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村の鎮守の森

「あなたたちは、女たちをみな生かしておいたのか。考えてもみなさい、彼女たちはベオルの子バラムの言葉にそそのかされて、イスラエルの子らにペオルの一件でヤハウェに対する冒涜行為を行わせた張本人たちではないか。そのためヤハウェの会衆をあのような疫病が襲ったのだ。さあ幼子たちのうち、男子は皆殺しにし、男と寝て男性経験のある女も皆殺しにしなさい。ただし、女たちの内、男と寝た経験のない少女たちだけは、すべてあなたたちのために生かしておきなさい。モーゼ五書 申命記十三章十六節


神がモーゼに語った。あなたは必ずそのカナンの住民を剣で打ち殺さなければならない。その町とそこにあるすべてのもの、家畜も剣で滅ぼし尽くしなさい。


早い話。モーゼたちは凶悪無慈悲の強盗集団だったのだ。モーゼの十戒には汝は人を殺めてはならない。姦淫してはならない。盗んではならないと書いてあるが、それはあくまでも自分たちの仲間に言っているのであって、それ以外に適用されるものではなかった。哀れとはこんな奴らに狙われたカナン人やインデアン達のことである。ああ無常


※ 異星人来襲  一  レーザービーム 

俺たちは超小型UFOから逃げ回っていた。レーザービームの破壊力はすさまじく命中すれば真っ黒な消し炭となって一巻の終わりだ。水防倉庫に逃げ込もうと河原から土手に上がったもののそこから見える景色は絶望だった。水防倉庫や郵便局どころか見渡す限り炎と煙が上がっておりすべてが破壊されていた。


「鎮守の森に逃げるんや」 燃えずに残っているのは村の鎮守の森だけであった。田圃の中の一本道は上空のUFOからは丸見えだったが他の選択肢はない。レーザービームがムサシの皮膚をかすめるが益荒男の足が止まることはなかった。


必死に逃げながらも奴らの嫌がらせに俺たちは気づいていた。ムサシの皮膚にやけどを負わせるものの決して致命傷を与えようとはしないのだ。 「ムサシ止まんな。止まらんかったら殺さんようや」 「何のこれしき。くつわいだけじゃ。拙者に任せてつか~さい」


ムサシの全身が水泡や蚯蚓腫れなどで腫れあがっていたが、それでも俺達は鎮守の森を目ざすしかなかった。 「UFOの奴らは遊んどるんだわ。たあけたことやりやがって」 「儂とコボはなんにも出来ひん。ムサシほんまにごめんやで」 「大丈夫ですら。拙者は何ともないぞな」


事の始まりは今から二週間前の出来事であった。ドーム球場によく似た銀色の大型UFOが米国東海岸ボストンの少し南に着陸した。UFOを戦車などが取り囲み、何機もの軍用ヘリが飛び交う光景がテレビ中継され、世界中の人間たちが息をひそめてテレビで見守っていた。


やがてUFOのドアが開き姿を現したのは銀色の宇宙服に身を包んだ三人の異星人達で彼らは地球人によく似ていた。細身ながら背が高く色白な顔とピンク色の目という優しい顔立ちをしていた。地球人たちはそれを見て少し安堵した。異星人達は一台のテレビカメラを見つけるとにこやかな笑顔で近づき流ちょうな英語でスピーチを始めた


「わたし達は銀河宇宙の創造者にして唯一無二絶対の支配者であるコイサの使いとしてピューリタン星からやって来た伝道師であります。コイサは汝の隣人を愛せよと申されました。私たちの進化した文明を使い皆様の想像をはるかに超えるサプライズをお約束致しましょう」


全世界で歓声が上がり人々は抱き合って喜び安堵した。翌日には十隻の中型UFOが飛来してきて大型UFOを取り囲んでいた米軍をあっという間に殲滅してのけた。そして次の日には大小無数のUFOがやってきて人間たちをレーザービームで片っ端から殺していった。こうして碌な反撃もできないまま人間たちは全滅した。


続いて標的が大型動物へと移り。小動物へと移り。やがて俺たちのような虫までがゲームの対象にれた。 「ムサシおみゃあ大丈夫きゃあ」 「何のこれしき」 熱傷を全身に負いながらも気丈に答えるムサシがいたわしい。それでも何とか鎮守の森までやってくると太い石の円柱の裏に転がり込むことができた。


しかしここまでだった。残念なことにムサシがあおむけに倒れてピクリとも動かなくなったのだ。そのうえ柱の陰にうまく隠れたと思ったのも無駄であった。ムサシの腹越しにUFOが見下ろしていた。ゲームオーバーだ。俺たちはもうすぐ消し炭にされるだろう。所がどうしたのかしばらくするとUFOはどこかへ飛び去り消えた。


「ムサシもコボも起きさらさんかえ」 アサやんの怒鳴り声で目が覚めた。俺もムサシも悪夢を見ていたのだ。どちらも鼾がひどく相当苦しそうだったらしい。それにしても不思議なこともあるものだ。俺とムサシは同じ夢を見ていたらしい。


二  参拝

こんな悪夢を見てしまったのもあのピューリタンたちのせいに違いない。もしかしたら奴らの穢れが俺たちに移ってしまったのかも。そうだとしたら何か縁起の良くない出来事が待ち受けているのかも知れない。やっぱりここは村の鎮守様でお祓いするしかあるまい。


俺たちは朝一番。田圃の中の一本道を歩いて村の鎮守様を目指した。夢の中では気づかなかったが稲の先には白い花が朝日に映じていじらしく咲いていた。 「花言葉は神聖やねんで」 「なるほど。それじゃったら、今の拙者らの気持ちに寄り添ってくれているんじゃろな」 「なんかホッコとリしてくるでにゃあだか」


神社にやってきた俺とムサシは驚いた。 「おう。これじゃこれじゃ。この柱じゃったぞな」 「これだで。この柱だでよ~。ほんでムサシがそこに倒れたんだわ」 そこに立っている鳥居の柱はまさしく夢で見たあの柱だった。 「なるほどのう。ほんだらUFOがワンらを撃たんと消えたんはきっと鎮守の神様の神威に負けたからやろな」 鳥居の柱をもう一度じっくりと眺めてから俺達は参道の端を通り拝殿の前までやってきた。それにしてもこの空気の清々しさはどうだ。参拝にやってきた人間たちは皆このさわやかな空気に心を洗われ美しく生きる喜びをかみしめ、晴れ晴れとした気持ちで帰っていくのだろう。


賽銭箱の上から鈴を鳴らす綱に飛びつくとそこから少し登ってよさそうな高さで止まった。すると。 「エエ~」という叫び声に続いて「キャッキャ」という人間の女性の笑い声が聞こえた。それはこれからいよいよお参りという時だった。後ろを見ると人間の若い男女のペアが立っていた。女性はムサシを指さして笑い転げていたが男性は俺たちをやさしく見つめてほほ笑んでいた。


そこには悪意など全く感じなかったので俺たちはそのまま神様に感謝の気持ちを伝え、それぞれの希望を祈願することが出来た。もちろん。俺の祈りは来世での人間への生まれ変わりだった。お祈りが終わると俺たちは参道の端を通り鳥居を過ぎたところで頭を下げて礼を述べ神社を後にした。女性の笑い声はずっと響いたままだったが男性は最後まで俺たちをやさしく見守っていてくれた。


そんな優しい空間に包まれた神社を後にすると俺の心境に変化が生じていた。それはピューリタン達のことだった。犯した罪は確かに大きいものであったが考えてみればそれも、もう何百年も昔のことだ。忘れる必要など無論ないがいつまでも引きずることでもないだろう。


「何だか知らんけど、めちゃんこ心がさわやかになったがや」 「コボもそうか、拙者も一緒じゃ。しかし宗教って一体なんじゃろかのう」 「ホンマやのうムサシ。そやけど此処で心の選択ができたことは確かやのう」 ピューリタンたちを許すことができた俺たちを稲の花たちが優しく見送ってくれた。



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