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8話 スライム使い

「ジェリィ!王様たちを中へ!ガンボン!オークは任せたぞ!」

 言うが早いか、おじいちゃんが杖を振り回した。たちまち、光の壁がネズミたちの前に出来上がる。


 ネズミたちは気圧されて、少し後退してた。でも、逃げ出す気配はない。

「時間稼ぎ程度にしかならん。戦えない者は今のうちに避難を!」

 それって、私も避難した方がいいってことかな?そうだよね、私、足手まといにしかならないし―

 そう思って、ラグネリア様たちに続こうとしたんだけど……


 横から突然、ネズミの集団が飛び出してきて、頭が真っ白になった。

 どこに隠れてたのよ?!

「ワワワワワーッッ!!」

 闇雲に腕を振り回す。何人もの悲鳴が聞こえて―

 でも、私には1匹も当たってこなかった。

「んへっ?!」

 目をしっかり開いてみると、スライムの集団がネズミたちに体当たりしている。

 え、これは……


「ノノ!ペンダントを外せ!!」

「は?!」

 父さん、こんな時に何を言い出すの!

 でも、そう言う前に

「早く!」

 怒鳴られて、私は反射的にペンダントを父さんに投げつけていた。

 理由もなく命令されてイラついたからでもあるけど、もしかしたら父さんがペンダントを欲しいのかともチラッと思ったから。

 トップに付いた赤い石は魔石だと聞いている。

 でも父さんは、

「おっと!」

 投げられたペンダントを飛び退いて避けた。


 目を離した方向からネズミが飛びかかってきたのはほぼ同時。

「ああ!もう!」

 さっきみたいにスライムが盾になってくれればと腕を振り回した。

 ザザザーッ!!

「ふぇっ?!」

 私の前に出来上がったのはスライムの壁。

 私の身長をはるかに越える半透明の壁は、ボヨンボヨンと見事にネズミたちを跳ね返した。


「はあああ?!」

 聞いたこともない声を出したのはサーラ。

「ちょっ……ノノ……あなた……スラ……?」

 パクパクしながら、掠れた声を出したのはおばさん。

「よっしや!さすがだ!」

 両手でガッツポーズしたのは父さん。

「えぇ?これ、私がやったの?」

 思わず声がうわずったけど、感覚はある。

 スライム1匹1匹の動き全てを把握して、コントロールできている感覚。今まで感じたことのない感覚だけど、なんだろ、これ。


 いつもは集中して魔力を高めてスライムをテイムしているんだけど、今は手足を動かすようにスライムを動かせる……のが分かる。しかも、それが魔力を全開にしなくても簡単に出来る。

「ジェイド、まさかと思うが、ノノにペンダントを外してテイムする訓練をまだしていない、とか言わんだろうな?」

 私の様子を見て何か気付いたらしいおじいちゃんにそう言われたのに、父さんは分かりやすく聞こえないフリをした。

「ようし、ノノ!そのままの調子でみんなが避難するまでネズミの攻撃を阻止するんだ!」


「父さん!」「ジェイド!」

 私とおじいちゃんの声が重なる。

「ええ、そうですよ!何度もいい頃合いだって、私もマリクも言ったのに。何も教える気がないんですから」

 口を挟んだのはおばさんだった。

「いや、ほら、なにかあるといけないからだな、よっぽどの山奥か砂漠にでも行った時にと……」

 父さんは頭をかきながら言い訳してるけど、悪いと思っている様子はない。

 私はワケが分からなくて苛立っていた。


「ねえ!いったいどういうこと?!母さんのペンダントって、魔力を解放する力でもあるの?!説明してよ!」

 怒鳴った途端にスライムの壁が大きく父さんの方へ傾いた。

「わ、やめやめ!危ないって!」

 父さんは身を翻しながら、剣で数匹のネズミを切り払った。ここら辺の戦闘力はさすがだ。

「逆だよ逆!このペンダントはお前の魔力が暴走しないように抑えるためのものだ」

 父さんは、そのまま剣を振り回しつつ、火炎魔法を発動させる。

「よし!魔法が効くぞ!リオノーラに似て、お前は魔力量が半端ないからな!暴走して事故が起きないように、コントロールできる歳になるまでペンダントを外さないように言ってたんだ!」


「……聞いてない!!」

「え?言ってないっけ?」

 いやいやいやいや、そんなことある?

 そんな大事なことをきちんと娘に話してないって!!

「母さんの形見だから肌身離さず付けてろって!それしか聞いてない!」

 怒鳴る私に、

「ちょっとジェイド!どういうことよ?ちゃんと説明したって言ってたわよね?!もう、4、5年も前に!」

 おばさんの金切り声が加わる。

「え、ほら!魔石の本を渡しただろ!その石のことを書いてある―」

 そう言いながら、父さんはまた5匹ほどのネズミを薙ぎ払った。

 おばさんとおじいちゃんのため息が重なる。

「ノノは読まないでしょ」

「ノノは読まないだろ」


 アハハ……間髪入れずに当てられた。

 というか、そんな本のことなんて覚えてもいないんだけど。

 そんなことしてる間に、王様たちは城内へ避難して、ネズミたちはだいぶ数を減らしていた。

 父さん、大活躍だわ。


 それにしても私、めちゃくちゃ魔力が身体中に満ちているのが分かる。これが本来の私の魔力?頭のてっぺんどころか、髪の先端から足の爪の先まで魔力満タンの感じ。

 そうだ!


 私は両腕を振り上げた。

 ザザザザザーッ

 スライムが改めて積み上がっていく。隠れていたスライムたちも加わったから、さっきよりも大きい壁になる。

「えーと、こんな……感じかなっ」

 私が両腕を左右に突き出したのに合わせて、

 ボヨン!

 スライムの壁から手が生えた。続けて上部が盛り上がり、頭もできる。スライムの巨人だ。


「おぉ……」

「うわわ」

 いろんな声が上がるのをよそに、

「えーい!」

 私はパンチを出してみた。スライム巨人は見事にシンクロして動いてくれる。

 ポチャッ!

 あまり威力のありそうな音じゃないけど、10匹近いネズミが弾き飛ばされた。なんだかボヨンボヨンのガンちゃんみたいだな……

 でも、これで私も戦力になれる!


「ビルキン!ビルキン!」

 突然頭上から聞こえてきた声に、全員が上を見上げた。明らかに人の声に聞こえたけど、そこにいたのは1羽の鳥。

 暗闇に紛れがちな灰色の鳥だけど、その正体はすぐに分かった。

「ビルキン!ギブセンを捕まえた!来てくれ!ギブセンを捕まえた!来てくれ!ギブセンを―」

 男性の声で同じフレーズを繰り返す。メッセージバードだ。一般家庭でも飼われたりしてるけど、普通は言われた言葉をそのまま繰り返すくらい。かなり訓練しないと目的の相手にメッセージを伝えるところまではいかない。これは、おじいちゃんが飼っているメッセージバードだ。


 裏切り者のギブセンが見つかった!よかった。これでこれ以上の動物たちの暴走は止められそう。

 それにしても―おじいちゃんを呼び捨てにするなんて、送信元は誰だろう?同じ商隊の人なら、おじいちゃんのことは「隊長」と呼ぶはずなんだけど。

「ジェイド!」

 おじいちゃんが叫んだ。

「城壁が崩れた場所へ行ってくれ!そこに置いてきた見張りからのメッセージだ!」


「私も行く!」

 すぐに私が手を上げると、スライム巨人もその手を上げる。

 私とスライムを見比べながら、父さんはニヤリと頷いた。


「ノノ!無理するんじゃないぞ。ワシはガンボンの側から離れられん」

「そうよ!まだ捕まってないオオカミもいるんですからね!」

 おじいちゃんやおばさんはそう言いつつも、私が付いて行くことに反対はしない。

 このスライム巨人を見たことで、私が少なくとも足手纏いにはならないと思ってくれたらしい。

「よし!ノノ、行くぞ!」







 直線で城壁を目指そうとすると、植え込みや茂みを突っ切って行かなきゃならない。

 そして走ろうとして気づいたんだけど、私の一歩とスライム君の一歩の幅が違いすぎて、どうも動きをシンクロさせるのが難しい。

 どんどん先に父さんは行ってしまう。

 これは、一度スライムは元に戻した方がいいか……いや、もしかしたら……


 うまくいくか、自分でも分からなかったけど、私は右手を地面の方に差し出した。

 スライム君の手は私の目の前に下りてくる。その手に私は飛び乗った。

「うーん、よいしょっ……と!」

 そのまま手を上げて、ボヨンボヨンの肩に乗る……つもりが、

「あえ?!」

 頭の真上に立ってしまう。しかも、膝までスライムにめり込んでしまった。

 ま、まあ、これはこれでなんとかなりそうだからいいか。


 めり込んだ足を前後に動かそうとすると、スライム君は大股で前進を始めた。

 うん、実際には足はめり込んだ場所からほとんど動いてないんだけど、私の思い通りの速さでボヨンボヨンの巨人は植え込みを飛び越え、茂みを薙ぎ払った。

 たちまち父さんにも追いついて、

「おおお??!」

 ジタバタする父さんを小脇に抱えてやる。

 ペンダントのことで、父さんにはいろいろ文句も言いたいし、このくらいのドッキリはいいでしょ。


 崩れた場所が間近になると、異様な魔力を感じた。私、魔力感知の能力も向上したみたい。

 魔力の元を辿ると、そこにいたのは毛を逆立て低く唸るオオカミと、それを遠巻きに囲む兵士たち。


「ジェイド!お前、何やってんだ?!」

 足元からひっくり返った声がしたので見下ろすと、マリクおじさんがいた。

「おじさん!私!」

 おじさんの視線が巨人の脇から頭の方へ上がってくる。身を乗り出して手を振る私に、おじさんはパックリと口を開いた。

「なん……これは……」


「このオオカミたちも変なメダルを飲み込んでいるのよ!吐き出させれば、おとなしくなるはずだわ!」

「は、吐き出させるって……」

 事態が飲み込めず、目を白黒させるおじさんの背後から、

「おい!そのデッカいの!」

 横柄な声がかかった。でも、聞き覚えがある―さっきのメッセージバードの声だ!


「コイツを捕まえていられるか?!」

 魔石灯を持って立っていたのは、若い男の人だった。見たことない人だけど、エルガンド人の顔立ちじゃない。きっと、おじいちゃんの言ってた「見張りの人」なんだろうけど、なんか感じ悪。

 男の人の足元でロープにぐるぐる巻きにされているのは間違いなくギブセン。


「つ、捕まえてればいいの?!」

「逃すんじゃねえぞ!」

 私の返事も待たず、男の人はギブセンをスライム君の足元へ突き飛ばしてきた。そして、そのまま剣を抜いてオオカミたちに突進していく。

「ノノ!降ろせ!」

 そうだ。父さんを掴んだまんまだった。

 父さんを放し、そのまま今度はギブセンを抑え込みだ!


 マリクおじさんもすでにオオカミに向かっていっている。

 ギブセンはスライムの手の中で喚いた。

「くそっ?!なんだコイツは!」

 昼間会った時との雰囲気からは想像もつかない悪態がその後に続く。本性でたな。


「ねえ!あなたがあのオオカミたちを操っているんでしょ!止めなさい!もう王様たちにもドーゲルデンの仕業だってバレてるんだから!」

 ギロリと見上げたその目が、スライム巨人の上から見下ろしている私を確認する。その反応はちょっと意外だった。

 驚くかと思いきや、むしろ納得した顔を見せたのだ。

「スライム使い……そうか、スライムを寄せ集めたのか。はっ、気色悪いな」

「はあ?!気色悪いって、なによ!あのネズミの方がよっぽど気味が悪いわ!」

 ギブセンは押さえ込まれながらも、笑って見せた。強がっちゃって。身動きも取れないくせに!


「ったく、予想外の連中ばっかり集まりやがって。おかげでこっちは計画がガタガタだよ」

 よっぽど捕まったのが悔しいのか、まだジタバタしながら文句を垂れ続けている。

「いいから!動物たちを止めなさいってば!」

「はっ!さっき自分で言ってただろ!呪印を吐き出させればいいだろうが!敵の手を借りるまでもあるまい」

「はあ?!なによ!偉そうに!自分のしでかした責任くらい取りなさいよ!」

 ギブセンの態度はホント、頭に来る。


「計画が挫折した上に、お前みたいなガキの言うなりになるなんて、ゴメンだね!ああ、言っとくがネズミはオレにも止められんぜ。なにしろ体に呪印が刻まれてるんだからな。あの印は発動させたら死ぬまで止まらん。大した術だろ?」

 スライムの手の中でいやらしい笑いがクツクツと上がる。私は激しい怒りが湧き上がるのを堪えられなかった。握りしめる手に力がこもる。

「ぐ、ぐわ……い、息がっ……」

 ギブセンのうめき声にハッとした。最低な飼育員だけど、殺すわけにはいかない。

 だけど、次の瞬間、力を緩めたのは私の判断ミスだった。

 緩んだスライムの指先から、ギブセンは飛び出したのだ。


「えっ、なんで……」

 どういうわけか、グルグル巻きになっていたはずのロープがほどけている。そして私の理解が追いつく前に、ギブセンに絡みついていた数匹のスライムが私めがけて飛んできた。この小刻みな震え方!粘液を吐く気だ!

 すんでのところでスライムの壁で防ぐ。触れてもかぶれるくらいで、致命傷にはならないけど、目に入ったりしたら相当痛い。よく心得た攻撃だわ!


 え、ていうか、スライム……ギブセンが操ってる?!そんな、このスライム巨人は私がテイムしたスライムたちで……そして、スライムをこんな風に操るなんてテイマーじゃなきゃ……

「ちょ……あなた!テイマーなのね?」

 その答えでギブセンのロープが解けた理由も分かった。自分の体の周りのスライムをテイムしてロープを解かせたんだ。

 いかようにも形の変わるスライム。ロープの隙間に入り込ませて解かせるなんて簡単だ。


 い、いや、言うほど簡単じゃない!

 何匹もまとめて、それなりに細かい動きをさせなきゃ、あのロープは解けない。そっか、だからベラベラ喋って私の気を逸らしてたんだ。

 悔しい。

 完全にしてやられたわ!

 まさか私がテイムしてたはずのスライムを乗っ取られるなんて。


「逃がさない!!」

 ギブセンは崩れた城壁の場所から逃げ出そうとしている。

 走る後ろ姿へスライム君を大ジャンプさせる。

「くそっ!!行けっ!!」

 ギブセンは振り向きざまに大きく右手を振った。

 その手の動きに合わせて飛び出したのは、青いオオカミ。真っ直ぐ私の方へ飛び上がってくる。

「わ!ワワワワーッ!!」

 私が繰り出す必死のパンチをオオカミはあっさりかわし、鋭い爪をスライムのボディに突き立てた。そのままよだれを撒き散らしながら頭の方へ登って―こようとしたところで、オオカミの体は横に吹っ飛んだ。


「ノノ!大丈夫か!」

 父さんがグリフォンの足に捕まりながら空宙にいた。オオカミめがけて火炎魔法を飛ばしてくれたんだ。ナイスフォロー!

「そいつが最後の1匹だ!とっととメダルを吐かせるぞー」

 グリフォンから乗り出したマリクおじさんが叫ぶ。同時に、

「ちゃんと捕まえてろって言っただろうが!」

 私に怒鳴りながら、足元を駆け抜けていく人影。それはひとっ飛びでギブセンの背中に追いついた。

 さっきギブセンを捕まえていた人だ。


 振り返ったギブセンの顔面に、容赦ない蹴りが入る。ギブセンはあっけなくひっくり返った。

「ったく、危うく取り逃すところだ」

 男の人はブツブツ言いながら、あっという間にギブセンを縛り直している。

 ……この人、何者?おじいちゃんの商隊のテイマーにしては、なんか雰囲気が……セリオンの民とは違う。

「あのっ!気をつけて!その人、テイマーよ!」

「ああ?!」

 スライム君から飛び降り、駆けつけた私を男の人はジロリと見た。わ〜、やな感じ。


 無精髭のせいでおじさんかと思ったけど、間近で見るとまだ若そう。くっきりとした眉とその下のキラキラした黒い瞳。

 なかなか濃い顔立ちと、がっしりとした筋肉質の体つきで、結構な威圧感。

「テイマー?やっぱりな」

 見下ろす浅黒い髭面に、ギブセンは悔しそうに顔を上げた。鼻血でギブセンの顔は血だらけ。それでも、まだ太々しい態度は変わらなかった。


「おまえ、オレを知っているのか?その顔つき―ドーゲルデン人だな?」

 男の人は黙ってギブセンを見下ろしている。剣を握った手にひどく力が込められているのに私は気付いた。

 え、え……殺しちゃう……?

 人間に対する殺気、というのを感じたのは初めてだった。

 もちろん、ギブセンのしたことは許されないことだけど、一般人の、しかもここでは外国人のこの男の人が、勝手に命を奪うことは許されることじゃない。

 でも、男の人の殺気は私を動けなくしていた。


「おい、」

 そんな空気を知ってか知らずか、戻ってきた父さんが勢いよく男の人の肩を叩く。

「君がマシューだね?」

 ちょっと気取った言い方が父さんらしくなかったけど、マシューさんはそれでハッとしたみたい。

「オヤジから話は聞いてる。痛めつける前に、コイツからは色々と情報を引き出さないと」

「……確かにな」

 マシューさんは頷いて剣をさやに納めたけど、ついでに思い切りギブセンを蹴飛ばした。


「えと……この人、おじいちゃんの商隊の人……なんだよね?」

 父さんに聞いたつもりけど、マシューさんが答えた。

「いや、オレはテイマーじゃない。商売を勉強させてもらうためにビルキンに同行しているんだ。だから、商隊のメンバーってわけじゃない」

「え……へぇ」

 思わず父さんの顔を伺ってしまった。

 基本、セリオンの商隊にはテイマーの素質がある人、つまりテイマー見習いの人しか入れない。よくおじいちゃん、受け入れたな……しかも、こんな感じ悪い人。


「ビルキンの息子ということはあなたがドラゴンマスターのジェイドか。そして、スライム使いのノノ」

 一瞬だけ、マシューさんの口元がゆるんだ。スライム使い、という二つ名は、ちょっと馬鹿にされてるみたいでカチンときたけど、

「マシューだ。よろしく」

 父さんに手を差し出した様子は、ドラゴンマスターに対してそれなりの敬意を払って見えた。私の方にはチラッと視線をくれただけで、握手をする気はないようだけど。


「大した剣の腕ですな」

 父さんはマシューさんの横柄な態度も気にする様子はなく、そう言ってから私の方を見た。

「オオカミたちをほぼ1人で片付けたんだ」

「え、すごい」

 あのオオカミたちを一人でって、それは大した腕前だわ。この態度のデカさも、なるほど……


 しばらく地面でうめいていたギブセンが顔を上げた。

「……くっ、いい気になるなよ」

 こっちもまだ強がってるな。こてんぱんにやられてるクセに。

 でも、次のギブセンの言葉に、私は青ざめた。

「オオカミやクマは止められても、ネズミどもはどうにもできんぞ。今頃、町中で大暴れのはずだ」

 父さんとマシューさんが顔を見合わせる。

「そうだ!ネズミ!さっき、死ぬまで止まらないって、この人言ってた!」

「なにっ?!くそっ!」

 父さんが舌打ちする横で、マシューさんが顔をしかめた。

「おい、ネズミってなんのことだ?」

 クックッとギブセンが押し殺した笑いを漏らす。


「あのネズミども、城の中だけに放したわけがないだろ」

「城の中だけじゃ……?」

 父さんと顔を見合わせて、私はゾッとした。

「まさか町に?!」

「ヒャヒャヒャ!」

 ギブセンの笑い声が甲高くなって、耳障りだ。目も完全にイッちゃってる。


「おい!ネズミを町に放したのはいつだ?!」

 父さんが詰め寄ると、ギブセンの笑い声がスッと引いた。

「お、ヤバさに気がついたか。はは……放したのはな、1年さ。動物のエサに生き餌として必要だって言ったら、あっさり持ち込みを許されたらしいぞ。体にあの呪印が刻まれたヤツはな、子供にもあの印が最初から刻まれてるんだ。すごい技術だろ。未来永劫、維持できる生物兵器になれるんだ。ああ、もちろん意味が分かるよな?今頃どれくらい繁殖しているか、オレにも分からんさ」

 ギブセンがベラベラ喋る間に、マシューさんもだいたいの事情を察したみたい。


「コイツらの持ち込んだネズミが街中に放たれたってことか?あのオオカミのように、人を襲うのか?」

「ああ。しかもただのネズミじゃない。集団で統率された行動をとれる。人を襲うことに特化したネズミと言っていい」

 父さんはそう言って大きく息を吸うと私を見た。

「ノノ!街に行くぞ!なんとしてもネズミどもを片付けないといかん!」

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