善人
大学の頃、親しくしていた友人の訃報を聞いた。蝉のうるさい休日の午後であった。母親同士が知り合いになっていたので、母からその知らせを聞いた訳だった。自殺だった。僕が仰天してる間に、母は呑気に「なにかつらいことでもあったのかしら」と付け加えた。僕は彼との記憶を思い出した。俯かせられる日差しのもと、二人で会話もせずベンチに座っていた時のこと。彼の誕生日にかわいらしいケーキを囲んだこと。彼が一度孤独について語ったこと。少しのありふれた罪悪感。僕は確かにその時、考えすぎだと言った。励ましのつもりで、そんなことなどはないのだと思わせたかった。現に僕はその場で話を聞いていたのだから。それに、暗い話は苦手だった。ふと誰かに囁かれたような気がした。「お前は責任を負いたくなかったんだ」