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アイ・アム・トリックスター  作者: 山野井 テリー
8/9

お誘い

扁桃腺炎でぶっ倒れておりました。

あれはかなりキツイ……気をつけよう!


女神の挑戦状。

それを受けて立ち、見事に勝利を掴み取ってみせた永作だったが、その一戦は非公式扱いとなった。

その場にいた者達と、天界でも極一部の神々しかその出来事を知る者はいない。

そんな勝負が行われていた事はこの世界にすら、一つとしてその痕跡は残されていなかった。


「まぁ……そうなるでしょうねぇ……」


次の日になって、ようやく意識を取り戻したコッコペリーノは一部始終を永作から聞き、そのように呟いた。


「やっぱりですか」


「えぇ。こんな情報が他に漏れでもしたら……世界ではとんでもない大騒ぎになってしまいますよ……」


ただでさえデュークとの一件で大騒ぎになっており、まだまだ騒ぎは沈静化されていないのだ。

意味は違えど、火に油を注ぐと表現しても良い程に今回の一件は一大事件その物だった。


「あぁ……」


コッコペリーノは腹部を軽く抑える。

非公式扱いとは言えあった事は事実。

それも、天界でも知る者は極一部とは言え、その内の誰もが名だたる神々なのだ。

……間違いなく永作、及びギルド【ゴールドライン】その物が大物達に注視されている筈。


それを考えるだけで胃がキリキリと痛み出すのだ。

……そろそろ胃薬を取り寄せておいた方が良いのかもしれない。


「…なんかその……ごめんなさい」


いたたまれない気持ちになった永作はコッコペリーノに謝る。

が、コッコペリーノは首を横に振った。


「これは永作さんのせいじゃありませんよ。それに……どちらかと言えば私にとって現状は良いことでしかないですし……」


「そうなんですか?」


「はい。世界最強の戦力の加入に、創世神様を始め神々に興味を持っていただけ、各貴族、ギルドからも良い内容のお手紙を頂けております……が」


「……が?」


「一度に…一気に色々とあり過ぎて……ちょっと対応しきれていない……というのがその……」


「な、なるほど……」


要するに、有難い事に代わりは無いが、過剰とまで言える幸運が逆にコッコペリーノの胃を痛める結果になってしまっている、ということらしい。


「まぁそれはそうとしまして……永作さん」


「はい」


話題を変え、そろそろ本題に入ろうとしたコッコペリーノは永作の後ろの方へと視線を向けた。


「……何故ここに…アルフディ…ジュリアさんがいらっしゃるんですか……っ!?」


そこにはソファに寝転がりながら雑誌を読んでいる、創世神アルフディネアこと、そのアルフディネアが変装したジュリアがいた。


「……さぁ?何ででしょうね?」


「お邪魔してま〜す♪」


首を傾げる永作に続いて呑気に挨拶をするジュリア。

コッコペリーノの胃痛はまた一段と強くなった。

それでもコッコペリーノは鋼の精神で立ち上がる。


「えーと……ジュリアさん?」


「ん〜?どうかした?」


「あのぉ…天界にお戻りにならなくて大丈夫ですか…?」


「うんうん。言いたいことは分かるわコッコちゃん」


ジュリアは開いていた雑誌をパタンと閉じた。


「みんな勘違いしてるんだけれどね、創世神って結局やる事は無くてぶっちゃけると暇なのよ」


「ひ、暇ですか……」


僅かにコッコペリーノの顔は引きつっていた。


「そう♪面倒な仕事はみ〜んな従属神達に丸投げしてるからね…私がこっそり抜け出してここに来てもな〜んにも問題ないのよ♪」


いい加減だなぁ創世神。


「だ・か・ら……」


半ば呆れたようにぼーっとしていた永作の両肩に、ジュリアは強く揉むようにして手を置いた。


「わっ!?」


当然ながらその突然の行動に永作は驚く。

が、ジュリアはにこにこ笑いながら遠慮無しに続けた。


「お姉さんと遊んで欲しいなぁ〜…永作くん♪」


「へ?」


間抜けな声が思わず出た永作。

それを聞いた瞬間から既にコッコペリーノは凍りついたように動かなくなっていた。


「へ?……って酷いなぁ〜…あんなに熱い事して……永作くんに分からされて……それなのに私の事を考えてくれてなかったなんて……しくしく」


「何っ!?何ですかその言い方は!?変な誤解されるような言い方しないでくださいよっ!?」


白々しく嘘泣きを始めたジュリアに永作はあたふたとしながらも、突っ込みを入れていく。

しかしジュリアはにやりと笑みを浮かべて、永作の肩を揉む。


「へぇ〜……変な誤解って…どういった事を言ってるのかなぁ?お姉さんちょっと分からないから……教えて欲しいなぁ♪」


「えぇっ!?それは……その……だから、あれですよ…」


「ふふ……あれってなぁ〜に?」


助けを求めるかのようにコッコペリーノの方へ視線を向けるが、コッコペリーノは固まったまま動かない。

……駄目だまるで頼りにならないぞ。


永作はこういった揶揄いにはまるで慣れてないのだが、それを見透かしているかのようにジュリアは遠慮なく攻めてくる。

……が、意外にも早く永作に救いの手は差し伸べられた。


「……何をしているバカ女神」


「痛っ!?」


突如としてジュリアの脳天に直撃した拳骨。

相当痛かったのだろう…涙目になりながらジュリアが振り返ると、そこにはデュークが青筋を浮かべながら立っていた。


「俺の相棒を……揶揄うのはやめて貰おうか……お前はたちが悪いからな……」


「よくもやってくれたわね……バカデューク!」


頭を抑えながらデュークを睨みつけるジュリア。

そのジュリアを無言で、今度は無表情で見続けるデューク。

周囲の温度が下がるような錯覚を覚え、このままでは良くないと悟った永作は慌てて二人の間に割って入った。


「ま、まぁまぁその辺で!……それで、ジュリアさん?本当に何の用があってここに来られてるんですか?」


永作の問いに、ジュリアは一息吐き感情を落ち着かせてから答える。


「ふぅ……。さっきも言ったように永作くんと遊びたくて来たのよ」


「俺と……?」


「……むぅ」


ジュリアの言葉に永作は首を傾げ、デュークはジュリアを怪しむかのように短く唸る。


「本当よ?…ほら、例の件で私、永作くんの大切な一張羅を破いてしまったでしょう?」


「……あ、そういえば」


言われて永作は思い出し、ズボンの右ポケットに視線を落とした。

清掃(クリーン)】という魔法で常に清潔な状態を保ってはいるが、この世界で永作が所持している服装は、元の世界からこちらへ来る時に身につけていた半袖と長ズボンだけ。


いつも同じ服装に加え、おまけにポケットが破けたズボンのままではいくら清潔な状態と言えど、見栄えは悪かった。


「だから代わりの物を弁償しなくちゃいけないでしょ?折角だから何着かプレゼントしようかな〜って思ってるのと……そのついでに…」


「……ついでに?」


「永作くんとデートしてみたいなぁ……って♪」


「デ、デートっ!?」


楽しそうに言ってのけたジュリアに対し、永作と硬直状態から解放されたコッコペリーノは同時に叫んだ。


「ア、ア、アルフディネア様ぁっ!?デ、デデデ……デートですかあっ!?永作さんとっ!?」


「えぇ、そうよ♪それと、今の私はジュリア・フィーネスだからね?」


一部始終を静観し見守っていたデュークはこめかみを軽く押さえた。


「………何を企んでいる?普段のお前からでは…出てくるような言葉とは……到底思えないような発言だぞ……?」


「別に何も企んでないわよ?」


「………」


穏やかに微笑むジュリアの表情からは何も読み取れない。

本当に何も企んでない可能性もあるが、どうにも胡散臭く感じたデュークは視線を永作の方へと向けた。


「……どうするんだ?」


別にこれは創世神の命令や試練といった重苦しいものでは無い。

あくまでジュリアという一般人からのデートのお誘いだ。

結局の所、永作がやりたくなければただそのように言えば良いのだ。

そもそも考えるだけ頭を痛めるだけだと判断したデュークは、永作に全て決めさせることにした。


「そうだなぁ……まぁ確かに服が欲しい、とは思っていたし…。それに折角のお誘いです。大した理由も無く断るのも失礼ですから、俺で良ければ是非よろしくお願いします」


「うんうん♪流石永作くん!私が認めただけはあるわね♪」


「………一番最初に認めたのは俺だ」


永作はジュリアの誘いに乗った。

機嫌良く語るジュリアに対抗心を燃やしたか、デュークが本当に呟くような小さな声で張り合うが、その声を聞けた者は残念ながらこの場にはいなかった。


「さて!それじゃあ決まった事だし……早速行きましょうか♪」


「え?」


ジュリアは永作の右手首をがしっと掴んだ。

……何かこの展開既視感あるんだけど。

というか力強っ!?流石は創世神様って事っ!?


「永作くん借りてくね♪」


「ジュ、ジュリアさんっ!?」


コッコペリーノが引き留める間もなく、ジュリアは永作を引っ張ってあっという間に何処かへと走り去って行く。


「やっぱりこうなる展開かよぉぉぉぉぉぉっ!?」


異世界に来て三度目、ジュリアに拉致られていく永作は叫び声を上げながらジュリアと共に、何処かへと去って行った。


その場に残されたコッコペリーノは唖然として口を開いたままの状態で、ぽかんと突っ立っている。


「……奴が絡む以上……今後も似たような事が起こるだろうが………慣れろ」


デュークはそんなコッコペリーノに肩に手を置き、同情するような目で語りかけた。

コッコペリーノはデュークの方へと振り向く。


「デュークさん……無理ですよ………慣れれませぇぇん!!」


そう言い放つとコッコペリーノは腹部を押さえ、何処かへと物凄い速さで走り去って行った。

……胃薬でも買いに行ったのだろうか。

一人その場に残されたデュークは溜息を吐いた。


「……永作は………中々俺を退屈にはさせてくれないな……」


そのままベランダに出たデュークは煙草を取り出し、愛用のライターを取り出し、透き通るようなライターの蓋の開閉時の金属音を鳴らして火をつける。


「あ!アニキ!!」


そこには先客がいたようで、アルセーヌはデュークの姿を見つけた途端、近寄って来た。


「……ふぅ。……何だ?その……アニキというのは…?」


確か前まではデューくんと呼んできていた筈だったが…。

別に自身の呼び名に対して関心は無いが、それでも突然の変わり様には少しだけ興味が沸き、訊ねてみた。


「ふふーん!創世神様を前にしても全く引くことのなかった精神力、そして最後までアニキは永ちゃんが負けるなんて思ってなかったパートナーへのその信頼!あたしもコペりんとコンビを組んでる身として、その姿勢は尊敬に値するんだよ!」


「……尊敬か」


確かに永作の事は信頼している。

自信を唯一負かすことの出来た”強者”として。

そしてアルフディネアに対しては引く理由などある訳が無かった。

だがそうか……アルセーヌから見ればあの時の自分はそのように見えていた訳か。


「そのとーり!だからあたしはこれからはデューくんの事を!敬意を表してアニキと呼ぶよ!」


「……好きにすると良い」


もう一度言うが、デュークは自身の呼び名に対して全く関心は無い。

一々口を出すのも面倒に感じたデュークは結局、アルセーヌの好きなように呼ばせておくことにした。


「ところでアニキ?」


「…………なんだ?」


「永ちゃんは連れ去られて、コペりんはどっかに出掛けて行ったんだけど何があったの?」


「……面倒ごとだ。……二人とも遅くまで帰って来ないと思うぞ」


「そうなんだ…」


デュークは根元まで短くなった煙草の火を消した。


「……どうせなら……俺達も出掛けるとするか」


「え?」


突然のデュークの放った言葉にアルセーヌは少し驚いた。


「………一応は俺は……お前の兄貴分なんだろう?……だったら昼飯ぐらい奢らんと格好がつかんだろう……」


「!」


「嫌ならそれで構わないが…………来るか?」


まさかの食事の誘いだ。

意味を理解した瞬間、アルセーヌは無邪気に楽しそうな笑顔を顔いっぱいに広げた。


「行く!行く!」


「…………ふん」


さらに敢えてもう一度だけ言うがデューク・ゾディアークにとって自身の呼び名等、実にどうでも良い事であった。

……しかしながら、ただ純粋に兄貴と慕われる事に関しては無関心という訳でも無く、実はちょっとだけ嬉しかったりするのだが……。


「……こういうのも……悪くは無いな…」


……その真相は本人のみぞ知る所であった。

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