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1‐3 その一中で、私の右目を撃ち抜いて

 その答え合わせの時間がやってきた。Netflixで一緒にホラー映画を見ていためじろはスマホの通知が鳴ると許可も取らずに中断させて下の宅配ボックスまで置き配された荷物を取りに出ていった。部屋着では外に出たくないと常々言っている彼女が着替えもせずに部屋着のゆるいシルエットワンピースで取りに行くほどの荷物とは一体なんなのか。映画は今からが最高に面白いシーンで反応をレポートの片手間に楽しみにしていたのにお預けをくらって完全に集中力が切れてしまった。空白の空いたソファーに寝転んで、大きく伸びをすると関節がいたるところで鳴く。

「何買ったの? えーまた熊? この前も買ってたじゃん」

 リビングに小包を抱えて肩で息を切らせながら帰ってきためじろは一目散に箱を開け、その中に入っていたのは一体の白いテディベアだった。この家でぬいぐるみを買うなんて特別珍しいことではないから拍子抜けだ。もっと、販売開始されるのを待っていた珍しい高い皿とかだと思っていた。

 毛並みの揃った上品な白いテディベアは普通で買うよりかは値段が張るのだろう。しかし、めじろが買うには安っぽく、遠目からでも紺色の四つ目ボタンに払い損ねた糸が乗っかっていることがわかる。わざわざ深夜に衝動買いするほどのものではない。

 多々良の非難めいた声にめじろは頬を膨らませプリプリ怒った。

「この間のはもうお焚きあげしたでしょう? ならいいじゃない」

「いやあ、早いよ。テンポが早い」

 早朝の神社にて大きな段ボールに詰め込まれたぬいぐるみたちが神主の祝詞とともに炎の中にその役目を終えていく。その多数の中の一つにかつてめじろの所有物であったうさぎのぬいぐるみもあるはずだ。全てが灰に帰すまで地蔵のようにじっと天高く上る魂を吸い込み、黒い瞳が赤に焼けようとも彼女は棒立ちで身じろぎ一つせずその様子を静かに見守っていた。全てが灰になったあと、その灰殻にセンチのズレもない合掌をし、柄杓で少しだけ取ると空に撒いた。

 それがつい先週の出来事だ。

 そんなことまでしてようやく一体に家族を手放したというのに目の前の同居人はまた性懲りもなく新しい家族をネット通販で夜な夜な見繕ったらしい。

「ああ、かわいいわ。ちょっと押入れの匂いがするけど洗濯すれば問題ないし、ええっと裁縫セットをどこにしまったのだったっけ」

 胸で押しつぶすように抱きしめられ形のいい顔がぺしゃんこに潰れる。淡いベージュのワンピースに白い毛が抜け落ちて数本付着する。めじろは裁縫セットを探すために一度テディベアを箱の中に戻して、立ち上がった。くたりと横たわるテディベアは目まぐるしく与えられる深い愛情に早くも疲れているように見える。だが、この子が今からめじろにされる仕打ちのことを知れば泣き叫んで大型倉庫に帰りたいというだろう。

 多々良も一度抱いた。形に沿って限界まで切られた体毛がテニスボールのようで、ホコリが溜まらそうでいいなと思った。おそらく飾るように作られたものなのだろう。

 新しいものはいつだってかわいい。それはこの白いテディベアも例外じゃない。相手が千代崎ちよさきめじろでなければの話だが。


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