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アイ・アム・トリックスター  作者: 山野井 テリー
6/9

女神の挑戦状①

仕事の都合で一週間遅れになってしまいました……。

ごめんなさいです(。>ㅅ<。)sorry…。

あと、デュークの武器を大太刀から二本の刀に変更、前話修正しました。

引き続き、応援よろしくお願いします!


「おい!!あれがもう一人の勇者、山田 永作か!?」


「すげぇ!!本当にこのギルドにいるのか!!」


「おい見てみろ奥!!デューク・ゾディアーク…刀神様までいるじゃねぇかっ!?」


「ほ、本当だ!?……お、恐ろしい……」


永作が異世界に召喚されてから4日目の朝、少し運動してこようと玄関扉を開けた瞬間、とんでもない人集りが門の前に集まっていた。


誰も彼もが次々と騒いでいるせいで、何と言っているのか永作の脳みそでは処理しきれていない。

聖徳太子ならば聞き取れたのだろうか…。

何てことを一瞬だけ考えた後、冷静に戻った永作はすぐに玄関扉を閉め、談話室へと逃げ込んだ。

そこでは丁度、朝食を食べ終えてからソファで寛ぐアルセーヌの姿があった。


「ルパン!!何あれっ!?」


「うん。おはよう永ちゃん」


「うん、じゃ無いよ!?何なのあの人集りは!?」


アルセーヌはのほほんとしたまま、ゆっくりと永作の方へ顔を向けた。


「そりゃそうなるよ永ちゃん……あのデューくんがギルドに加入…しかも異世界から来た歴代最弱の勇者とコンビを組んだなんて……もうとっくに世界中で大騒ぎになってるよー」


「世界中!?」


まだ一日しか経過していないのに、もう世界中で話題になっている事実に、永作は軽く目眩を覚えた。

いくらなんでも早すぎる。


「……何を騒いでいる?」


そこへ遅れて、ロビーで掃き掃除をしていたデュークがやってきた。

永作とアルセーヌを交互に見た後に首を傾げる。


「正直言って舐めてたよ…まさかデュークがここまでビッグネームだったなんて…」


「だから言ったじゃないですか」


呟いた永作に、包みや手紙が大量に入ったワゴンを押しながらやってきたコッコペリーノが返した。

一瞬だけ、箒とちりとりを手に持ったデュークを見てぎょっとしていたが、すぐに元に戻った。


「コッコペリーノさん?どうしたんですかそれ?」


永作がワゴンを覗きながら問いかけると、コッコペリーノは一枚の手紙を永作に手渡しながら答えた。


「これ全部、国内のギルドとバカ貴族達から贈られてきた物ですよ。あと、永作さん宛が二通です」


「…俺に?」


首を傾げながら差出人を確認すると、一枚目は杏果からだった。

二枚目はジュリア・フィーネスと書いてあったが、そんな人物は知らない。


「取り敢えず杏果さんの方から見てみようかな」


永作は知らない人物からのは後回しにして、まずは杏果の手紙から読み始めた。


山田 永作 様。

私達がこの世界に来てから4日経ちましたね。

王宮での異世界生活は何もかもが自分の常識と違っていて、いつも驚かされてばかりです。

でもそれより、なによりも私を驚かせたのは貴方でした。

なんでそんなに凄い人と仲良くなっちゃっているんですか?

永作さん…私が初めてその話しを聞いた時、どれだけ驚いたか分かりますか?

お陰様で腰を抜かす、という言葉が比喩でも何でも無いという事を知れました。

貴方だけは味方だと思っていたのに、あっという間に遠い世界へ旅立たれてしまい、私は少し悲しいです。

一体全体どういう事なのか説明して欲しいです。

__伊織 杏果。


「………」


永作は無言で手紙を畳むと、ポケットの中へ静かに、隠すように入れた。


「もう一人の勇者様は何と仰っていたのですか?」


「俺は……何も見てませんよ」


不思議そうに問いかけるコッコペリーノに対し、永作は実に爽やかな笑顔でそう答えた。

そこから大体の内容を察したコッコペリーノは苦笑いして、これ以上は突っ込まないようにと気を利かせた。


「それよりも…もう一通の手紙ですよ。コッコペリーノさん宛じゃ無いならルパンかデューク宛なんじゃないの?」


永作は二人の方を見たが、アルセーヌとデュークは揃って首を横に振った。


「ジュリアって人は知らないよー?」


「俺の知り合いに…手紙なんて出す程律儀な奴はいない…どいつもこいつもアポ無しのバカばかりだ………あぁ、お前は例外だぞ相棒…」


「あ、あぁ…うん。ありがと」


デュークの知り合いって結構大物そうな気がするけど、それは今放っておこう。

とりあえずはこの手紙は俺宛で間違い無いよな。

……開けてみるか。


永作は封筒を開けて手紙を読み始めた。


拝啓 山田 永作 様。

初めまして。

突然の手紙で驚いたかな?

私はジュリア・フィーネス。勿論、君とはまだ会ったことは無いよ。

あの馬鹿デュークを負かしたって聞いて興味が湧いたから、近々会いに行くね。よろしくね!

___ジュリア・フィーネス。


「なんだこれは?どういう事?」


手紙を読み終えて永作は首を傾げた。


「なんか馬鹿デュークとかこの人書いてるけど……ねぇデューク?やっぱりデュークの知り合いだったりしない?」


「…………ちょっと見せてみろ」


“馬鹿デューク”。

その言葉を聞いてアルセーヌの顔は一瞬だけ引き攣り、コッコペリーノは若干青ざめていたが、特に気にする事は無くデュークは手紙へとしばらく視線を落としていた。


「……まさか、な…」


「え、やっぱり心当たりある?」


手紙を永作に返しながらデュークは答えた。


「………面倒な奴に目をつけられたな……せいぜい備えておけ……」


「面倒なやつ……?」


世界最強の男が面倒だと言うような人って……なんだろう。

すごく嫌な予感しかして来ないんだけど。

出来れば平和にこの世界では過ごして行きたい永作にとっては、頭が痛くなるような話しだった。


「面倒なやつとは失礼ね!」


その時、何者かの声が談話室に響き渡った。


「誰っ!?」


驚いて声のした方向へ振り向いたコッコペリーノの頬に、誰かの人差し指が当たった。


「あはっ引っかかったね!」


薄い桃色の長い髪に、金色に輝く瞳を持った絶世の美女と形容できる美しい女性が、笑いながらコッコペリーノの頬をつついていた。


「だ、誰ですか!?何処から入ってきたんです!?」


「まぁまぁ、そう慌てないで…はいコレどうぞ♪」


狼狽えるコッコペリーノを宥めながら、謎の女性はコッコペリーノに、お菓子が入った箱を手渡した。


「あ、どうも」


「いえいえ」


「って!そうじゃなくて!」


___遊ばれている。

二転三転、コロコロ表情が変わるコッコペリーノと、そんな彼女を薄く笑いながら見ている女性を見て、永作とアルセーヌは同時にそんな事を考えていた。


「と、いうことで初めまして♪私がジュリア・フィーネスよ。手紙は読んでくれたようね…山田永作くん?」


「あ、はい」


今さっき読み終えたばかりの手紙の事を思い出す永作に、ジュリアは微笑みながら近付いてくる。

しかし、即座にそれに気付いたデュークが二人の間に割って入った。


「……あらあら」


「…………」


常に無表情でいるデュークが少しだけ睨みを効かせ、穏やかに微笑んでいたジュリアの笑みから、言いしれない威圧感が漂い始める。


コッコペリーノは胃が痛くなったのか、お腹を押さえており、アルセーヌは既に寝たフリを決め込んでいた。

永作も、異様な場の空気を感じとっており、嫌な汗が一つ流れ落ちる。


__そんな状況下でまず最初に声を発したのはデュークだった。


「久しぶりだな……バカ娘」


「……えぇ。久しぶりね。バカデューク」


「……何の用だ?」


「貴方に用は無いのよ?……邪魔」


「……口は災いの元……知っているか?」


「へぇ……?」


一言二言重ねる度に、両者はどんどん険悪な雰囲気になっていく。

このまま放っておくと何かまずいと察した永作はいち早く動いた。


「ちょ、ちょっと待って!えーと、俺に用事があるんですよね?ジュリア・フィーネスさん?」


「えぇそうよ。あと、ジュリアで構わないわ」


「…………」


永作が動いたお陰で、どうやら重かった場の空気は元に戻った。

コッコペリーノが胸を撫で下ろす一方で、デュークは静かに警戒し続ける。


「ではその、ジュリアさんは……俺に一体何の用でここへ?」


「依頼よ」


「い、依頼!?俺に!?」


「そう。君に」


怪訝な表情を浮かべるデュークの横を通り過ぎて、ジュリアは微笑みながら永作の胸を、人差し指で軽く叩いた。


「ちょっと待ってください!永作さんは確かに正真正銘の勇者で間違いありませんが、全くもって力の無い……世界最弱とまで言われる程度なんです!!何かの依頼を受けられる程の力なんて……」


同調するように頷く永作だったが、それと同時に情けなくて涙が出てきそうになっていた。

憐れむような視線を向けてくるデュークも、その点については事実すぎてフォロー出来る余地が無い。


「そうかしらね……?」


「……え?」


しかし、ジュリアのそれを否定するような一言に、コッコペリーノは短く戸惑いの声を漏らした。


「確かに王宮で可視化された永作くんのデータではそのようになっているわ。でも……彼は世界最強と呼ばれる男を負かし、更には対等な位置に立つという偉業をやってのけた。……これも事実よね?」


「それは……確かにそうですけど……」


コッコペリーノは永作の方をちらりと見る。

これも事実なので、永作は言い返せる言葉は無く、諦めて首を横に振った。


「でもですね、受けられる依頼とそうでない依頼だってありますからね?」


それでも一応念を押しておく。

どうしても無理そうな話しなら断れば良い。それだけだ。


「ふうん?……だったら問題ないわね」


が、ジュリアはそれでも余裕な態度を崩す事は無かった。


「……と、言うと?」


またもやな嫌な予感を感じながら、永作はジュリアに尋ねる。

ジュリアは微笑みながら答えた。


「依頼内容は簡単♪デュークにしたように、この私を負かすこと。ね?簡単でしょ?」


「えぇぇぇぇぇぇぇーっ!!?」


さらっととんでも無いことを言い放ったジュリアに、永作は思わず素っ頓狂な叫び声を上げた。

コッコペリーノは口をあんぐり開けたまま固まり、アルセーヌはぴくりと反応したものの、寝たフリを継続し、デュークの目付きが少しだけ鋭くなった。


デュークの対等な付き合いが出来る永作だからこそ思えた事なのだろうが、この時のデュークはまるで飼い主に害をなそうとする敵に威嚇している猫のように見えていた。


「……おい。ジュリア・フィーネス……永作に害を加えると言うなら……相応の覚悟はあるんだろうな?」


デュークは刀の持ち手を握り、次の瞬間には抜刀し、ジュリアに斬りかかるのでは無いかと思える位、威圧感を放つ。

しかし、次のジュリアの一言でデュークの威圧は一気に何処かへと消え失せた。


「“マジック”。それが永作くんが最も得意とする技術らしいわね?」


「えっと……はい、まぁそうですね」


デュークとの勝負において唯一の勝因。

逆に言えば、永作にはそれでしか誰かに勝てる程の物は無かった。


「勝負は永作くんの土俵で行うわ。即ち、マジックによりこの私を負かす事が出来るかどうか……これなら“対等”な勝負になるんじゃないかしら?……デューク・ゾディアーク?」


皮肉気に笑うジュリアに、デュークは拗ねたようにそっぽを向いた。


「……ふん」


……そう来たか。


「永作さん?あの……無理に受ける必要は無いと思いますよ……?」


「……断れ相棒。この女は胡散臭い……相手にするな」


ルパンは……本当に寝てしまっているな。

コッコペリーノとデュークは永作に乗る必要は無いと、言葉を投げ掛けるが永作はその言葉に素直に従う事は出来なかった。


山田永作にとって、マジックとは云わば己の存在、命の全てを掛けて一流以上までに昇華させた技術。

即ち、たった一つだけの譲れないプライドなのだ。


故にわざわざ永作のフィールドで闘うと言ってのけたジュリアに対し、退くという行為はその全てを否定してしまう事になる。

……それではようやく始めようとした本当の人生、デュークとの約束が果たせなくなる。

ここは何が何でも勝負を受けて立ちたい。


……しかし、コッコペリーノやデュークまでもが受ける必要は無い、むしろ受けるなとまで言われて、永作の中に僅かな迷いが生まれていた。


そして、それを微笑みながら見ているジュリアはまるでそんな永作の全てを見透かしているようであった。


「すぐに答えは出ないようね……?……それに、そこの貴女、コッコペリーノと言ったかしら?受ける必要は無い……そう言ったわね?」


「!!……えぇ。依頼というのは受ける受けない、その二択から選べる権利があります」


その通りだ。

そう言わんばかりに、ジュリアは満足そうに頷いた。


「……そうね。だったら依頼は取り下げるわ」


「!?そうですか!……良かったですね永作さん__」


「代わりに__」


__次の瞬間、世界が変化した。

永作、コッコペリーノ、アルセーヌ、デューク、ジュリア、ギルドの談話室にいた筈の五人は、一瞬にして広大な宇宙空間のような次元に飛ばされていた。


ような、と表現したのは宇宙空間にしてはしっかり重力が感じられ、果たして本当に足場なのかも分からない所に足を着け立っている。

銀河や流れ星、散らばる星々がいくつも見えるが、しっかり呼吸も出来ていた。


__一体この状況は何なんだ!?


「な、何ですかこれはっ!?」


「え、な、何!?何が起きたの!?」


永作、コッコペリーノと眠りから一気に目覚めたアルセーヌは困惑から騒ぎ出す。

一方、デュークは静かに腕を組んで無言で立っていた。


「……やってくれたな……バカ娘が……」


「え!?これ……まさかジュリアさんの仕業!?」


呟いたデュークの言葉に反応し、聞き返してきた永作には目を向けず、デュークはある方向を静かに睨む。


「“力”を見せた以上……もうジュリア・フィーネスはただの偽名だ……あの女の本当の名は……」


その場にいる全員が、デュークの睨む方向へ視線を向けた。


「……アルフディネアだ」


そこには、金色に輝く六枚の翼を持った、ジュリア・フィーネス……否、アルフディネアが立っていた。


「アルフ……ディネア……?」


「……っ!!」


「っ!?」


聞いた事の無い名前に棒立ちになる永作とは別に、コッコペリーノとアルセーヌは瞬きするよりも早く、アルフディネアに向けて平伏した。


それを見た永作は言葉が出てこない程に驚き、口を開けたまま固まる。


何が何だかまるで分からない事が、次々と起こっている。


「ど、どうしたんです!?コッコペリーノさんっ!?ルパンっ!?」


「永作さんっ!!」


あわあわとする永作に、コッコペリーノは鋭い声を発した。


「この御方は!!アルフディネア様はこの世界を創り出した三大創世神様の内の一人!!この世界の基礎を創世された御方です!!」


「へぁっ!?」


「創世神様を前にただ立っている等不敬千万!!早く永作さんも!!」


「え!?ちょ、ま、え、ちょ!?」


捲し立てるように早口で言われても脳内処理速度は追いつかない。

というか、それだけ言うのに何故デュークは普通に立っていて、しかも睨みつける事まで出来ているのだろうか…。


「その必要は無いわ…」


どうすれば良いのか訳も分からずにいる永作に対して、アルフディネアは静かに告げ始めた。


「さて…では先程言ったように依頼は取り消し…。代わりに山田永作くん、君に試練を与えるわ」


「……試練」


永作はごくりと唾を飲み込んだ。

圧倒的に格上とハッキリ分かる故の緊張に、永作の手のひらには嫌な汗が滲み出す。


「この私、創世神アルフディネアを……見事打ち負かして見せなさい。世界最強を欺いた……君のマジックでね」


「……まじかよ」


異世界の最高峰の神様を相手に、まさか自分がマジックで闘う事になろうとは予想だにしていなかった。

〜今朝の王宮・杏果side〜


使用人「勇者様。本日の新聞をお持ちしました」


杏果「あ。ありがとうございます!」


そこで杏果が目にしたのは、デューク・ゾディアークと山田永作がコンビを組んだという記事だった。


杏果「……えーと、このデューク・ゾディアークって人は有名人なんですか?」


使用人「!?も、勿論でございます!天界、魔界、人間界、この世の全てにおいてその名を轟かせる、世界最強の剣士様ですよ!!」


杏果「え……えぇぇぇぇぇぇ!?世界最強ぅっ!?」


使用人「はい!」


杏果「それを負かしたって……永作さんどういう事ぉぉぉ!?」



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