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1話 ノノ 

「むか〜し、むかし、とても強い王様がいました。王様はもっと遠くまで自分の国を広げたいと思いました。でも、遠くへ行くためには灰色の森を通らなければなりません。森には強い魔物がたくさん住んでいて、人間は通ることができませんでした。すると、家来のイクシオンが言いました。―私は魔物たちに言うことを聞かせる魔法を考えました。魔物たちを操って、道を開けさせましょう―イクシオンが魔法を使うと、魔物たちは人間を襲うのをやめ、言われた通りに道を開けました。他の魔物と戦って、人間を守ることもありました。お陰で王様は森を抜け、隣の国も自分の領土にすることができました」


 ジェリィおばさんのお話を聞きながら、私は大きな欠伸をした。何回も聞いたお話。でも、サーラはこのお話が大好きなのだ。

 まあ、私も好きなお話だから別にいいのだけど。


「やがて、イクシオンの弟子のセリオン―娘って書いてある本もあるわね―セリオンは魔物を操る他の方法を考えだしました。イクシオンが考えた魔物を操る方法では、操られた魔物はその後で死んでしまうからです。セリオンの考えた方法は、魔物と心を通わせ、友達になる方法でした。魔物が嫌がることはさせず、人間の街に近づかないようにさせる方法です。セリオンは魔物たちと旅をして周り、たくさんの魔物と友達になりました……」


 魔物の友達……私の友達は、スライムだけ……サーラは私より誕生日が後で……この間5歳になったばかりなのに、もうファイアリザードもテイムできてる……


「今、みんながテイムと呼んでいる魔法はセリオンがが考えた方法ね。イクシオンの方法はとても強い魔力がないと使えないけれど、セリオンの方法ならテイムできる人はたくさんいるわ。セリオンのやり方を学んだ人たちが集まって―大陸中を巡りながら―そして、私たちが―」


 おばさんのお話は続いてる。

 私は胸元のペンダントに付いた石を指でなぞっていた。いつもの触り心地……安心する。母さんの形見……母さん……そう、母さんはセリオンの民じゃなかったから……だから私もテイムが苦手なのかな……今日も、スライムは……たくさんテイムしたのに……

 たくさん走って、テイムして……でも、スライムしかいうことをきいてくれなくて……


 おばさんの手が頭を撫でてくれている。

「ノノはお話の途中でいつも寝ちゃうわ」

 サーラの声が聞こえる。うん、そう……だって、眠いんだもの……

「どれ、連れて行くか。ほら、ノノ、おいで」

 父さんだ。父さんの声……

 私はなんとか頭を上げて手を伸ばす。

 大きな手が私の体を抱え上げた。力強い手の中で、私は深い眠りに落ちた。





「ノノはいくつになったね?」

 柵に寄りかかり、水筒の水を飲みながら、ゼゼじいちゃんが聞いてきた。本名はなんかとても長ったらしくて、私は覚えていない。

「もうすぐ15〜」

 答えながらぐるりと周りを見渡す。

 ゼゼじいちゃんの牧場は、いつ来ても気持ちがいい。

 特に今日は天気もいいし、昨日まで吹いていた強い風も収まって、ものすごく穏やかな日差しが注いでいる。

 足元に大繁殖しているオニツル草さえなければ、申し分ない。


 まだ足首に絡むくらいの背丈だけど、これが膝くらいまで伸びてくると、革靴さえ貫通するようなトゲが出てくる。そうなると、除草は一苦労だ。

 しかもこの植物、繁殖力が強い。牧草地に侵食する前に根こそぎ刈り取らねば、というのが今日のミッション。


「15歳かぁ。そりゃ、そろそろ修行に出んとな。それとも、あれか?学校にでも行くんか?」

「学校は行かない」

 即答した私に、じいちゃんはヒャヒャヒャ、と笑った。

 ゼゼじいちゃんの牧場には小さい時から来ている。私が大の勉強嫌いだって知ってて聞いたんだ。

「本読むのとか嫌いだもん。何年も同じところにいなきゃならないのも嫌だし」


 勉強嫌いももちろんだけど、学校へ通うとしたら寄宿舎のある学校に入るのが一般的。

 街から街へ、山から山へ。

 行商しながら旅を続ける生活しか知らない私には、一ヶ所に何年も住み続けることなんて、想像できない。


「そんじゃあ、やっぱりどっかの商隊に修行に出んと。ああ、でもジェイドが一人娘を離したがらんか?」

「いや、別に父さんは、そんなこと……」

 私が他の商隊に修行に出れないのは、そういうことじゃない。


 父さんは今、牧草地の向こうで仔牛たちを一列に並ばせて口の中をのぞいたり、体に触ったりしていた。この1週間に生まれた、10頭の仔牛たちの健康チェック。

 みんなおとなしく並んでされるがままになっているのは、もちろん父さんがテイムしているから。

 父さん、見た目はどこにでもいるオッサンだけど、テイマーとしては優秀なんだよね……


 私たち「セリオンの民」は15歳前後で、自分が生まれ育った商隊から他の商隊に「修行」にでるのが一般的だ。その年頃には「セリオン操術を扱う者」、つまり「テイマー」として、基礎的なテイムができるようになっているから。親元から離れて独り立ちの修行をするというわけ。

 中には旅から旅への生活より定住に憧れたり、(私には理解できないけど)勉強が好きだからと、街に住む人もいる。

 セリオンって、ここら辺は寛容で、街に定住したいという人を引き止めることはないし、逆に行商しながら大陸中を回りたいという人はすぐに受け入れる。ただしこの場合、テイムの才能があること、が必須条件にはなるけど。


 私、この歳になってもいまだにスライムしかテイム出来ない。これじゃあ、他の商隊に修行に行っても、テイマーとしての仕事はできない。

 かと言って、勉強も苦手で、となるとこれからどうしよう……なのだ。

 テイマーの中で育ってきたから、いつかはできるようになると思っていたし、周りの人には「気にしなくていい」なんて、軽く流されるけど……さすがにヤバいんじゃないかと、最近は焦ってる。


「まあ、一つところに住むのも悪くはないぞ。ワシらがこの牧場に来て、もう20年以上になるが、元の旅の生活に戻ろうとは思わん。旅には体力もいるしなぁ……お、医者のところの若いのが来たな」


 じいちゃんが言った方を見ると、若い男の人がこちらへくるところだった。

「どうも。先生から預かってきた薬です」

 じいちゃんに薬袋を渡しながら、チラッと私を見る。なんだか冴えない顔色をした人。愛想も良くない。その目がふと、遠くに固定された。


「え、なんであんな……」

 ボソボソと口の中で呟き、眉をひそめている。視線の先を追うと、父さんが仔牛たちを一列に行進させているところだった。歩き方をみているんだと思うけど―そうか、普通の人は仔牛が足並みをそろえて行進してるなんて、見たらびっくりするか。


「ああ、知り合いに手伝いに来てもらってな。優秀なセリオンだ。大したもんだろ?」

 じいちゃんは嬉しそうに言ったけど、男の人の顔は強張ったように見えた。

「セリオン……魔物使いか」

 その言い方がすごく感じが悪くて、私は思わず言い返そうとした。


 牛は魔物じゃないけど!

 だけど、そう言う前に、

「昔、一緒の商隊にいたこともあってなぁ。なにせこの腰だ。来てもらって助かっとるんだよ」

 ゼゼじいちゃんが腰を叩きながら、ヒヤッヒャツと笑ってみせた。

 私がイラっとしたの、分かったんだな、きっと。


 男の人はじいちゃんが元々はセリオンの民だったって知らなかったみたい。

「えっ、あ、」

 明らかに狼狽して、ゴソゴソ言うと、そそくさと帰って行った。


「エルガンド王国って、セリオンに友好的だと思ってたのに。ああいう人もいるのね」

 ほっぺたを膨らませながら私が言うと、

「ふふん、」

 じいちゃんは鼻を鳴らした。

「どこにでも、いろんな人間がいるもんさ。あの子は元々この村の出身なんだが、魔法の才があるってんで、小さい時からウルフェウドの魔法学院に行っとったんだ。あの魔法学院の連中は未だにテイマーを敵視してるからなぁ。すっかり刷り込まれたんだろ。おまけに、王都の魔法部隊に入るのを希望してたのに叶わなくてな。まあ、王都の魔法使いとなりゃ、相当な素質を持った者ばかり。そう簡単に入れるもんじゃないんだが。仕方なく村に戻って来て、ちっと腐っとるのさ」

「結構、あちこちにセリオン出身っているのにね」


 旅から旅への生活は、体力勝負。そして、動物をテイムするのにも魔力とともに体力が大事。

 だいたい50歳を過ぎたくらいから、みんな定住を考えるみたい。

 完全に引退してのんびり暮らす人もあり、気に入った街で商売を始める人もあり。セリオンの民が旅の拠点として立ち寄る「居留地」の管理人になる人もいる。

 ゼゼじいちゃんのように、牧場経営っていうのもセリオンには向いてると思う。

 なにしろ、動物の扱いには長けてるんだから。


 だいぶ向こうから、男の人が振り返ってまた父さんを見ていた。

「確かになぁ。王都にも店を構えているセリオン出身者はいるし。でもな、あんまり大っぴらには出自は言わん方がいい。セリオンと聞くと、身構える人間も少なくない。ま、この村の人らはとっくにワシらのことは知ってるし、あの子も知ってるかと思ったんだがな」

 私自身、セリオン民だからと何かされたり言われたりしたことはないんだけど。

 だから、あの男の人の態度が余計にショックだったのかもしれない。


「さて、ジェイドの方も片付きそうだし、こっちも始められるかい?」

 じいちゃんにニコニコと聞かれて、私はオニツル草に覆われた地面を見回した。

「うん、いける。十分集まった」


 私が右腕を振ると、オニツル草の間から一斉にスライムがジャンプする。

「ウヒャヒャ、ずいぶん集めたな、商隊が一つできるんじゃないか?」

 じいちゃんが楽しそうに笑ってくれるのを見ると、こんなスライム限定の能力でもいいかな、と思ってしまう。


 父さん曰く、

「生存本能と条件反射で生きている」

 のがスライムらしい。

 どこにでもいる、と思われがちだけど、臆病な彼らはそうそう人前に出てくることはない。

 人の気配を察すると速攻で逃げてしまうし、そのゼリー状の体を活かして隙間に潜り込むと探すのも容易じゃない。

 群れで生活しているわけでもないから、探そうとして探すのは、普通の人には骨が折れる。

 まあ、わざわざスライムを探す人もいないけど。


 だから、50匹以上のスライムたちが一ヶ所に集まっている光景なんて、普通は見ることがない。

 この牧場周辺のスライムを一気に引き寄せて集めたのは仕事をしてもらうため。

 仕事っていったって、スライムに物が運べるわけじゃないし、特殊な魔法が使えるわけでもない。

 彼らはただ跳ね回りながら、植物の養分を吸って生きている。


 そう、その性質をオニツル草駆除に使ってやろうというわけ。

「さあ、たっぷり召し上がれ」




 30分もしないうちに、地面を覆うオニツル草は萎れ、黒い土が見えるようになってきた。

 いつもの2倍近い大きさに膨らんだスライムは、ほんのり草の色を帯びて、オニツル草の養分をガッツリ吸い込んだのが分かる。


「おお、順調だな。この分だと昼前には片付きそうじゃないか」

 仔牛たちの健康チェックを終えた父さんがやってきた。

「あっちは一段落したぜ。あとは大丈夫か?」

「ああ、午後からは息子たちも手伝いに来てくれるからな。心配いらん。湿布薬も届いたしな」

 じいちゃんは薬袋をパタパタ叩きながら、腰を伸ばしてみせる。

「もう普通に動く分にはええんだが。屈んだり、ひねったりするとなぁ……」

「それ、普通に動けてねえだろ」

 父さんは苦笑いしながら、同意を求めるように私を見た。


「他にも手伝えることあったら、やっていくよ」

 私が言うと、

「いや、お前さんたちだって帰ってやることがあるだろ?なんせ、予定が全部組み直しだろうが」

 じいちゃんはもう一度腰を伸ばしながらそう言った。

「まったくだよ。ゼゼじいにも迷惑かけたしな」

 父さんの言葉に首を振りながらも、じいちゃんはちょっと顔を曇らせてため息をついた。


「昔からよく問題を起こす国だがなぁ……100年も前に戦争でとられた領地を返せとは、何を考えておるのやら。きちんと和平条約を結んだ上での譲渡だったことは、記録にも残っとろうに。今の王様になってからのドーゲルデンは、国内の生活も苦しいらしいし、いい話は聞かんな」

「ああ、北部周りのオヤジたちも苦労してるらしい。急に通行規定を変えたり、商売の許可を出さないと言ってきたり……前の王様の時はまだよかったのにな」

「今の国王は前の王様の弟だったか。前の皇太子も事故で亡くなったり、国としても不幸続きだからな。王家の存在を国民にアピールしたいとか、そんなとこかのう?お偉いさんの考えることはワシには分からんな」

「ねえ、」

 私は口を挟んでみた。

「このまま戦争が始まっちゃったら、ドーゲルデンには行けなくなっちゃうの?」

「うーん、オレたちなら行けないことはないがな。商売は難しくなるだろう。正直、戦争を起こすような国の魔物払いなんて、引き受ける気にもならん」


 別に私はドーゲルデンに行きたいわけじゃない。

 北方三国の最大の国ドーゲルデン。

 今からの季節はいいけれど、冬は当然今いるエルガンド王国より寒くて、外でテントを張っての物売りは過酷。土地がやせていて、いつも食糧事情がひっ迫しているから、美味しいものを期待することもできない。


 でも、今回はゼゼじいちゃんの牛をドーゲルデンまで連れて行って売る予定だった。

 質のいい乳牛を欲しがっている人がいて、父さんに頼んできたのだ。

 神経質な牛を牧場から連れ出して、はるか北の国まで連れて行く。それも健康を損ねずに。となると、私たちのテイム術は大いに役立つわけ。

 結構な大きい仕事で、当然儲けも期待していた。私だって、それがチャラになるなんて、もったいないと思う。


 せっかく段取りを整えてここまで来たのに、牛を連れて行けなくなったのは、国境が通れなくなってしまったから。

 1週間前のこと、ドーゲルデン王国は突然、100年前に不当に奪われた土地を返せ、なんて言ってきた。挙句、エルガンド王国との国境付近に「訓練」と称して軍隊を動員してきた上に、ドーゲルデン特産の魔道具の輸出を停止してしまったのだ。

 きな臭い状況に、エルガンド王国も、兵を集め、国境付近の一般人の立ち入りを禁じてしまった。


 それでも、私たちセリオンの民はその特技故に通してもらえるだろう、と父さんも他のみんなも楽観的だった。

 だって、私たちの本業は行商じゃない。

 魔物払いという特別な仕事があって―というのは甘かった。


「オオワシやヒッポグリフを使えば、空から国境なんか越えられるが……なんせドーゲルデンがセリオンであっても、勝手に国内に立ち入るのを禁じると、はっきり声明を出したからな。不法入国がバレたら間違いなく捕まる。今の様子だと下手すりゃ死刑だ。そこまでの危険をおかすメリットは何もない」

 いつも楽観的で大雑把なことしか言わない父さんがそんな風に言うなんて、予想外だった。

「死刑って……ホントに?」

「今のあの国ならあり得るな」

 じいちゃんも大きく頷く。

「ここ2、3年でますますおかしくなっとる。あの王様、何をしでかす気やら……ああいうのには関わらんのが一番さ。牛の売買なんて平和になりゃ、いつでもできるんだから」


 そんなに危ない情勢になってるのか……そうすると、

「じゃあ、おじいちゃんにはしばらく会えないってこと?」

「仕方ないな」

 父さんはあっさり頷いた。


 大陸北部を主に回っているおじいちゃんには、一年に一度会えるかどうかだけど、会うとたいてい珍しい生き物を引き連れている。あと、珍しい魔道具のコレクションもしてて、それを見せてもらうのも楽しみなのだ。


「ははは、廻りのタイミングが合わなきゃ、同じセリオンでも4、5年会えないことだってざらさ。そうガッカリしなさんな」

 確かに、ゼゼじいちゃんの言う通り。それが旅を続けるセリオンの民なのだ。


 話をする間に、スライムたちはますます膨れていた。

 手乗りサイズから両手でないと持ち上げられない大きさまで巨大化している。

 最初は私も驚いたけど、スライムって丈夫だ。こんなに膨らんでも弾け飛んだりはしない。

 そして、オニツル草の群生はすっかり萎れて葉も茎も地面に倒れ込んでいる。

「ここまでなりゃあ、あとは放っておくだけでカラカラになる。いや、除草剤を使わなくていいのは助かるわ」

 ゼゼじいちゃんは上機嫌でオニツル草のカーペットを眺めていた。

 牧草地に隣接するこの場所に、除草剤を使うのが好ましくないのは私でも分かる。

 スライムしかテイム出来なくてもこんな風に役に立てるなんて何よりだ。


 さて、あとはこのスライムの処置だ。

 こんな目立つ状態のスライムを野に放つのは気が引ける。

 生き物は、なるべく自然に近い状態で自然に戻すのが私たちの基本。


「あっちの堆肥置き場で吐き出させてくれ」

 じいちゃんが指差した。

「なるほど。虫除け効果にはおあつらえ向きだね」

 指示された方へスライムを誘導する。

 ボヨン、ビヨンとまんまるに膨らんだスライムが列をなして跳ねる様はなんかカワイイ。


「あ、ノノ、こっちの瓶にも入れておくれ。他の薬剤と混ぜていろいろ試してみたいんじゃ」

 じいちゃんがガラスの瓶を取り出す。

「研究熱心だね〜」


 オニツル草とスライムの粘液が混ぜ合わさると、虫除けの効果があることを発見したのはゼゼじいちゃんだ。

 ただし、スライムの吐き出した粘液に触れると、皮膚がかぶれることがあるので取り扱いは要注意。


 1匹を呼び寄せて、ノズルのように口を延ばさせて(スライムに口はないけどね)、瓶の中に粘液を吐き出させる。

「器用なもんだなぁ」

 溜まっていく緑色の液体を見ながら、じいちゃんが感心してくれる。


 スライムはそのゼリー状の体ゆえ、かなり自在に形を変えられるんだけど、彼らは自分の意思(あるのかどうかよく分からないけど)で形を変化させる気はないみたい。

 人が見かけるスライムは、みんな丸パンのような形をしていて(どこかに挟まっていない限りは)、だから棒状に伸ばしたり、こんなノズルを出したりすると、かなり驚かれる。


 こんな風にスライムの形を変えるなんて、普通のテイマーでは出来ない、って褒められることもあるけど……この能力って、ホント限定的な用途しかないんだよね。


「何と混ぜてみるの?」

 聞いてみると、じいちゃんは

「ふむ、」

 と腕組みした。

「なんとか皮膚に触っても大丈夫なようにしたいのよ。ほれ、そうすると手足に塗って虫除けに便利じゃろ」

「なるほど」

「だが、なかなか難儀そうでな、先に土と混ぜてみようかとも思っとる」 

「土?」

「粘土さ。それで効果が持続すれば、家の中でも使える。液体じゃあ、部屋の中には撒けないからなぁ」


「相変わらず、よく考えつくな」

 父さんが呆れたような感心したような顔で笑う。

 ゼゼじいちゃん、現役セリオンの時代のあだ名は研究者。一定の動物にだけ効く薬草を見つけたり、今まで知られていなかった習性を見つけて新しいテイムの方法を編み出したりして、実は伝説の人。


「ワシはテイマーとしては三流だしな。そんで、なんか補えるもんはないかといろいろ工夫してた結果が、思いもよらず重宝されたりしてなぁ。こいつも、宝に化けるかもしれんぞ」

 じいちゃんはビンを振りながら私にウインクした。

「商品化できたら、ワシとのノノ名前をつけて売り出すのもいいかもな」

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