12話 空の旅
目を覚ますと、なんとお城のベットにいた。
もう結構太陽は高く昇っていて、でも体も頭も少しぼんやりしている。
ええと、どうやって帰ってきたんだっけ……と、思い出そうとしていたら、
「ノノーっ!!」
突然、横からサーラに飛びつかれて首がガクンガクンした。
「よかった!目が覚めたのね!」
「え?うん、めっちゃ熟睡してたわ」
サーラはなぜか半べそ。あ、ネズミ退治で私がエレウスから飛び降りたのを聞いたのかな。きっと心配してくれてたんだな……
「熟睡どころか!声をかけても揺らしても全然起きないし!一日中心配してたのよ!」
「い、一日中って……私、何時間寝てた?」
明るい窓を横目で見る。もしかして、もうお昼過ぎとか?
「だから!丸一日よ!昨日の明け方、おじさんが抱えて連れてきて!そこから一回も目を覚まさなかったのよ!」
「ええ?!」
いくらなんでも、そんな長時間眠り続けたことなんてない。でも、サーラはからかっている様子じゃない。
バァン!!
勢いよくドアが開いた。
「ノノ!目が覚めたか!」
声を聞きつけたのか、父さんやマリクおじさんたちが雪崩れ込んできた。
「ノノ!お前っ、父さんはここまで無茶させる気なんてなかっ―」
「ノノ!よかったわ!お昼過ぎても起きなきゃ、日蠍を煎じて飲ませようかと―」
「ノノ!お前がエレウスから飛び降りたもんだから、ジェイドは―」
みんな一斉にワァワァ言うもんだから、何が何だか分りゃしない。
そして、私が眠ってる間にいろんなことが決まっていたらしく……
「よし!ノノの体調さえ大丈夫なら、すぐに出発するよう、王様に言ってこよう」
ひとしきり、私の無事を確認した後、父さんは鼻水まみれの顔で立ち上がった。
「もちろん、無理は禁物だが―」
「え?まあ、お腹は空いてるけど、それ以外は大丈夫。で、えーと、どこに行くの?」
「うん!用意しながら説明する!まずはエレウスだ!」
あっけに取られる私をよそに、父さんは部屋を飛び出して行った。
それから―1時間もしないうちに、私は空の上にいた。
ドラゴン5頭で編隊を組んで飛ぶ様はかなり圧巻。後ろにはグリフォンの集団も付いている。
先頭を行くのはエレウス。その背中には父さんと、なんとエルガンドの王様が乗っていた。
私はというと、こちらもなんとマシューさんとの二人乗り。私たちを運んでくれているのは、ゼルディンという名前のエレウスよりだいぶ小柄なドラゴン。黒曜石のような黒い鱗が光を弾いてキレイ。
エレウス以外のドラゴンに乗るのは初めてで、しかもドラゴン初騎乗のマシューさんと二人なんて、緊張がほぐれるはずもなかったけど、ゼルディンの飛び方はすごく安定している。
しばらく飛ぶうちに私は気がついた。
(このドラゴン、すごく慎重に飛んでくれてる。私たちを気遣ってくれてるんだわ)
ドラゴンが人間に気を使うなんて、あんまり考えられないことだけど。
ゼルディン以外のドラゴンは私は何度か会ったことはある。みんな父さんには話しかけたけど、子供の私には見向きもせず、わざと熱い鼻息を出して、怖がらせたりしできたのよね。父さん曰く、「お前がかわいいからからかっているだけ」ということだったけど、ちょっと生意気なことでも言おうものなら、平気で炎を吹き出しそうな威圧感と迫力があって、私は本気で怖かった。
ただ、この態度はマリクおじさんたちにも同様だったから、子供かどうかじゃなく、父さんかそれ以外か、がドラゴンにとっては重要みたい。
「素晴らしい生き物だな、ドラゴンというのは」
上昇飛行から安定した水平氏飛行に移ると、マシューさんが感慨深げに言った。
独り言じゃなく、ゼルディンにちゃんと聞こえるように声を張っている。
上下左右くまなく見渡しているマシューさんは、子供のように目をキラキラさせていた。
少なくとも私と同じくらいは緊張して、少しは怖がるんじゃないかと思っていたのに、なんだか肩透かしを食った気分。だから、
「初めてドラゴンに乗ってそんなにはしゃいでる人、見たことないです」
なんて言ってしまった。
「はしゃいで―?いや、そう―見えてしまったか―」
はしゃいでると言われたのがちょっとバツが悪かったのか、マシューさんは口元を引き締める。
「まあ、ビルキンから君らのことは色々聞いていたから。いつか、ドラゴンと間近で会話してみたいと思っていたのだ」
ゼルディンはチラリと私たちの方に視線を動かしたように見えたけど、何も言わなかった。
私が今まで会っ中で1番物静かなドラゴンだ。あんまり喋ったり吠えたりしない、という以上にドラゴン特有の荒々しさとか猛々しさみたいなものが感じられない。ドラゴン的には不思議ちゃんじゃないんだろうか……
「今のうちに状況を説明しておこうと思うんだが」
しばらく穏やかな飛行が続く中、マシューさんが口を開いた。
「あ、それは私も聞きたかったです。寝てる間にいろんなことがあったみたいだし、行き先もよく分からないまま、引っ張り出されて来たので」
「?!行き先も聞いてないのか!」
あ、さすがにそのくらいは把握していると思われてたのか。
「うちの父にはよくあることなんです。説明した気になってるのか、説明しなくてもいいと思っているのか……他のみんなも準備でバタバタしてたし」
マシューさんは苦笑いを浮かべて頷いた。
「まあ、忙しかったのは確かだな。―我々が向かっているのは、ドーゲルデンの王都だ」
「えっ、」
予想してないことではなかった。でも、
「お、王様自らドーゲルデンに直接乗り込むの?」
前を行くエレウスの背中では、父さんと王様が談笑している。時々、エレウスの低いダミ声がそれに混ざった。……楽しそうだな。ちょっと緊張感がなさすぎな感じもする。
「そういうことだ。そして、今回の騒動の責任を追求する。それと、」
マシューさんの声には厳しさが含まれていた。
「不当に王位についた現王を王座から引きずり下ろす。諸悪の根源を断たねばならない」
「不当に王位についたって……どういうこと?マシューさんって……ドーゲルデンの王家と関係があるの?」
マシューさんがドーゲルデン人なのは分かっていたけど、どういうことなんだろう?
「ひとまず、ドーゲルデンがどんな状況か、話させてくれ」
マシューさんの真剣な眼差しに、私は黙って頷きゼルディンの立髪を握り直した。




