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恩の仇返し

俺は腹式呼吸を始めて耳に全神経を集中した。これでダメならあきらめるしかない。

俺たちがアッと声を出したのはその直後だった。大きな黒い鳥が正面からぶつかってきて俺たちを貫通し後ろに飛び去って行った。そして横からもやはり黒く大きな鳥が俺たちを貫通して通り過ぎて行った。気がつけばガアガアギャアギャアと騒ぐカラスの大群のど真ん中に俺たちは入っていたのだ。俺の下手な操縦によってここに瞬間移動をしてしまっていたのだ。


地面ではくすぶった煙の下でカラスたちがせっせと何かをついばんでいる。俺達が近くまで下りて見たその光景は実におぞましきものだった。カラスたちがついばんでいたのは死んだ人間たちで、腕や顔が白骨化しているのもあちらこちらに見えた。カラスが潜り込んでいるのだろうモゾモゾと服が動いているのもあった。


燃え残ったテントを見てここがインデアンの集落なのがわかった。また彼らの服はプリマスで見たインデアンの服ともよく似ていた。くすぶり漂う煙をかき分けるようにして旭日丸は進んだ。 「アサやんあれは何だで」 「あれは人間が張り付けにされている十字架やな」 旭日丸は人間が張り付けられている十字架の前で止まった。俺たちに助けを求めたのは彼なのだろうか。


身体は大きくても、まだ少年のようだった。よほど酷い暴行を受けたのだろう。顔がはれ上がっている。 「磔刑だな。殺しを楽しんでいるぞな」 ムサシの言うとおりだ。あのゾンビパラサイトでも自分が生き残る手段として殺すのであって、俺たちが今見ているのは自然界には存在しないまさに悪魔の所業としか思えないものであった。


少年が何かをつぶやいているが、か細くてよく聞こえない。そこで俺達が彼の口元まで行って何とか確かめたのが《カナン》という言葉であった。この《カナン》という言葉と感謝祭には何かの関係があるに違いない。これは俺たちへの宿題だ。必ず解かねばなるまい。


[アサやん。なんとしても俺はこの少年を助けたいんだがや」 「ほんとじゃな。なんかええ方法はないじゃろか。アサやん」 「今、儂らが見ているのは夜空の星の光と同じで過去の出来事を見ているんや。そやさかい残念やけどそれは出来ひん。そやけど並行世界とかパラレルワールドというのは確かに存在するんで、もしかしてこの少年の何百人かの分身の一人が助かり生き残っている可能性がないこともないけどな。まあそれぐらいしか言えんけど」」 「ああついに死んでしまったぞな。可哀想じやったな」 少年は死んだ。俺たちはむなしくやりきれない気持ちのまま帰るしかなかった。


三  ピューリタン

俺は思わずわが耳を疑った。そりゃあそうだ。奴らのしたことは恩を仇で返すなんてものではなかったからだ。信じられないことにあのインデアン集落を襲い虐殺した悪魔はなんとあのプリマスのピューリタン達だったのだ。しかも殺されたのはピューリタンの命の恩人であるワムパノアグ族の人々だった。


集落を襲い男たちを皆殺しにし女性たちをレイプした後、子供たちと一緒に奴隷市場に売り飛ばしてしこたま儲けた。こうして金を得て土地を奪った彼らピューリタンたちは彼らの神に感謝したという。これらの事実は世界中の学者の脳に入ってアサやんが調べてきたものだ。


メイフラワー号がプリマスに到着する以前ひそかに上陸した白人たちがいた。彼らはプリマスの海岸沿いに暮らす二つのインデアン集落の近くに夜間こっそりと天然痘付き毛布を置いて帰った。自分たちが住むのに邪魔になると思ったのだろう。闇には悪魔が潜むと信じて夜には全員が眠りにつくインデアンの習慣を知っているのだ。そう言えばワムパノアグ族の集落を襲った時もテントのくすぶり状態から見てやはり夜中の犯行であったと思われる。


プリマスに到着したピューリタンたちがまず取り掛かったのは、天然痘効果と全滅したインデアンの集落から農業の種を盗むことだった。この後天罰を受け窮地に至った彼らをマサソイトは助けてしまったのだ。

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