った。ほつれかけている下の糸もパチン、パチンと切ってしまい、新品のテディベアの左目から紺色のボタンが奪われた。

 「いつ見ても病んでいるようにしか見えないね」

「病んでなんかないわ。至って正気よ。ダルマの目入れだって同じことをするじゃない」

「はいはい、そうだね。そうでした」

 めじろに言わせればこの行為は全てダルマの目入れと変わらないらしい。ダルマをかわいいぬいぐるみに置き換えているだけで、行為自体に含まれる意味合いはなにも変わらない。

 ぬいぐるみの左目を切り取って、願い事をしながら縫い付ける。そして、願いが無事に叶うと右目を縫い付けて、お焚き上げをする。

 ただ、違うのは手間が掛かるということだろうか。彼女がネットで購入してくるぬいぐるみは完成品だ。流石に職人が一つ一つ丁寧に作るものを壊すのは申し訳ないらしく、安物の工場で大量生産されているものを使用しているが、ダルマと違って購入するぬいぐるみには最初から目がついているため今みたいに一度外す手間がある。それすらも行為の一環だと割り切っているから本人は手間だとは思っていないらしいが、多々良からすれば手間ではなく可哀想だとは思う。


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