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アイ・アム・トリックスター  作者: 山野井 テリー
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女神の挑戦状②


遥か太古の昔。

この世界は三人の創世神によって作り出された。


世界その物を創り出したアルフディネア。

創られた世界に魔力と呼ばれるエネルギーの基礎を生み出し、全域に巡らせたアルティミア。

その世界に、自分達以外のありとあらゆる生命を誕生させたアエラセーナ。


三人の女神は世界の創造に満足し終えると、各々が各々の力で従属神を生み出し、世界の管理を従属神に任せ、天界で世界の観察を初めた。


世界創造から一切顔を合わせる事の無かった創世神達は、次第に退屈を覚え始め、いつしか生み出した世界に興味を持たなくなってしまっていた。


だがアルフディネアは他の二人と比べて、この世界の事をよく見ていた。

時には地上に直接舞い降りたりもした。

そうする事で彼女はデューク・ゾディアークという名の人間と出会う事が出来たのだ。


そして、直にデューク・ゾディアークの力の一端を見て、彼に敵う者などこの世に存在しえないという結論に至り、いつしか彼は“刀神”と呼ばれるようになった。

……故にその知らせを聞いた時、アルフディネアは大きく興味を持った。


___世界最強が負かされた。

しかも歴代最弱、それ所か世界最弱とまで呼ばれた勇者に__だ。


「一体どういうカラクリなのかしらね?」


その答えはすぐに分かった。

マジックと呼ばれる魔力を持たずして、魔法のような事を体現する技術、芸。

勇者が扱う独特な特技によって、デューク自身が敗北を認め、その勇者を対等な存在と認めると共にコンビを組むまでに至った。


「……山田永作…」


何者も立ち入る事は許されぬ天界のとある領域で、アルフディネアはその勇者の名を呟いた。


「面白い……」


退屈極まるこの世界で、もしかしたら……山田永作ならば自分を満たしてくれるかもしれない。

もしかしたら絶対的神たる己が、ただの人間に敗北を喫する事が出来るのかもしれない。


ただの負けを望むなら、あの腹立たしいバカデュークとタイマンで殺し合いをすれば良い。

憎たらしい事だがデュークはアルフディネアよりも強い。

しかし、アルフディネアが求める敗北とはそういう話しでは無いのだ。

自分が絶対負ける相手に挑んで負けるのでは無く、自分が絶対勝てる相手に負ける事にこそ意味があるのだ。


その敗北は果たして何か物足りなく思う自分を満たす物なのか、それとも違うのか。

それを確かめる方法はもはや一つだけだった。


「……会いに行こうじゃない。山田永作くん」


思い立ったが吉日。

即座に行動を初めたアルフディネアは、名をジュリア・フィーネスと偽り、地上へと舞い降りた。



そして現在自分は山田永作の前に、創世神アルフディネアとして立っている。

待ち望んだ最高の形で、彼と対面していた。


「さぁ…試練に打ち勝ってみせなさい。永作くん」


「えぇ……」


なんだか一気に状況が大事になったせいで、デュークの件もあり、うんざりする永作にコッコペリーノは慌てて口を開いた。


「永作さんっ!創世神様自らより試練が与えられるなんて事は前代未聞なんですよ!?……もしそれを断りでもしたのなら……」


「したのなら……?」


言葉をとぎったコッコペリーノに、永作は続きを促す。


「創世神様のお顔に泥を塗ったとして……天界、人界の全勢力に裁かれる事になります……!!」


まじかよ…創世神やべーな。


「安心しろ」


だが、デュークが助け舟を出す。


「そんな巫山戯た理由で……俺の相棒を死なせはせん………全員返り討ちにしてやる……」


出来るの!?


と、言いかけた永作だったがデュークの言葉を聞いて、アルフディネアの顔が一瞬だけ強ばったのを見逃さなかった。

……恐らくデュークならそれが出来るという事なのだろう。

今更だが、とんでもない大物とコンビを組んでしまったと永作はそう思った。


それに、いくらコンビとは言えデュークと永作が出会ってからまだ日は浅い。

だと言うのに何故デュークはそこまで自分の為にしてくらるのだろうか?

一体自分の何がデュークにそこまでさせるのだろうか?


「……それで永作くん。この勝負……受けてくれるの?」


他の余計な事を考える時間はどうやら後回しらしい。

まずは目の前にある問題から取り掛かるべきだ。

永作はアルフディネアに向けて答えを返した。


「勿論……受けて立ちますよ!ここで引いたら……」


「……?」


永作はデュークの方へ顔を向け、その意図を掴めないデュークははてなを浮かべた。


「……デュークの相棒としては随分と……不細工(ださ)くなってしまいますんでね」


「!」


後は自分の意地だ。

だが、永作のその言葉を聞いたデュークは僅かながらだが嬉しそうであった。


「ふふ……そうこなくっちゃ面白くないものね」


「どうも…」


受けて立つ。

永作が自分の望む返答を返してきた事に、アルフディネアは口角を上げ機嫌を良くした。


アルセーヌとコッコペリーノは顔を伏せたままなので二人の表情を見る事が出来ない。

だからこそデュークだけが永作もアルフディネアと同じく口角を上げている事に気付いていた。


(とは言え……相手は創世神。生半可なマジックをした所ですぐにタネを見透かされる気しかしない……やるなら想像を超えるようなマジックの1発本番……!!)


永作が頭を高速で回転させている途中で、アルフディネアは話し出した。


「さて、じゃあ……勝負の説明をするわね」


「……説明?」


アルフディネアは何処からか一枚の銀貨を取り出し、それを永作に見せた。


「今、私の手元にあるこの一枚の普通の銀貨……これを私から隠し通す事が出来たなら君の勝ち。そして、私がこの銀貨を見つけたなら私の勝ち。勿論、私はありとあらゆる力を全力で行使してこの銀貨を見つけ出してみせるわ……それがこの勝負の内容よ」


「……え」


頭の中でどんなマジックで戦うか考えていた永作にとって、その説明は余りにも不意打ちだった。

まさかのコイン指定。

これにより、永作が披露出来るマジックの選択肢が一気に絞られてしまった。


「これぐらいの指定はさせて貰わなくちゃ。じゃないと何の試練にもならないし、それにこれは“勝負”でしょう?」


「うぐっ!?」


「何もかも永作くん有利にしちゃったらそれは違うじゃない」


「くぅ……!!」


正論。

全く持って正論を言い放ったアルフディネアに、永作はようやく冷や汗をかき出した。


「……だから言ったろう。この女は面倒なやつだと……」


デュークはやれやれと頭を振った。


「吐いた唾は飲めないね……分かったよ!その勝負内容で俺は何一つ文句はありません!!」


「ふふふ……そう。ならこれで行くわね♪」


「その前に!!」


早速勝負を始めようとするアルフディネアを永作は止めた。

アルフディネアの言葉を遮った事に、コッコペリーノとアルセーヌはびくりと大きく反応を示したが、当の本人アルフディネアは対して気にした素振りは見せていなかった。


「どうかしたの?」


「えぇ。その銀貨、改めさせてください。勝負を始める前からモノに細工されてたんじゃ話しにならないでしょう?それが卑怯等とは全く思いませんし、戦略としては全然ありだとは思いますが……俺には通用しませんよ」


永作のその意見にアルフディネアは少しだけ考える素振りを見せてから、一つ頷いた。


「……確かにそうね。良いわ…何も仕掛けはしてないけど……なんならそこにいるバカデュークにでも見せて調べて貰いなさい」


「……どうも」


永作はアルフディネアから銀貨を受け取ると、それをまじまじと眺める。


(……俺が見た限りじゃ何の違和感も無いただの銀貨だな……やっぱりデュークに見てもらった方が良いか)


「デューク!」


「……ん」


次に永作は銀貨をデュークに手渡した。

銀貨を受け取ったデュークは銀貨からアルフディネアの方へ視線を移す。


(……特に感情の変化は読み取れん……動揺は一切無しか)


再びデュークは銀貨の方へと視線を戻すと、光に当てたり角度を変えたりして仕掛けが無いか確かめた。


「……ふん」


「おわっ!?」


確かめ終わったデュークは銀貨を軽く放り投げて永作へ渡したが、突然投げられた事に反応出来ず、永作は銀貨を上手く受け止められずに床に落としてしまう。

慌ててそれを拾った永作はデュークへジト目を向けた。


「いきなり投げないでよ!俺反射神経ゴミなんだから!」


「……それは悪かったな。その銀貨は何も仕掛けは施されていない……普通の銀貨で間違いないぞ相棒」


「もう良いかしら?」


永作とデュークのやり取りをつまらなそうに見ていたアルフディネアだったが、長引きそうだと感じた瞬間に口を挟んだ。


「えぇ大丈夫です」


とは言え、アルフディネアが口を挟んだのは丁度良いタイミングだったので、永作はアルフディネアに銀貨を手渡そうとする。

しかしアルフディネアは首を横に振り、左方向へ指を指す。


つられて永作がその方向を見ると、いつの間にかテーブルがそこには置かれていた。


「そこのテーブルの上に銀貨を置いて頂戴。置いたら永作くんと私は互いにテーブルから十メートル離れる。離れたのを確認したら…………そこの貴女!」


「は、はいっ!?」


突然アルフディネアに呼ばれてコッコペリーノは驚き、咄嗟に体が跳ね上がり直立してしまう。


「いつまでも頭を下げなくて結構よ。ここは私の創造した別世界……故に私が赦す限りは楽にしていて良いわ」


「わ、分かりましたアルフディネア様!」


体はカチコチだったが問題なく声は出せるコッコペリーノに、アルフディネアは優しく微笑み頷いた。


「それで良いの……それで貴女、私と永作くんが位置についたら勝負を始める合図をして欲しいの。それから永作くんには上手いこと私から銀貨を隠して貰うわ……出来るかしら?」


「出来ます!必ずや御期待に添えるよう全力を持って__!!」


「あ、そういうのは良いの。出来るならそれでオーケーよ♪」


長い口上を言いかけたコッコペリーノを遮ると、アルフディネアはウィンクした。

コッコペリーノは創世神とは当然ながらこれまでに面識は無く、厳格な存在だと想像していたのだが、さっきから割とフラットに接するアルフディネアにコッコペリーノは軽く混乱していた。


そこへウィンクなんて飛ばされよう物ならどうなるか。

答えは簡単。


「あわわわ……」


コッコペリーノの許容量は限界を迎えて脳内ショートを起こし、仰向けになってその場に倒れ込んだ。


「コ、コペりーーーん!?」


それに誰よりも驚きいち早く反応したのはアルセーヌだった。

アルフディネアと対面してから初めて言葉を発したアルセーヌは、慌ててコッコペリーノに近寄った。


「……あら、狸寝入りを決め込んでた子猫ちゃんがようやく喋ったわね…♪」


「ぎくっ!?」


アルセーヌがぎこちなく後ろを振り向くと、そこには玩具を見つけたと言わんばかりに、悪戯心に満ちた笑みを浮かべるアルフディネアがいた。


「それじゃあアルセーヌちゃん?コッコペリーノちゃんの代わりに合図をお願いね?」


「……ぁぃ」


「…………どんまい」


か細い声で頷いたアルセーヌに満足したアルフディネア、対して同情の言葉を掛けた永作。

二人はテーブルの上にコインを置いたのを互いに確認してから十メートル後ろへ下がった。


「うぅぅ……」


「……ルパン」


「アルセーヌちゃん?」


アルセーヌは落ち込み続けていたが、二人に呼ばれてようやく覚悟を決めた。


「えぇーい!!ではこれより永ちゃんvsアルフディネア様の!!バトルを開始します!!レディ……ファイト!!」


意外にノリ良くない!?

心の中で突っ込みを入れた後、永作は急いで銀貨の元へ向かった。

対してアルフディネアは一歩もそこから動かずに、永作の動きをじっと観察し続けていた。


(さて……永作くんはどう動くのか見物ね)


出来れば自分の想像を越えるようなマジックで思わず騙されてみたい物だ。

そんな事を考えていたアルフディネアだったが、永作は開幕初手からアルフディネアの想定外な行動を取った。


「……何しているんですかジュリ……アルフディネアさん?貴女もこっち来てくださいよ」


「……へぇ?」


「……ふっ」


その言葉にアルフディネアは驚き、デュークは鼻でアルフディネアを笑った。

マジックにはタネや仕掛けがあり、それが相手にバレてしまえば一気に魔法は解ける。

だからこそ、永作はなるべく自分から距離を稼ぎたがる筈……というのがアルフディネアの読みだった。


「もっと近くに来ないと良く見えませんよ?」


ところがその読みはいきなり外れた。

創世神であるからにはマジックについては良く知っているし、自分でも幾つか簡単な物は披露する事が出来る。

だからこそ、この想定外な出来事はアルフディネアをその気にさせた。


「ふふ……面白いじゃない……。なら遠慮なく近くに来させて貰うわ」


そう言うとアルフディネアは歩き出し、永作の目の前まで来た。

互いに僅か一メートル弱の距離しか空いておらず、これは永作が少しでも変な事をしよう物なら即座に分かる距離だ。


だが、永作は特に焦りの表情を浮かべる訳でも無くアルフディネアが近くに来た事を確認してから動き始めた。


「それで?何を見せてくれるの?」


「……あのー、何か凄い事期待してません?それなら申し訳無いですけど俺がするのは簡単な事ですよ」


「……簡単なこと?」


アルフディネアが問いかけるのに対し、永作は頷くと銀貨を拾う。

それから銀貨を持ったまま左手と右手を後ろに隠し、左手と右手で二つの握り拳を作ると、アルフディネアの前へ差し出し口を開いた。


「さぁどっちだ?」


「!!」


「……」


「永ちゃん!?」


永作の突然の行動にアルフディネアとアルセーヌは明らかに動揺した。

そんな簡単な手が通じる訳が無いと焦るアルセーヌ。

そして__


「永作くん……きみ、焼けになってないかしら?ちゃんと冷静に考えてるの?」


想像してたよりも明らかにしょぼい手を打ってきた永作に、アルフディネアは面食らっていた。

が、


「勿論、大真面目ですが?これでアルフディネアさんが当てたらアルフディネアさんの勝ち。外したらアルフディネアさんの負け……実に分かりやすいでしょ?」


なんてことの無いように永作はそう言ってのけた。


「そこまで言うなら…良いわ。それで勝敗を決めようじゃない」


「えぇ。さぁ……どっちでしょう?」


アルフディネアは永作の差し出された右と左の握り拳を交互に見つめる。

そして、答えを決めたアルフディネアは静かに指をさした。

指さされた先にあったのは__


「銀貨はそこにあるわね?」


___永作のズボンの右ポケットだった。


「え、えーと……この右手と左手から選んで貰うんですけど……」


「そうなの?……けど、その両手の中には銀貨は無いわよ?」


アルフディネアは余裕の態度を崩さずにいるが、対する永作はアルフディネアがズボンの右ポケットを指さした瞬間、冷や汗をだらだらとかき始めていた。


「あ、ありますよ!?ズボンのポケットの中には銀貨なんて入っていませんよ!?」


それでも必死に永作は言い続ける。

それを見ていたデュークは無言、アルセーヌはこれはマズイ状況だと気付いたのか、おろおろし始めた。


「……私、嘘は嫌いなのよ?勝負が始まった直後に銀貨には追跡の魔法を掛けて置いたの。それに、この世界は私以外の存在は魔法を使用出来ないように創造した世界………まず私の追跡魔法が妨害される事は無いわ」


心無しか、更に永作の顔色は悪くなったように見えた。


「ねぇ…デューくん……これってヤバいんじゃ…?」


小声でアルセーヌはデュークに話し掛ける。

しかし、デュークは短く一言__


「…………さぁな」


__とだけ呟いた。

その間も永作は奮闘し続ける。


「本当に右手と左手のどっちかに銀貨はあるんですって!!」


「……はぁ」


しかし、アルフディネアは既に永作の言葉を聞く耳は持っていなかった。

短くため息を吐いたアルフディネアが手を横に一閃すると、永作のズボンの右ポケットが破けた。

そして___


「あぁっ!?」


___その中から一枚の銀貨が出てきた。

……出てきてしまった。


「……っ!!」


永作は歯を食いしばり、悔しそうな表情を浮かべる。

アルフディネアは銀貨を拾い上げると、また短くため息を吐いた。


「はぁ……ま、普通の人間は所詮こんな物よね。期待するだけ損だったわ……嘘までついてこの結果……本当に残念よ」


先程までとは違いアルフディネアは一切笑っておらず、永作の事を冷えた目で見つめていた。

永作の表情は俯いているせいで良く見えなかったが、アルフディネアには関係のない事だった。


「ご……ごめんなさ……い」


全く関係ないだろうに、アルフディネアの明らかな不機嫌オーラを感じ取ったアルセーヌは謝罪の言葉を泣きそうになりながら口にした。


「あぁ……本当に残念だったな……」


おまけに、デュークはアルフディネアの言葉に便乗した。

そしてアルフディネアの手元から銀貨を自分の手元に寄越させると、デュークは口を開いた。


「わざわざ魔法まで使って……こんな物を選んでしまうんだからな……」


「………………なんですって?」


それは何かの煽りなのだろうか。

そう受け取ったアルフディネアはデュークを睨みつけるが、それはおおきな間違いだった。


デュークが徐に銀貨を引っ掻いた瞬間、銀貨の表面が剥がれ落ちる。

剥がれた箇所から何やら茶色いものが顔を覗かせていた。


「まさか一個銅貨一枚の……玩具のコインチョコを選ぶなんてな……」


「チョ、チョコ!?」


それを聞いたアルフディネアは慌ててデュークの手元からそれをひったくり、手で擦って確かめる。

すると、みるみる内に銀紙は剥がれていき、銀貨模様の茶色いチョコレートが現れた。


「ま、まさか!?」


それを確認した瞬間、すぐにアルフディネアは永作の方へと顔を向けた。

そこには、勝ち誇った笑みを浮かべながら右手を開き、その中にある銀貨を見せつける永作が立っていた。


「ね?俺、嘘なんて吐いて無かったでしょ?」


「有り得ないっ!?一体いつ!?どのタイミングでそれを!?」


創世神の目を欺いて偽物をアルフディネアに掴ませた。

一体どんな手を使えばそんな事が可能だと言うのだろう……。

その答えを永作は話し始めた。


「俺はね、常日頃からマジックに利用出来そうな物は肌身離さずに持ち歩いているんですよ。そのおやつのコインもそうです。……いつでも誰かを楽しませられるようにね」


「…………」


「すり替えたタイミングですけど……デュークが本物の銀貨を投げて寄越した時ですよ。あの時、アルフディネアさんには……俺は上手く銀貨をキャッチ出来ずに手で弾いてしまって、床に落としてしまったように見えていたでしょうね」


アルフディネアは頷いた。


「でもそれは違います。本当はキャッチ出来ていました。あたかも失敗したように見せかけて、俺は偽物を床に落とし、そっちをアルフディネアさんには手渡しました。そして、勝負が始まった時に俺はアルフディネアさんには見えないように偽物の銀貨をポケットに入れた。……本物の銀貨は最初からずーっと右手に握っておいたまま……ね」


それが今回のタネですよ。


そう言い放った永作に今度はアルフディネアが冷や汗をかいていた。

都合良く偽物を持っていた幸運か、もしくは度が過ぎた常日頃からの準備。

そして、咄嗟の偶然の出来事を利用した仕掛け。


その全てを使って見事自分を欺いてみせた永作という人間には、舌を巻いて驚くしかなかった。


「こんな人間が……この世にいるなんて……ね」


これが圧倒されるという事なのか。

デュークは、自らが望んでいた想像を越えた結果に興奮して動けずにいたアルフディネアに対して、一言告げる。


「お前の負けだ……バカ女」


「…………えぇ。どうやらそうみたいね」


バカ女と呼ばれ、そう返したアルフディネアだったが、不思議とこの瞬間だけは腹が立たなかった。

むしろ清々しい気分でもあり、デュークから見た今のアルフディネアは爽やかな微笑みを浮かべていた。




アルフディネア「……もぐもぐ。……このチョコ普通に美味しいじゃない♪」


創世神のお墨付きを貰ったコインチョコ。

天界ではしばらくの間、そのコインチョコがお茶請けとして大流行する事となるのだった。

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