1‐10 その一中で、私の右目を撃ち抜いて
「ただいまー」
「おかえりなさい」と言いながら急いで起き上がり、流し見していたアニメを消す。そして、スマホを手に取った。
多々良はトートバッグをめじろの足元に置くと、そのまま歩みを止めず。キッチンの方へ向かう。
「荷物届いてなかったよ」冷蔵庫を開け、中の冷気で涼みながら言った。
「うん。午後配達だからもう少ししたら届くと思う。授業はどうだった?」
「普通。課題提出して、発表して終わり。まあまあ好感触ではあったかな。ねえ、めじろが昨日残したケーキ食べていい?」
「いいわよ。でもクリームが溶けてあんまり美味しくないかも」
「そんなの口に入ったら一緒だよ」
中段から皿に横倒しになった一切れのケーキを取り出す。ケーキの形は崩れているが、溶けているというほど溶けてはいない。多々良は上機嫌で、ステップを踏みながら両手でしっかりとケーキの乗ったお皿を持ち、フォークを口で咥え戻ってくるとめじろの横にどっかりと腰を下ろし、背もたれに体を預けた。
ラップを剥がして、クリームがついた部分が内側になるように丁寧に四つに折りたたむとそれをローテーブルに置いた。ケーキの周りで溶けている柔いクリームをフォークの端で少し掬って舐める。それからフォークを下からいれスポンジごと持ち上げるようにして口に運び、甘い息を漏らした。
「あー沁みるわー。誕生日でもない日にケーキが二日連続食べられるなんて幸せ」
「毎日でも食べていいのよ」
「毎日はいらないかな。こういうのはたまにでいいんだよ。わたしは別に毎日幸せじゃなくていいね」
「取って」とバックを指差す。めじろはトートバッグの中から多々良のシールがベタベタに貼られたノートパソコンを取り出して彼女の膝の上に乗っけた。多々良は皿の端にフォークを立てかけて、パソコンを起動させて、書きかけのレポートファイルを立ち上げた。
「荷物来るまで映画観ようよ」
最後の一口、ケーキとイチゴを食べる。めじろがきょとんとしていると、多々良は首をかしげて、「ホラー映画」と言葉を付け足した。
はっとして、目を見開く。多々良は笑い、しっかりしてよと肩を叩いた。
「ああ、えっとなにを観るんだっけ」
顔が熱い。じっとりと湿った手のひらを多々良からは見えないようにこっそりと裾で拭いて、TVスティックを手にとり電源ボタンを押した。他のアプリの履歴が残っているホーム画面を立ち上がり、そこに中途半端なアニメのサムネが表示される前に急いでリモコンの下にあるNetflixのショートカットボタンを押し、自身のアカウントでログインした。読み込みが始まるまえに検索ボックスを押す。
「『ウィリーズ・ワンダーランド』」
多々良が言ったタイトルを一文字一文字上下左右ボタンを押して検索ボックスに打ち込んでいく。そこから予想される作品がズラリと並ぶ。
「そう、その一番上のやつ」と多々良が指を差し、めじろは再生ボタンを押した。