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アイ・アム・トリックスター  作者: 山野井 テリー
9/9

トモダチ


「それじゃあレッツデート!」


「……うえっ」


ジュリアに引きずるようにして連れてこられた永作は吐き気を堪えていた。

ご機嫌なジュリアの隣で永作の顔は少し青く、足取りもフラフラとしている。

が、それに構うことなくジュリアは永作の右腕に抱き着いた。


「へあっ!?」


突然の出来事に驚いた永作は、その衝撃で先程まで感じていた気持ちの悪さが何処かへと吹っ飛んだ。

そして、永作の顔色はみるみる内に青から赤へと変わっていく。


「ジュリアさんっ!?」


「ん〜?」


肝心のジュリアは至って澄ました顔で居ており、永作と腕を組んでいる事に対して特に気にした様子は無かった。


「いや、あの、これ……」


周りの通行人……特に男衆からは白い目で見られるこの現状。

リア充滅びろ、と怨む側だった自分がまさか怨まれる側に回る事になるとは想像すらしていなかった永作にとって、この現状は胃が痛くなる物だった。


「ふふ……デートなんだからこれくらいは普通でしょ?もしかして永作くんって……女性経験無いの?」


「ありませんよ!悪かったですね無くて!俺は非モテの天涯独身のもやしっ子ですよ!」


そして当然チェリーボーイだ。

尤もそんな事は口が裂けても言う気は本人には無い。


「へぇ……そっかぁ……」


永作の言葉を聞いたジュリアは薄らと微笑むと、組んでいる腕に更に力を込めた。


「ジュリアさんっ!?」


「それじゃあ……私が永作くんの“初めて”の相手になるんだね♪」


びくん、と反応した永作を見てジュリアは更に悪戯っぽく笑みを強くする。


「な、なんでそんな言い方するんですかっ!絶対俺の反応見て楽しんでますよねっ!?遊んでますよねっ!?」


「え〜?別に初めてのデート相手だよね?って事なんだけれど……ひょっとして別の意味に聞こえてた……?」


しまった墓穴を掘った。

気付いた時にはもう遅い。

いつの間にか永作の胸の上にはジュリアの手が置かれている。

慌ててジュリアの方へ目を向けると、思いきり至近距離で彼女と目が合った。


「……すごくドキドキしてるね?」


「っ!」


目を逸らそうとしても、何故か体が固まって言うことを聞かない。


「綺麗な目…夜空の様に黒くて思わず吸い込まれそう」


更にジュリアの顔が近付いて来る。

このままでは不味い……自分がおかしくなってしまう。

女性経験皆無の永作にとって、遠慮なく仕掛けてくるジュリアはまさに天敵だ。

今この場にデュークはいない、つまり攻めに出たジュリアを止められる者はここに存在していなかった。


(踏みとどまれ!俺の理性ぃ!!)


「およ?」


気が付けば、組んでいた腕はいつの間にか解かれていて、ジュリアの両肩には永作の手が置かれていた。


「ジュリアさん!!服!!服買いに行きましょう!!」


「へ!?あ、うん」


「よし!!」


まさか女性経験皆無の男に、攻めを耐えられてしまうとは思っていなかったジュリアは、思わず面食らう。

一気にペースを元に戻され、その驚きから少しの間だけ呆けてしまっていた。


「……やるじゃない。今のは完璧に飲み込めたと思ったんだけどなぁ〜」


「よしてくださいよ!心臓に悪い……」


「……嫌だった?」


そう尋ねてきたジュリアの目は、少しだけ不安そうに潤んでいた。

それを見た永作は思わず、ずるい、と思ってしまう。


「……嫌では無いですよ。ただ……その……やっぱり照れますよ…ジュリアさんは美人っていう自覚を持つべきです」


照れたようにそう言う永作に、思わずジュリアは吹き出してしまった。


「ふふ…変なの♪大丈夫よ、ちゃんと自覚はあるから♪」


「はぁ……だったらちゃんと__」


慎みを持ってください、そう言おうとした永作の耳元にジュリアは顔を近付けた。


「だから…こんな事するのは永作くんだけだから……ね?」


「っ!?」


そう囁かれて思わず顔をジュリアの方へと向けた永作が見たのは、悪戯が成功した時の子供のように、無邪気な笑みを浮かべたジュリアの姿だった。


(……本当にずるいなこの人!)


不覚にもときめいてしまった自分がいる。

本当にこの女神様は……たちが悪い。


「あぁーもう!行きますよ!」


「あ、待って!はい!」


「……?」


先へ急ごうとしてジュリアに止められ、永作が振り返るとジュリアは永作に向かって手を差し出していた。


「……なんです?」


「手ぐらい……繋いでくれても良いんじゃない?」


そう言って、少しだけ上目遣いで見つめてくるジュリアのせいで永作は、自分の心臓が撃ち抜かれたかのような衝撃に襲われた。

永作は胸を抑えたくなるのをぐっと堪え、力強くジュリアの手を引いた。


「分かりましたよ!さぁ、ほら、行きますよ!」


「は〜い♪」


今度は永作がジュリアを引いて連れて行く番になった。

しかし、ジュリアは嬉しそうにしてか弱い永作の成されるがままにされている。


「あ、そこ右に曲がってね!」


「はいはい」


永作に道を教えながら、だが。


「ねぇ、永作くん……こっちの世界は楽しい?元の世界に戻りたい?」


その道案内のついでに、ジュリアから永作に話し掛けた。


「それと同じことをデュークにも聞かれましたよ」


思い出すのはあの日の晩のこと。

自分が新たな決心をする事が出来た大切な日だ。


「ふぅん……あのバカにね〜……それで永作くんはどうおもってるの?」


「別に特別戻りたいとかは考えていませんよ。それに…」


「……それに?」


歩きながら振り返った永作は真っ直ぐにジュリアの目を見た。


「約束したんです。デュークと……一緒に思う存分この世界で生きてやろうって。デュークは俺の人生で初めて……俺と共に並んで……進んで行こうって手を差し伸べてくれた恩人なんです。あいつが俺のことどう思ってるのかは分からないけど……俺は……」


「……どう思ってるの?」


少しだけ言葉を出し惜しんた永作に、ジュリアは再び尋ねた。

そのお陰か永作は再び口を開く。


「俺はあいつの事を……俺のたった一人の大切な友達なんだと思ってます」


「へぇ……友達、ねぇ」


「はい。だからジュリアさん」


「ん?」


「あまりデュークの事をバカだとか……そんな悪口は言って欲しくないです。貴女の事を…嫌いになってしまうから……」


その瞬間、永作は凄まじい力でジュリアに引っ張られた。

片手で頭を捕まれ、無理矢理目線を真正面にもってこられる。


「余り出過ぎた事は言うべきじゃないわ……永作くんより私は長い事デューク・ゾディアークという存在と関わってきたのよ?まだ出会って数日程度の若造が……少し調子に乗ってるんじゃない?」


その目は冷たかった。

先程までのジュリアとはまるで別人と思える程に、冷えきったその目に永作は思わず身震いする。

目を逸らそうとしても、それは許されないだろうと言うくらいに、静かなプレッシャーがジュリアから放たれていた。


「……でも貴女はデュークとは決して“対等”では無かった」


「……なによそれ」


「俺には何となく分かるんです。どれだけ昔からの顔見知りだったとしても……対等で無ければ得られない物だってある。デュークは多分……今まで寂しかったんじゃ無いかって」


「寂しい?……あのデュークが?……永作くんはデュークの事を知らなさすぎるようね……まるでどういう人間か分かっていないわ」


永作を解放したジュリアは更に言葉を続ける。


「一言で言えばデューク・ゾディアークは気分屋よ。その時の気分次第で救われる者もいれば、逆に死に行く者も生まれる。その圧倒的な力は一度振るわれれば、何者も為す術なく飲み込まれ……最後には何も残らない。危険なのよ……彼は」


この世界を創造した神の一人が、デューク・ゾディアークという存在をそう評価しているという事実。

だが、永作にとってそれは関係の無い事だった。


「俺はそうは思いません」


「……ん?」


迷いなく永作から出てきたその言葉に、シリアス感を放っていたジュリアも思わずきょとん、として首を傾げてしまった。


「俺の思うデュークは……多分世界一強くて、何か色々と凄くて、頼り甲斐があって、話せば意外と面白いし、ノリも良いやつで、口数は少ないし感情表現なんて結構薄いけど、多分割と多感だと思うし、ヘビースモーカーなのは欠点だし、色々とやらかしたような話も聞くけど、根っからの悪人には見えないし、決して力に物を言わせるような人間じゃない。俺はあいつの事をそう思ってます」


「……あれ?」


何かべた褒めし始めた…それも早口で。


「何かマフィアみたいな風貌ですけど、俺は個人的に格好良いって思ってるし、魔力は無いけど剣の腕前だけで世界一って男心擽られるような浪漫は正直憧れで、それから……」


「ス、ストップ!!」


放っておけば永遠と語り続けそうな勢いだった永作に、慌ててジュリアは中断させに入った。


「む!何で止めるんですか!まだまだ俺の思いはこんなもんじゃないんですよ?」


「うん……もう充分伝わってるわ」


「そうですか?」


「えぇ…」


不満そうな顔をする永作に、流石のジュリアもこれには呆れて溜息が出た。


「あーあ……もう……ふふっ」


「?」


いつの間にか先程までの重々しい雰囲気は消えており、ジュリアは頭を軽く抑えながら、笑い出した。


「あははは!……あぁもう、折角シリアスな感じで言ったのに台無しよ!永作くんのバカ!」


「えぇ……何が可笑しいんですか……」


「可笑しいわよ。こんなちゃんちゃら可笑しい事なんて……今世紀最大の出来事よ!もうっ」


そう言うとジュリアは永作に近付き、おでこに軽くでこぴんを放った。


「あたっ!」


とは言え言うほど痛くはなかった。


「ほんと私相手に物怖じせずに言いたい事だけ言ってくれるって所は……永作くんもデュークも同じね。全く……ある意味お似合いのコンビよ」


「え?あ……それはどうも?」


多分褒められてるのだろうか。

よく分からないが取り敢えずお礼を言っておく。


「はい!どう致しまして!仕方ないからそれに免じて永作くんの言う通り、デュークの悪口はもう辞めるわ……本人の前以外では……ね?」


「はぁ……まぁそれぐらいなら…」


陰口よりはマシか。

そう思いながら納得する永作の前で、ひとしきり笑って吐き出したジュリアは息を整えていた。


「ふぅ……気が変わったわ。永作くんへの服を買うのはもうやめ!」


「えぇ!?」


そりゃあんまりだ!

と、言いたげな永作を黙らせるかのように、ジュリアは永作に向けてびしっと指を指した。


「その代わり……もっと凄いものをあげるわ」


「凄いもの?」


「ふふっ……明日のお楽しみよ♪」


そう言うとジュリアは今すぐにでもスキップをし始めるんじゃ無いかと言う位にご機嫌な足取りで歩き出す。


「ちょ、待ってくださいよ!置いてかないでください!帰り道が分からないんですってば!」


慌てて小走りでジュリアの後を着いていく永作を横目に見ながら、ジュリアは心の底から楽しそうに笑っていた。

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