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座敷童の恋  作者: 櫨山黎
第二章
8/93

打算:This here ought to have been a red rose-tree, and we put a white one in by mistake.

「あー、水戸っちの絵見たんだ」


 帰り着いたら、家の前で、優将に会った。

 そこで偶然、お向かいの慧の家から出てきた里歌さんに、夕飯に誘われた。

 里歌さんは、私達を招き入れてくれた後、夕飯の買い物だ、とか言って、御菓子とジュースを用意してくれてから、慌ただしく出掛けてしまった。


 里歌さんがいてくれた方がいいな、って思ってるけど、信頼されてる感じがして、中澤家で御留守番するのは、割と好き。


 里歌さん、絶対帰って来てくれるもん。




 慧が、ジュースのグラスを渡してくれた。


 リビングのテーブルには、ジンジャエールとオレンジジュースのペットボトルがあって、ソファーでは既に優将がジンジャエールを飲みながらニュースを見ていた。


 このニュースを五分くらい見たら、同じチャンネルでバラエティが始まる。

 もうそんな時間なんだ。


「絵ぇ上手いんだよね、水戸っち。うち美術部無いんだけどさ。美術室借りたりとかして、結構描いてんだよね」


「へー」


 あの人、絵を描くわけね。


「水戸っち、展示に出してたんだね、優将」


「あー」


 話を振られた優将は、こっちを見もしないで、気の抜けた返事をした。


 一応、話は聞いてるみたいだね。


「あ、これじゃね?」


 ニュースが切り替わった。

 優将が画面を指差す。


 ホールの展示のことが、いやに明るい女性キャスターの声で紹介された。


 例の絵が、五秒間くらい、アップで出た。


「あ、これこれ!」


「へー。やっぱ上手いね水戸っち」


「んー」


 ブラウン管を通して見ると、表面が少し光っていて、青が不鮮明だった。


 その後、画面は天気予報に切り替わった。「曇りって微妙だよねー」と言いながら、慧も優将の隣に座った。


 私は、二人の向い側の床に正座して、ペットボトルから、ジンジャエールをグラスに注いだ。


「あ、そうだ茉莉花。今度水戸っちに会わない?」


「え?」


「学祭の時、水戸っち結構茉莉花気に入ったみたいなんだよね。可愛いとか言ってたよー」


「は?」


「水戸っち格好良いしさ。茉莉花絵好きだし、話合うんじゃない?」


 あの話題、まだ続いてたわけ?!

 何が悲しくて、一応『好きな人』に、屈託の無い笑顔で男を紹介されなきゃなんないの。

 そりゃ格好良いな、くらい思ったけど。


「あ、俺もタカラとか呼ぶし。茉莉花も何人か連れてきたら?来週カラオケとかって言ってたんだー。ゆーまとー、(きずな)とー、五人かな」


 慧が合コンセッティングすんの?という私の戸惑いを余所(よそ)に、慧の屈託の無い笑顔は、断れないような光を放ちだしたように思えた。


 出たな、善人オーラ。


 笑顔で返してみる。


 でも、どう考えても私は圧されていた。


 カラオケかー…。

 慧と。

 んー…。


 考え込んでると、物凄いタイミングで、瑠珠(ルージュ)から、謝りのメッセージが届いた。


 んー。凄い内容。相変わらずだね。


 瑠珠(ルージュ)は、今の名字が三つ目らしい。

 異父兄やら異母妹やらがいるらしいけど、親戚とも、なかなかの修羅場らしい。

 友達で、こういう内容を送ってくるのは、瑠珠(ルージュ)くらいかな。

 よく学生証貸してくれる(ほう)のお姉さんは、お父さんもお母さんも同じなんだって。

 だから似てるんだ、って、前、言ってた。


 謝んなくていいよー、別に。


 あ、そうだ…。


 あのさ、カラオケ行く?瑠珠(ルージュ)




 つい数時間前に、水戸さんの絵に素直に感動したのは忘れて、私は、降って湧いた合コンもどきのために、メンバー集めを始めた。


 もどき、だよね。

 彼氏探してるとかでも全然無いのに、何か断り切れなくて人数集めた、(てき)な。


 …そうだよねー、結局、断れきれなかった…ってことになるかな。

 あの笑顔を、悪魔のものだとは思いたくないけど。


 八百万の神の中に、もし『打算』の神がいるんだとしたら、その神が私に降り立ったに違いない。


 そのくらいの迅速さで、私は、瑠珠(ルージュ)日出(ひづる)と瑞月と玲那(れな)を揃えた。


 我ながら恥ずかしい。


 バチは――ちゃんと当たった。




 中澤家で夕飯を御馳走になってから、優将と一緒に、慧の家を出た。


 もう夜だ。

 当たり前だけど、すぐ家の門に着く。

 お向かいの家だもんね。


「あー…カラオケ、楽しみだね」


 声に、後ろめたさが滲むのを、隠しきれない。

 でも、後ろめたいからこそ、口に出さずにはいられなかった。


 相手は、私が慧の笑顔に負けて、合コンのメンバーを揃えるのを見ていたんだから、顔が真面(まとも)に見られないくらい後ろめたい。


「…お前さー」


 珍しく、呆れた声で優将に言われたから、ギクッとした。


(たい)して楽しみにしてないだろ」


「んっ、えー…」


 相手が普段干渉してこない分だけ、痛い指摘だった。

 多分優将には、私が慧を好きなことなんて、お見通しなんだろう。


「友達、ブス?」


 身内贔屓(みうちびいき)を差っ引いて考えても、瑠珠(ルージュ)や瑞月がブスなわけがなかった。


「皆、可愛いよ。瑞月はキレイ系。お姉さんぽいかな。瑠珠(ルージュ)は割とセクシー系」


「お前さ、その中から慧に彼女出来る可能性とか、考えないわけ?わざわざ美人の友達紹介してんの?」


 彼女?!


 あの、ボーッとした、我ながら時々、何で好きなのかな、本当に好きなのかな、って時々思ってしまう、天然さに苛々(いらいら)しないわけでもない幼なじみに、彼女?!


「…考えてなかったか」


「あー、はは…」


 声だけで力なく笑ってみた。

 あはは…。笑うしかないですわ。


「まぁ、慧が気に入るとは限らないけどね。俺は期待しとくわ。可愛い系にキレイ系お姉様にセクシー系ね。まー、馬鹿正直に、良い品揃え」


 そう言うと手をヒラヒラ振って、優将は、我が家の隣の家に入っていった。


 私は、其の姿を見送りながら、一瞬血の気が引いた。


 …私…誰かに誘われたり、頼まれたりすると、よく途中で判断力を失っちゃうんだよね。

 学祭の時が良い例だけど。




 次の朝は、あんまり眠れないまま登校した。


 朝の礼拝で寝ないといいけど、ってくらい、頭がボーッとする。


「何か元気無い?茉莉花」


「ん?いやー、別に」


 礼拝前のチャペルは、出席番号順で座る席が決まってる。

 二列ぐらい前にいる瑞月は、わざわざ体を後ろに向けて、こっらを気遣ってくれた。


「そう? 」と言いながら小首を傾げた瑞月は、やっぱり綺麗だと思った。


 瑠珠(ルージュ)は美人。

 玲那は女子力高くて可愛いと思うし、日出(ひづる)は羨ましいくらい色白。


 …私って馬鹿なんじゃない?

 これは、かなり馬鹿なんじゃない?


 チャペル向きじゃない思考で悶々(もんもん)としてたら、礼拝が始まった。




 オルガンの前奏を聞いてたら、ちょっと落ち着いてきた。


 シンプルな形の、木製の十字架が、チャペルの舞台の中心にあった。


 あ、この形って。さっき数学の授業で…。


 オルガンの音が()んだ。


「起立して、讃美歌542番を歌いましょう」


 世をこぞりて

 ほめたたえよ、

 みさかえつきせぬ

 あまつかみを。






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