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原爆投下

※ 夢中飛行  一  B二十九

俺達はジョージア州ウオームスプリングスのルーズベルトの別荘にお邪魔していた。時は1945年の4月12日のお昼前だ。1945年の2月4日から11日にかけてソ連のクリミア半島で行われたヤルタ会談でアジアと欧州の半分をスターリンにくれてやり、用済みとなったルーズベルトは薬を一服盛られて帰国した。


ルーズベルトが眠る寝室では医者や看護師たちが緊張した面持ちで看病を続けていたが、愛人で従妹のデイジーは大統領夫人のエレノアが姿を見せると泥棒猫よろしく雲隠れをした。ルーズベルトは他にも何人もの愛人を持っていたがその好色さが第二次大戦を大きくしさらには共産カルトを世界中に広げる要因にもなった。


俺達が大統領の脳に侵入してみると荒れ狂う暴風雨の中を銀色の爆撃機一機が絶え間なく光る雷光を跳ね返して飛び続けていた。 「おそらくB-29やろな」 この爆撃機の開発費は三十億ドルだそうで原爆の二十億ドルよりも多く,これだけで当時の日本の国家予算よりも多かった。


「日本もどえらい国と戦争したもんやなあ。それでもB29を四八五機を撃墜し、二七〇七機を損壊させたんやから頑張ったもんや。それと神風特攻隊に回天特攻、特攻艇で撃沈した総数は五十九隻で損壊したのは三八七隻やこれもすごい数やで」 相変らず勉強熱心なアサやんであった。


爆撃機の下は海だったがどこの海なのかそして何処に向かっているのか解らなかった。

「もしかしたらルーズベルトの空想上の景色かもしれんのう」 「 としたらこの機を操縦しているのは大統領自身ちゅうことじゃろか」 「なんか気味わり~でかんわ」


俺達は操縦席を覗いて見たがそこには誰もおらず機内のどこにも人の姿は見えなかった。

「これは幽霊飛行機なんだで不気味すぎてかんがや」 「なんじゃよ~わからん。じゃけんどそこの知れん邪悪な毒気が漂うておるぞな」


この機の気味の悪い正体についてあれこれと俺たちが考えをめぐらしていると人の声なのかあるいは獣の声なのか、はたまた機械音なのかよくわからない音声が操縦席の下あたりから聴こえてきた。 「なんかおるんでにゃあだか。変な声のようなものが下から聞こえてきたでよう」


その音声の発信源はすぐに見つかった。操縦席の真下。機の下顎にあたるところに大統領の巨大な顔がぺったりと張り付いていたのだ。この爆撃機はルーズベルトの変身した姿だった。 「なんかクチャクチャゆ~とるで」 「おぞましき奴め。現世であれば拙者が退治しちゃるんだが」 俺たちは巨大顔面のすぐそばによってじっくりと聞き耳を立てた。


二  ディープステート〔闇の政府〕

しぶき雨に打たれながらもニチャニチャと笑い何か絶えずしゃべっている顔がストロボ雷光に浮かび上がった。 「畜生あのロシア女め明るいところで致すのが好きとか何とか言いやがって。それにしてもホワイトハウスの中で八ミリ撮影されてたなんて思いもせなんだのう。」 ミーガケイン氏が言っていたハニートラップのことらしい。 「しかしハルもスチムソンも何で戦争に反対せなんだろうな?…え?兄弟ってか!」

「クソあれからソ連の操り人形になってアメリカを大戦争に巻き込んでしまったわい。まあその代わり選挙資金をたっぷり貰ろうて三期も大統領をやれたのはよかったがのう。それはそうとあのロシア女は上玉やったのう。出来たらもう一度お願いしたいもんじゃ。おっと東京が見えてきたわい。イッヒッヒー」


遠くに雨に滲む大都会の夜景が見えてきた。あれが東京だとして一体何をしようというのだろう。 

「黄色いサルごときが白人様に逆らうとどうなるのか思い知らせてやらねばなるまい」

「なんだしゃん。さっきからこいつの目が赤こうなっとるでよう」  「ホンマじゃのう。赤く光りだしたぞな。気味の悪い奴でおえんぞ」 「もう間もなく東京やで」


東京の上空に達するとルーズベルト機の下腹が開き大きな黒い爆弾が姿を見せた。 「リトルボーイやな」 東京はすさまじい光と爆音に包まれきのこ雲を残して全滅した。死の刹那、驚くほど赤く目を光らせて狂人は死んでいった。そしてそれと同時に寝室中の人々から一斉に悲鳴があがった。


大統領の脳から出て俺たちが見た光景は泣き叫ぶ人たちの姿だった。床に座り込み胸に十字を刻み「オーマイガー」と叫ぶ人やただただ泣いている女性もいたが、絶対口外してはならぬと大声で全員に命令している男もいた。この親共産カルトにして人種差別主義者であり偽善者の好色家が行くのはもちろん地獄しかあるまい。しかし俺たちが地獄に行くことなど有り得ないので山本同様この男と会うことは金輪際あるまい。


※ 時獄篇  一  小野篁〈オノノタカムラ〉

まだ山頂だけしか見えない遥か彼方のアルプスを目指して旭日丸は飛翔を続けた。もっともあそこに見えるアルプスは地球のもよりもはるかに高く、近くで見れば想像を絶する美しさだそうだ。 「それにしてもここはまぶしくてぬくとすぎるでにゃあだか」 「ホンマじゃのう。もっと薄暗くて寒い世界じゃと思っていたのじゃが」 てっきり年中曇天だろうと勝手にイメージしていた地獄の空だったが意外にも雲一つ見えず、抜けるような青空が広がっていた。しかしそれに比べてこの大地の荒々しさはどうだ。樹木などはめったに生えておらずたまに見かけるものといえば枯れ木か枯草ぐらいのものだ。赤茶けた荒野には大小の岩や岩石が転がっており魔物か何かが潜んでいるかのような不気味な穴ぼこがあちらこちらに見える。


(え~ところでどうして俺たちが地獄に来ているのかだって?あ~そうだった。地獄の風変わりな景色についうっかり気を取られて説明するのを忘れちまったで許してちょう。そうあれは今朝のアサやんの藪から棒のような話から始まったんだで)


「今から地獄に行って閻魔大王様を助けに行きたいんやけど、どないやろ」 これが今朝の朝寝坊アサやんのお目覚め言葉だった。 (なんた~けたこと言ってリゃあ。寝言は寝て言え。もう目が覚めとるでよ)と突っ込みを入れようとしたのだが、アサやんのマジな顔を見て俺は驚いた。ムサシにゾンビパラサイトを告白した時と同じ目をしていたのだ。ということは地獄も本当にあるということだ。俺はすっかりビビってしまった。


(そんなところに行っちまったら命がいくらあっても足りゃあせんがな。旭日丸の中にいる限りどこに行っても安全だったが、ほんだけど地獄ともなればそうもいくみゃあ。あぶにゃあ。あぶにゃあ) それでもビビりな奴だと兄弟たちに思われたくない俺は気の利いた言い訳を探していた。だけどそんな俺の気持ちを木端微塵にぶち壊してくれたのがムサシだ。


「まかせてつか~さい。例え宇宙の果てであろうとも地獄の釜の中であろうとも拙者の命はアサやんとコボに預けてあるずら。武士道とは死ぬこと見つけたりじゃけん」 (畜生。ムサシめ涼しい目えしてなんちゅうた~けたこと言~やすか) 「アサやん。そのわけを拙者とコボに詳しく聞かせてつか~さい」


アサやんはムサシの言葉に深くうなずき先ほど見たという夢の中の出来事を語りだした。なんでもムサシと対決したあの時の不思議な黄色い猫が人間の姿となってアサやんの夢枕に立ったという。その人は千二百年前はオノノタカムラという貴族だった人で百人一首でも有名な歌人でもあったらしい。その頃の彼は昼は官僚として仕事をこなし、夜になると秘密の井戸を通って地獄に通い閻魔大王様に仕えていたという伝説の持ち主でもあった。


その閻魔大王様が亡者どもの反乱にあって地獄にある楼閣のどこかに幽閉されていて早急に助け出さないと危ないのだそうだ。 「それじゃったら一刻の猶予も残っておらんぞな。アサやん今すぐ地獄に向かおうぞ」 「コボはどうなん?嫌やったらここに残っててもええで。儂とムサシだけで行ってくるさかい」 (え~そんなあ。俺一匹だけで留守番だなんて。そっちのほうがよっぽどおそがいんだで) もうこうなればしゃあにゃあ。俺は初めから賛成だったかのように笑ってあいずちを打ってやった。泣


「ときにオノノタカムラ殿はどうして猫になったのじゃろか」 アサやんもそれについて尋ねたのだが本人からのはっきりした答えはなくどうやら閻魔大王様の大事な何かを隠してしまったらしいというのがアサやんの推測だった。「閻魔大王様がお怒りになるぐらいだからよっぽど大事なものなんじゃろな」

 「 案外お酒だったりして。まあそんなことありゃせんだがよアッハッハ~」 「それもあって今の彼は地獄に行くことができずに儂らに助けを求めに来たんやろ。まあそれでもテレパシーを使えば地獄の情報も少しくらいは入るそうやからできる範囲で手助けしたいとゆうてたで。あっそうや。それとタカムラ殿が言うてたんやけど旭日丸は勾玉というものらしく中に入れるのは魂だけだそうでこれを本体と言って水防倉庫で寝ている儂らは肉体と呼ぶらしいで」


あの時ムサシと対決したのは強さを試してみる為だったがムサシよりも強い奴は人間にも動物にもお目にかかれなかったという。想像以上に強くて驚いたのだそうだ。それとあの時。ムサシの鎌は確かにタカムラ殿の目を打っていたのだそうだ。そんな訳でタカムラ殿は自分の勾玉を俺たちに使えるようにしてくれたのだ。その為ぶっちゃけ残念ではあるが地獄のミッションが済めば彼に返さなければなるまい。


二  鬼退治

「なんじゃ。あれは大男が走っているぞな」 遠くでドスンドスンと大地を揺らして走っている者がいた。俺達は近くによって観察する事にした。そいつは縞々パンツを履き二本の角をもった正統派の鬼らしい鬼で世にも恐ろしいうなり声をあげ右手に握った太い金棒を振り回しながら風を切って一直線にかけていた。


鬼の走る先を見ると大きな岩の上に人間の男たち十人ばかりが鬼に向かって奇声を発したり石なんかを投げて明らかに挑発していた。 「あの人間たちはなんしているんだで。鬼が怖くにゃあだか」 ムサシとアサやんは俺の問いには答えず黙ったまま真剣に人間と鬼との対決を見つめるばかりだった。


その時突然鬼の姿が見えなくなった。 「あれ。鬼が消えたでにゃあか。一体どうしたんだで」 「落とし穴に気ずかんかったようやな」 ススキなどの雑草で簡単に穴をふさいであるだけだったが根が単純なのと強烈な怒りで判断が鈍り仕掛けに気づかなかったようだ。その後、男たちは手慣れた様子で大小の石などで穴をふさいでしまった。 「アサやんなんで人間たちはなんであんなことをやっとりゃあすの」 「う~んどうやら鬼退治が行われているようや。こうなりゃあ一刻も早く閻魔大王様を助けに行かなまずいで」 俺たちは先を急いだ。


三  地獄の楼閣

「あれだみゃあか」 はるか遠くにピカリと光る何かが見えた。アルプス以外で光るものがあったらそれが楼閣だ。そこから目指す目的地まではあっという間で美しいアルプスもはっきり眺めることができた。近くで見た楼閣の壮観さは実に驚きだ。縦横二百メートルほどの白い円柱形の大理石の岩盤が大地から垂直に立っていてその上に五層からなる立派な楼閣がそびえ立っていた。


岩盤にはびっしりと彫刻が刻まれていて多くがインドかチベット風の仏像だ。その上に立つ楼閣もやはり同じ大理石でできており岩盤をくりぬいて造られたのだろう。俺たちは楼閣の真上に上がりそこから反対側を見下ろしてみた。「なんでやあ。こっち側は広場になっとるだで」 「立派な出入り口があるさかいこっちが表のようやな」どうやらこちらのほうが表のようで楼閣一階の中央には両開きの立派な出入り口が構えてあった。


「あの大勢の男たちは兵士じゃろな」 広場には散らばるように百人ぐらいの男たちが何をするでもなく立っていた。みな白っぽい貫頭衣を着、腰から木の棒のような物をぶら下げている。 「アサやん。あの高い所に置かれた三つの机はなんじゃろか」 「う~ン。演説だけやったら三つもいらんしな。わからんわ」 楼閣の出入口七、八歩先には岩盤をくりぬいて作られたと思われる人の高さぐらいの階段付きの台座があってその上に大きな机が置かれていた。またそこから少し離れた左右にも似たような少し小さめの台座と机があり、これらは中央の台座よりもやや前に設けられていた。そして広場でもう一つ目立ったのが楼閣出入り口の反対側、崖近くに設置されていた大きな鉄の檻で中に大きな岩が入っていた。


四 人民裁判

「全員位置につけ」 緑の軍服を着た男が号令をかけた。すると兵士たちは檻の両端から一直線に列を作り途中で直角に曲がるとそのまま楼閣の両端にまで列を届けた。 「アサやん。ありゃあなんしとるんだで?」 「何が始まるかは知らんけどこの兵列の取り囲みからは誰も逃げられんようにしているみたいやな」 「お~なんじゃ。あの軍服には見覚えがあるぞな」 やっぱり山本は来るべきところに来ていたのだ。そしてこれからここで何かが始まろうとしていた。


しばらくすると出入り口の扉が開き二人の男が広場に姿を見せた。「なるへそ。今からインチキ裁判が始まるんやな」 白いスーツの方は右側の弁護士の机に座りもう一人の黒い軍服を着た方は左側の検事の机に着席した。とその直後。出入り口に向かって「裁判長万歳」という叫び声が上がった。声の主は山本だ。するとその声に続くように兵士たちも全員が同じ言葉を繰り返して叫び始めた。 


連呼は続くが裁判長とやらはなかなか現れない。 「勿体つけてるんやろな。こういう奴は大概悪人やで。もうちょっと降りて顔をよ~くを見たろやないけ」 連呼する兵士たちの声はますます大きくなる一方だっただが、それでも姿を現さずうんざりした頃になってようやく顔を見せた。


満面の笑みを浮かべて登場した男は黄色の長い道服を引きずり、頭には珍しい帽子をかぶり右手には聖徳太子が持っていたような細長い板をにっぎていた。背は低いががっちりとした体格の髭を生やした初老の男だ。 「なんやスターリンやないけ。それとあの服は閻魔大王様のもんやろな。これはボヤボヤしとられんで」 この男はソ連の独裁者で二千万人もの罪なき人々を死に追いやった極悪人だそうだ。


「悪い事をしたら地獄に落ちるというのはホンマじゃな。じゃけんあそこにも戦争犯罪人がおるぞな」弁護士席のルーズベルトにムサシが気がつくとアサやんも苦笑いをしながら反対側の机も見ろと言う。右側の検事の席に座っている黒い軍服を着たチョビ髭男はユダヤ人大虐殺のヒットラーとかいう男だそうだ。 「何の裁判か知らんけど、これやったらまるで二十世紀超極悪頭目集会やんけ。こうなったらもう笑うしかないわ。ガッハッハ~」


四  マオ

万雷の拍手で迎えらえれたスターリンが裁判長席に座ると楼閣の出入り口で騒ぎが始まった。東洋人の大男と兵士たち数名がもめているようだ。そしてその東洋人が広場にに向かって突然走り出し、兵士たちが追いかけたがそいつは構わず広場を突っ切り檻の前で突っ立ている山本の隣に並ぶようにして立ち止まった。


「げ~あれはマオやないけ」 「アサやんこれで二十世紀極悪人の総登場なんぞな」 「いんやまだ真打がおらん。まあそのうち出てくるんとちゃうかな」  檻の前に立ったマオを見た兵士たちが戻って出入り口の扉を閉めたのはマオに逃げる気などないことが解ったからだろう。「そうかこの裁判の被告はマオなんや」 「ほんでもあの男は前世でなんやっとりゃあしたの」 「うんあの男は五千万人もの罪なき中国人民を殺したんや」

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