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座敷童の恋  作者: 櫨山黎
第三章
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合コン:If you can't be civil, you'd better finish the story for yourself.

 慧って晴れ男だよね。


 遠足もキャンプも、運動会まで、思い出す限り、一緒に何処か行く時は晴れてるんだよね。


 数日続いた土砂降りが、カラリと晴れて、珍しく傘要らずの、嬉しい天気だった。




 カラオケ屋の前には、早々(はやばや)と、女の子組が全員到着してた。


「ここで合ってるよね、待ち合わせ場所」


 瑞月が、ちらりと瑠珠(ルージュ)の方を伺いながら、私に囁いた。

 白いスカートが、ここまで似合うって、羨ましい。今日は珍しく、髪を少し垂らしてて、いつもより綺麗に見えた。


「うん」


 待ち合わせ時間までは、本当は、あと五分くらいは余裕がある。


 ただ、瑠珠(ルージュ)は『待たされてる』状況自体が、あんまり気に入らないみたいだった。


 すぐ、そういうのを顔に出すんだよね。

 いっそ気持ちが良いくらい、基本的に、そういうプライドのようなものを持ってる。

 華奢なミュールと、綺麗な足のラインが、そのプライドの裏付けみたいに見える。


瑠珠(ルージュ)の髪の毛凄ーい」


 私には見慣れた瑠珠(ルージュ)の巻き髪が、日出(ひづる)には相当新鮮に見えたみたいで、(しき)りに感心してる。


 確かに、瑠珠(ルージュ)はコテの使い方が上手過ぎる。


 玲那(れな)は、微笑んで、それを傍観しながら、手鏡を覗き込んでる。

 女子力高っ。

 周りが美人でも、自分の美に集中する姿勢は偉いと思ってる。




 皆、私服だ。


 まぁ、土曜の夕方に集合なんだから、普通はそうだよね。

 ――普通はそうだよね?校則とかさ?見つかったら結構面倒臭いこと、あるもんね?


 なのに、今見える、あれ。


 あの、向こうから歩いてくる、紺地に(ボタン)無し、紺の縫い取りの飾りに、翼のようなマークの校章が襟に付いた、珍しい学ランを着てる人。

 後ろに数名引き連れてる人。


 あれ、物凄く、知ってる人に似てるんですけど。


 …中澤さんとこの息子さんじゃないですかね?


「あ、まりか!」


 間違いないね。

 中澤慧、その人でした。


「慧…。制服?」


「あ、うん。塾でテストあった帰り」


 慧…。

 だからって…。

 私服持ってきて、上だけでも着替えるとかさ…。


 カラオケに紫苑学院(しおんがくいん)の学ランは、ちょっと浮くと思うんだよね。

 おまけに、暑くないわけ?

 もう六月も半ばですよ。


「ごめんね、まだ、こっち揃ってないんだけど」


 確かに、水戸さんが、まだ来てないっぽかった。

 皆が近寄ってくる。

 一人、初対面の人が相手側にいるけど、他は一度見た顔だった。


 ヒトミちゃんが無邪気に手を振ってきた。

 私も、手を振り返す。


 …やっぱり、慧以外、皆私服だ。


「あれ?」


 でも…五人いる。

 こっちも五人いる。


「慧、五人だよね?」


「うん。あと一人」


「でも、もう五人来てるじゃない?」


「?」


 タカラが、眉間に皺を寄せて言った。


「慧…お前、もしかして、自分を数えてないんじゃないよな?」




 絶句。




「あ!そうだー!」


 慧!

 なんてことを!

 男女組み合わせで一人余るのは、言っちゃ何だけど、結構最悪だよ?!


「…水戸っち、展覧会の片付けで遅れるから先カラオケ入っといてって」


 優将が、携帯の画面を見ながら、ボソリと呟いた。


 …慧…そう言えば、携帯持ってない。


 じゃあ、遅刻理由なんかは、幹事じゃなくて優将の(ほう)に連絡が来てるわけか。

 …それは…どうなの?


 自分から言い出したくせに、この失敗の数々。


 …やっぱり慧、合コンのセッティング向いてないと思う。


 本当に私、この人、好きなのかな、という、何度目か分からない問いが、頭の中をグルグル回る。




 私の複雑な気持ちを余所(よそ)に、取り敢えず、カラオケ店内に入ることになった。


 二階の、ちょっと広めの部屋。

 ドリンクバーを付けて、フリータイムで一応取った。

 一階の受け付け付近にあるドリンクバーで、各自、飲み物を取る。


 何ともぎこちない。


 さー、何時間耐えられるでしょうね。

 フリータイム取ったんだからね?

 頑張って打ち解けてよ?


 まぁ、初対面ばっかりだから、ちょっとはぎこちないもんかな、とも思うけど、正直、人数が合ってないんじゃね…。

 のっけから微妙なスタートだよね。


 もう、あの場に流れた『あ(いた)ー…』って空気、夢に見そう。

 それも、悪夢で。


 …あれー?客観的に見て、もしかして、慧って、『無し』?『こうあってほしい慧』と『現実の慧』のズレ、見ちゃった?




 取り敢えず、バラバラに座って、お決まりの自己紹介なんかして、端と端でジャンケンして、時計回りにマイクを回すことになった。


 何とか合コンらしくなってきた。


 でも、右に瑠珠(ルージュ)、左に瑞月の美人コンビに挟まれて座った慧は、ちょっと俯いて、一言も発しなかった。


 慧…。

 人見知り発動か、はたまた照れか。それとも、どちらかが好みなのか。


 …慧ってさ、幹事じゃなかったっけ?


 幹事ってさ…要するに、世話人みたいなところがあってね?

 場を盛り上げたり、連絡をきちんと伝達したり、意外と面倒なこと、あるんだよね?


 合コン慣れしてないのは分かるよ?

 でも、このメンバー、大抵そんな感じでしょ?

 でも、皆一応盛り上げようとしてくれてるよね?


 しかも、言い出したくせに…それは、さすがにマズいんじゃない…?




 頭の中で『幼なじみじゃなかったら無しかも』という声が鳴り響く。




 やめて。


 私、あの家の子になりたいんだから。

 そんなことに気づきたくない。


 しっかりしてなくて、ぽわっとしてるけど、優しいんだよね?慧は。






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