1‐11 その一中で、私の右目を撃ち抜いて
三十分、めじろは多々良の動きに支障がない程度に体をくっつけて大人しく映画を観ていた。些細な場面で体を跳ねさせるめじろに多々良はくすくすと笑った。いつのまにかクッションを抱きかかえていて、元々の半分ほどの膨らみしか残っていない。
その次の瞬間、今からドッキリ要素がくるぞ身構え緊張させていた筋肉がシーンよりも先にバイブレーションによって開放される。
声にならない悲鳴が上がる。激しい心臓の鼓動が肌を伝って多々良のもとにも届いたようで、彼女は意味もないところで跳ね上がった心拍数に驚いて手を止めた。
「え? なに? ああ……」
胸を抑えて、スマホの画面を凝視するめじろを見て、納得し、くすりと笑うと再び画面と向き合い心地いい打鍵音を再開した。
めじろは構わず映画を止めて、荷物を取りに走った。クリスマスの朝にリビングに駆け降りて行くような、自分がいつもならこの格好では外に出るのを憚るようなラフな部屋着だということも忘れて、急いでリビングを飛び出していく。
「そんなに急がなくても逃げないのに」と多々良が微笑ましそうにその背中を見送っていた。
肩で息をしながら自分の体力の無さにつくづく失望してしまう。体育の成績はいつも2だったなとそれなのに準備運動もしないでサンダルで一つ下の階まで走って段ボールを抱えて戻ってきただけだというのに、五十メートルを全力疾走したみたいに喘鳴が漏れる。
「お、おかえりー」
段ボールを掃除機をかけたばかりのフローリングに置き、箱の上を押して凹ませてその隙間に指を入れ真っ二つに切り開いていく。宛名が半分に割かれて、中では梱包材に埋もれた白いテディベアが眠っていた。紙を外に放り出すと、青い肉球が顔を出す。その右手と握手をする。
来てくれてありがとう。
多々良は、呆れたようにその様子をソファーから体を捻って眺めていた。
「裁縫箱はどこにあったかしら」
つい先月の記憶を頼りにテレビの横の棚を上から開けていく。どこにもない。下の棚にも、ローテーブルの引き出し「そんなところに入らないよ」「あるかもしれないでしょう」にもめじろのピクニックバスケットはなかった。
探すべき棚を探して、大穴自分の部屋の紙束が散乱した目も当てられない机の上に片方足を投げ出してギリギリのところで座っていた。
なんのことはない。どこかで見たような記憶は一ヶ月前のものではなく今朝のことだっただけだ。はやとちりしてしまったなと廊下で頭を冷やし、多々良がこの様をみて「だから物の位置を固定したほうがいいって言ってるよね」呆れるのを想像して、ちゃんと片付けようと五回目の決意をしてみる。