合コン:If you can't be civil, you'd better finish the story for yourself.
慧って晴れ男だよね。
遠足もキャンプも、運動会まで、思い出す限り、一緒に何処か行く時は晴れてるんだよね。
数日続いた土砂降りが、カラリと晴れて、珍しく傘要らずの、嬉しい天気だった。
カラオケ屋の前には、早々と、女の子組が全員到着してた。
「ここで合ってるよね、待ち合わせ場所」
瑞月が、ちらりと瑠珠の方を伺いながら、私に囁いた。
白いスカートが、ここまで似合うって、羨ましい。今日は珍しく、髪を少し垂らしてて、いつもより綺麗に見えた。
「うん」
待ち合わせ時間までは、本当は、あと五分くらいは余裕がある。
ただ、瑠珠は『待たされてる』状況自体が、あんまり気に入らないみたいだった。
すぐ、そういうのを顔に出すんだよね。
いっそ気持ちが良いくらい、基本的に、そういうプライドのようなものを持ってる。
華奢なミュールと、綺麗な足のラインが、そのプライドの裏付けみたいに見える。
「瑠珠の髪の毛凄ーい」
私には見慣れた瑠珠の巻き髪が、日出には相当新鮮に見えたみたいで、頻りに感心してる。
確かに、瑠珠はコテの使い方が上手過ぎる。
玲那は、微笑んで、それを傍観しながら、手鏡を覗き込んでる。
女子力高っ。
周りが美人でも、自分の美に集中する姿勢は偉いと思ってる。
皆、私服だ。
まぁ、土曜の夕方に集合なんだから、普通はそうだよね。
――普通はそうだよね?校則とかさ?見つかったら結構面倒臭いこと、あるもんね?
なのに、今見える、あれ。
あの、向こうから歩いてくる、紺地に釦無し、紺の縫い取りの飾りに、翼のようなマークの校章が襟に付いた、珍しい学ランを着てる人。
後ろに数名引き連れてる人。
あれ、物凄く、知ってる人に似てるんですけど。
…中澤さんとこの息子さんじゃないですかね?
「あ、まりか!」
間違いないね。
中澤慧、その人でした。
「慧…。制服?」
「あ、うん。塾でテストあった帰り」
慧…。
だからって…。
私服持ってきて、上だけでも着替えるとかさ…。
カラオケに紫苑学院の学ランは、ちょっと浮くと思うんだよね。
おまけに、暑くないわけ?
もう六月も半ばですよ。
「ごめんね、まだ、こっち揃ってないんだけど」
確かに、水戸さんが、まだ来てないっぽかった。
皆が近寄ってくる。
一人、初対面の人が相手側にいるけど、他は一度見た顔だった。
ヒトミちゃんが無邪気に手を振ってきた。
私も、手を振り返す。
…やっぱり、慧以外、皆私服だ。
「あれ?」
でも…五人いる。
こっちも五人いる。
「慧、五人だよね?」
「うん。あと一人」
「でも、もう五人来てるじゃない?」
「?」
タカラが、眉間に皺を寄せて言った。
「慧…お前、もしかして、自分を数えてないんじゃないよな?」
絶句。
「あ!そうだー!」
慧!
なんてことを!
男女組み合わせで一人余るのは、言っちゃ何だけど、結構最悪だよ?!
「…水戸っち、展覧会の片付けで遅れるから先カラオケ入っといてって」
優将が、携帯の画面を見ながら、ボソリと呟いた。
…慧…そう言えば、携帯持ってない。
じゃあ、遅刻理由なんかは、幹事じゃなくて優将の方に連絡が来てるわけか。
…それは…どうなの?
自分から言い出したくせに、この失敗の数々。
…やっぱり慧、合コンのセッティング向いてないと思う。
本当に私、この人、好きなのかな、という、何度目か分からない問いが、頭の中をグルグル回る。
私の複雑な気持ちを余所に、取り敢えず、カラオケ店内に入ることになった。
二階の、ちょっと広めの部屋。
ドリンクバーを付けて、フリータイムで一応取った。
一階の受け付け付近にあるドリンクバーで、各自、飲み物を取る。
何ともぎこちない。
さー、何時間耐えられるでしょうね。
フリータイム取ったんだからね?
頑張って打ち解けてよ?
まぁ、初対面ばっかりだから、ちょっとはぎこちないもんかな、とも思うけど、正直、人数が合ってないんじゃね…。
のっけから微妙なスタートだよね。
もう、あの場に流れた『あ痛ー…』って空気、夢に見そう。
それも、悪夢で。
…あれー?客観的に見て、もしかして、慧って、『無し』?『こうあってほしい慧』と『現実の慧』のズレ、見ちゃった?
取り敢えず、バラバラに座って、お決まりの自己紹介なんかして、端と端でジャンケンして、時計回りにマイクを回すことになった。
何とか合コンらしくなってきた。
でも、右に瑠珠、左に瑞月の美人コンビに挟まれて座った慧は、ちょっと俯いて、一言も発しなかった。
慧…。
人見知り発動か、はたまた照れか。それとも、どちらかが好みなのか。
…慧ってさ、幹事じゃなかったっけ?
幹事ってさ…要するに、世話人みたいなところがあってね?
場を盛り上げたり、連絡をきちんと伝達したり、意外と面倒なこと、あるんだよね?
合コン慣れしてないのは分かるよ?
でも、このメンバー、大抵そんな感じでしょ?
でも、皆一応盛り上げようとしてくれてるよね?
しかも、言い出したくせに…それは、さすがにマズいんじゃない…?
頭の中で『幼なじみじゃなかったら無しかも』という声が鳴り響く。
やめて。
私、あの家の子になりたいんだから。
そんなことに気づきたくない。
しっかりしてなくて、ぽわっとしてるけど、優しいんだよね?慧は。