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デジャヴ・ランデヴ  作者: キリン衛門
高嶺の花の転校生
6/6

タイトル未定2025/02/01 17:45

 あれから少しして、纐纈さんは何事もなく出席してきた。

 丁度1限目の終わるか否かの時間で出席して、暗い表情のまま担任の伊藤に挨拶をしていた。

 伊藤も心配していた手前、叱るべきか話を聞くべきか困惑したまま事を終え、結局理由も分からないまま、彼女は席へとついた。

 その一瞬、こちらに視線が向いたきがしたが、気のせいだと心の底から願いたい。


 それから、何食わぬ顔で授業を受けている。周りの皆も近寄りがたいのか、近い席の子は纐纈の方に視線を向けないようにしていた。

 まるで、何事もない日常の一ページかのように時間が過ぎ、各々が次の準備に移っている。


 それもそのはず。昨日のあの態度を見ても尚、絡んでいこうとする殊勝な生徒なんてこの学校に、


「今日は遅れたのは何か理由あったの? 大丈夫?」

「困ったことあったら言ってね」

「学校のことまだ知らないところ多いよね、案内しようか?」


 ―――関係なかった。

 いや、ここまでくるとどういう神経しているのか疑いたくなる。

 に考えて、昨日のような反応をされたら関わることを辞めるはず。だが気が付けば、纐纈の席の周りには昨日よりは少ないが人だかりができていた。


 纐纈も、鳩が豆鉄砲を食ったように拍子抜けしていて、唖然としたまま、昨日と同じ文言で断ろうとしたが、片桐が言葉を遮るように声を掛ける。


「1限目のノートを見せるのは、大事なことじゃない?」


 優しく微笑んで、差し出されたノートを纐纈は目を伏せて受け取ろうとしない。

 もう一度軽く、推してみるがそれでも首を縦に振らない様子に皆が顔を見合わせると、一人、また一人とその場を後にした。

 片桐も、去り際に何か軽く挨拶をしてその場を去る。


 誰も居なくなった彼女の席。

 そして、離れていつもの定位置にたむろをしていると聖母が駆け寄り声を掛けたことでいつもの談笑が始まる。

 転校生という一大イベントがありながらもクラスの雰囲気は2日前と何も変わらない。意外と学生の感受性って温めやすく、冷えやすいものなのかと考えていた蒼汰であった。




「どうだった、どうだった!? 転校生と2人きり、共同作業を通じて深まる関係みたいな?! それで、普段使われない教室に入り込んだら、鍵が何故かハマって上手く開けられない。普段、人が来ないから助けも呼べない。そんな中で真夏の炎天下ッ! 汗ばんだ制服と荒くなる呼吸が交じり合い、思考が鈍る中でいざ、挿―――」


「…少女漫画趣味だっけ? バヤシって」


「いや、こいつはエロゲ」


「――ねえ、誰の話してるん?」


 一人、話についていけない岡田を置いて俺ら4人はいつもの体育館裏隠れ家で昼飯を食らう。

 教室から、遠く離れた第一体育館の裏側なのだが、木々の木漏れ日、日陰の涼しさ、程よい昼休みのさえづりが聞こえる。

 青春を語るにはいささか男苦しい。


「あの、戦乙女(ヴァルキリー)知らないんか? 目を合わせたら、最後。恋心をスパッと落とされるゼ」


「いや、いつから命名したんだよ戦乙女」


「ふぉおおおおおっっ!!! 戦乙女ッ! くっ殺してくれぇ~!」


 佐原が急に言い始めた愛称にツッコミを入れると、十字を切り出して人差し指にキスをして天を仰ぐ。

 小林も何故か、何も合図をしていないのにドンピシャで合わせている辺り、こいつ等遺伝子レベルで知能が同格だと思う。


「一目見た時から、あの雰囲気は数多の戦場を渡り歩く戦乙女にふさわしいと思ってね」


「凌辱ものなら、俺ゴブリンやる…ヴェス」


「お前ら…いつか集団リンチされるぞ。というか、十字架切るのはあってんのか?」


「――ねえ。だから誰の話してるん?」


 全員が言葉のドッチボールをして、会話がかみ合ってるのかどうかもわからないまま進行する。

 これが俺たちなりの対話だった。話の内容は大体が、最近のイベント、趣味、噂等々、多岐にわたるが各々が持っている情報が違うので、時間はあっという間に過ぎていく。


 特に、趣味が誰も被らないというのにこれほど付き合いがいいのも珍しいと蒼汰は身にしみて感じていた。

 その中で噂好きの佐原がどこから収集してきたか分からないネタを急に投下する。情報源不明、真実はどうか分からないがそんな与太話を聞くのが俺は大好きだった。


「そういえば、戦乙女の噂――知ってるか?」


「佐原氏、カップ数なら聞く」


「Eだ」


「何で知ってんだよ」


 小林の疑問をノータイムで答える佐原。

 その理由は明かされぬまま、話は戻り佐原が3人を囲い込むように呼びつけ、皆が腰をかがめて話を伺う。


「実は、女子トイレの個室の中で聞き耳立ててたら聞こえちまった話なんだけどよ」


「おい、待て」


「佐原氏、勿論隠しカメラ仕掛けてるよね?」


「廊下で聞き耳でよくない?」


「あああっ! お前ら、いいから話聞けよ!」


 三者三様の思い思いのことを話す彼らは通常運転。

 ヤジが入りながらも、無理やり進行を続ける佐原は咳ばらいをして、真剣な面持ちで話をつづけた。


「戦乙女――纐纈さんの、母親が有名なモデルなことはお前らも知ってるよな?」


 小林と岡田は首を横に振り、蒼汰は首を傾げる。

 それに対して佐原も蒼汰に尋ねるが「クラスの人が騒いでいたことを耳に挟んだ」と説明すると、ソレに頷いて話をつづけた。


「まあ、N/Nっていうファッション雑誌があるんだけど、結構表紙張っていることも多かったんだよ。小さいときから出てるのに歳を感じさせない美しきモデルってことで。テレビにもちょいちょい取り上げられてたけど、一回も見たことないのか?」


「テレビ見なくなった」


「3次元に興味はないんだなあ」


「朝のニュースの時間寝てるから」


 蒼汰、小林、岡田と、無関心が過ぎるといった形だがそれらを予見していただろう佐原は構わず、話を続ける。

 途中、スマホで調べた纐纈彩芽は確かに、モデル体型の美人で2人を産んだとは思えない驚きの曲線美を描いている。

 画面越しでも目を引かれてしまったのは、何か特別なオーラというものがあったんだと思う。その感覚はあの纐纈から感じたものに近かった。


「今見した通り、遺伝子が強すぎるんだが子供の顔は世間に出ていなかった。なんなら、弟が生まれるまで姉の存在は隠していたらしいんだよな。だから、活動期間数年開いていた時もあるらしいんだけ、ど……あった。コレみてくれ」


 ふと、開いて見せた画面を3人が覗き込む。

 画面が小さく読みづらかったので、重要部分だけ指でズームさせてタイトルを目で追うように読み、小林が零れるように読んだ文字を言葉に表していた。


「―――纐纈彩芽。無期限の活動休止? 本人からのコメントはなく、事務所もコメントNG……」


「そう、ただどれだけ調べても詳細が何処に載ってない。炎上した形跡も、事務所のトラブルもない。一部ネットでは、第3子説、難病説、行方不明、色々書かれてるけど何もわからずじまいってことさ」


 後半、言葉が駆け足になり、頬が紅潮としている。

 だが、小林と岡田は興味を引いた話題ではなかったのか、欠伸を押し殺すようにして相槌だけを打っている。その中、考え事をするように顎の手を当て、整理しながら言葉にする蒼汰の姿があった。


「そー…れは、この話をしようとした、ってことは何か企みがあるな?」


「流石、滝野瀬。ズバリ、その休止中の中でわざわざ愛知を飛び出してこんな僻地に引っ越しなんておかしくないか? 俺、そういうの気にし出すとダメなタイプなんだよな」


 ズバリ、と蒼汰に指をさし嬉々として語った後に、腕を胸元に組んで何度も頷きながら話す佐原。

 


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