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座敷童の恋  作者: 櫨山黎
第三章
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苧干原瑞月:Princess Jasmine

 慧の失策をフォローしたくて、頑張って笑ってたら、顔が貼りついたみたいに感じてきた。


 その場から離れたくて、ドリンクバーのお代わりを()いでくる役を買って出た。

 ミコチンがついてきてくれるって言ってくれた。

 二人で、トレイに乗せたグラスを、五人分ずつ運んだ。


「何か、ごめんね」


「え?」


「女の子にばっかり盛り上げさせて。慧、黙りっぱなしだもん。お前幹事だろ、ってね」


「あは…」


「まぁ、人数間違ったりするのも、慧らしいっちゃらしいんだけど。…制服で来ちゃうしね!」


 …同感。


 川口(かわぐち)()(こと)ことミコチンは、なかなか気配りが出来る人らしい。

 いかにも人の好さそうな細い垂れ目が愛敬のある、中肉中背、清潔感のある、感じのいい人だった。


「ね、どう?仲良くなれそうな子いた?」


「あは、緊張しちゃってね。まだ千伏さんと大町さんとしか話してないんだけど。結構話しやすいね」


「あ、ねー」


 そう、玲那(れな)が、意外でも何でもないけど、合コン慣れしてるっぽいんだよね。

 ぶっちゃけ助かる。


 ミコチンは、照れたように続けた。


「でも、やっぱり可愛い子多いんだね?常緑(じょうりょく)


 年頃の女子の分母が多いからかもしんないけど、私も、そう思う。

 いや、『可愛い子が多い常緑(じょうりょく)』って言われてるから、そこに合わせようとするのかな。

 こういうのも言霊(ことだま)


「んー、まぁ、特に美人コンビも誘ったしね」


「へー。そうなんだ。結構女と男じゃ『可愛い』が違うって聞くから、何か意外だったけど。今日、有難うね」


「いやいやー、あんな始まりだったけど、ちょっとでも楽しんでもらえたなら良かった」


 いや、マジで、人数が合わないのは『無い』わ。

 これから一人増えたら、どうなるのか怖いくらいだわ。




 ドリンクバーで飲み物を注いだり、コップを替えたりしていると、ミコチンは、ちょっと改まった感じで「あ、あとさ、…千伏さんって携帯持ってるかな?」と言った。


 お、玲那(れな)狙い?


 この手の裏っぽい話が出来る時点で、ミコチンが私を対象外にしてることはバレバレだけど、玲那(れな)かぁ。


 そうなんだよねー。

「女と男じゃ『可愛い』が違う」とは、よく言ったもんで、瑠珠(ルージュ)みたいなタイプより、玲那(れな)タイプの、女の子らしい、可愛い子が意外と合コン受けしたりするんだよね。


「持ってるよー。てか、持ってないの慧くらいじゃ?」


「あ、そう?タカラもなんだよね」


「あー、さっき言ってたね」


「…そっか、持ってるよね」


 ミコチンは、そう言うと、照れたように笑って、トレイを私の分も持ってくれた。


 ん、良いね。

 私に玲那(れな)の連絡先を聞かないのも気に入った。

 そうそう。自分で本人に聞くのが一番。

 その辺りのコミュニケーションも、出会いの醍醐味ってことで、頑張ってほしい。


 君に彼女が出来ますように。




 ミコチンと二人で部屋に戻りかけていると、店の入り口の自動ドアがガーッと開いて、息急き切った水戸さんがやってきた。

 今日は銀縁の眼鏡をかけてる。似合う。


 うわ、やっぱり背が高い。

 人目を引くよね、この人。


「ごめん!展覧会の片付け長引いちゃって。ここ、ホールから結構距離あるね」


「間に合って良かった。あ、小松さんは水戸っちのこと、知ってるんだっけ?」


「うん…あ、ホールの絵、見ましたよ」


「あ、ホント?…茉莉花ちゃん、久しぶり」


「…どうも、お久しぶりです」


 賛辞と挨拶の順序が逆転しちゃったけど、ホント、久しぶり。


 時々見せる表情に、何となく含むものを感じて気になるけど、相変わらず顔は良いね、水戸さん。

 優将とはタイプが相当違うけど。

 目の保養だよ。

 美形ってのは優将だと思うけど、ハンサムの称号は差し上げる。




 あ、そうだ。瑞月って、男だったら、こんな感じじゃないかな?

 顔とかじゃなくて、雰囲気ちょっと似てるかも。

 帰国子女だから?

 それとも、単にそういう人を、私が『綺麗』とか思うのかな。




 それにつけても…一応『私の好きな人』の中澤慧さん。


 今頃どうしてますやら。


 もうね、「慧に彼女出来るかも」とか、全っ然心配してないですから。


 あの状態では多分、出来ませんから。

 それどころか、見捨てたいような、切ない気持ちになってきてますから。


 ああ…しっかりしてよ。




 部屋に戻ると、まぁまぁ盛り上がっていた。

 それには単純に、救われた、と思った。


 ヒトミちゃんが、やっぱり人懐っこいというか、ムードメーカーみたいなところがあるっぽくて、かなり助かる。


「あ、お帰りー」


「飲み物有難う」


「あれ?高良は?」


「トイレー」


「あ、水戸っち」


「よっ!やっと来たねー」




 口々に思い思いの事を言う中。


 突然、瑞月が、驚愕の表情で立ち上がった。


「…エ、ミ…大空(たかひろ)?」


「ジャ…瑞月(みづき)?!」


 水戸さんも、目を見開いていた。


「え?…知り合い?」


 私の問いにも答えずに、瑞月は突然走りだし、凄い勢いで部屋から出た。


 入り口近くにいた私は、咄嗟(とっさ)に追い掛けた。


 (はや)


「…え?どうした?」


 タカラがいた。

 ちょうどトイレから帰ってきたらしい。


「ね!来て!」


「え?」


「瑞月捕まえて!」


 あんなの、いつもの瑞月じゃないもん!






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