1‐12 その一中で、私の右目を撃ち抜いて
「多々良ちゃんも今度一緒に目入れやらない?」
紅茶を一口飲む。美味しいとは思わないけど、多々良の作った紅茶の味だ。
「うーん、そうだなあ、やってもいいよ。わたし後期で絶対に取りたい授業があるんだよね。
めじろみたいに百発百中でどんな願いも叶うっていうならやってみてもいいかもなあ。願掛け、言霊、なにより本人の実績があるし、地域民俗学の抽選当たりますように……って」
胸の前で両手を組む。今し方、あなたの幸せのために願われた片目のテディベアに祈りを捧げる。
多々良が淹れる紅茶はいつもエグ味が強くて、おまけに茶葉のカスが底に沈んでいるし、朝淹れるものを同じものを使っているのにどうしてこうなるんだろう。多分、彼女がもったいなさからマグカップに大量のお湯で少しの茶葉を煮出すせいだろう。味を出すために長時間茶葉はカップの中で踊る。喉を潤すために作られた思いやらない紅茶も好きだ。
一口啜るたびに、やっぱりケーキを残しておけばよかったなあと過ぎた後悔が頭に過ぎった。
「ちょっと渋いね」
「本当にね」
「ケーキ残しておけばよかったなあ」
「そうね」
なにもない穏やかな午後だ。レポートも映画もなにも終わっていないしめじろが考えた今日の最高の予定でもないし、お上品なカフェでもない。だけどそれとは程遠い、シワシワの部屋着で並んで飲む渋い紅茶が、多々良の考える最上級の幸せなのだ。
「ねえ、一つお願いがあるの」
「なあに?」
多々良が穏やかに微笑む。
やっぱりもっと幸せになってほしいなと思った。たとえ最終的に自分の幸せの形を押し付けることになったとしても多々良にはずっとこの幸せの中で生きていてほしい。
「いつか、私のために願ってよ」
──私のための幸福を。九十九の願いをその一中で撃ち抜いて。それできっと幸福だから。